第5話 ボスはどいつだ!え!?こいつなの!?
「では行くぞ、全軍突撃ぃいいいいい!」
総大将の号令を受けて、草原に集まった冒険者たちと兵士は一斉に駆けだした。
作戦も何もない力推し。
これがこの世界の戦い方なのか、それとも冒険者たちを含む烏合の衆では統率の取れた動きは無理だと言う判断か。
どっちにしろ、こっちのほうがわかりやすくていい。
レンガ造りの巨大な砦の周囲に布陣した魔王軍も、臨戦態勢に入る。
魔王軍の兵士は、名前は知らないけどオークとかトロールという名前を連想する連中や、頭が動物の戦士が多かった。
一部、人間とそう変わらない外見の奴もいるけど、そうした輩も頭からツノとか背中から翼が生えている。
人間は視覚情報に支配される。
ルッキズムが叫ばれる時代だが、あまり人間に近い姿の奴とは戦いたくないと思った。
――なら、狙うのは獣人系かな。
俺は周囲1キロメートルの素材を回収するよう設定したまま、牛頭の巨漢ミノタウロスたちのいる部隊へ突っ込んだ。
強化スーツを着た俺の走行速度は飛びぬけており、いの一番に接敵した。
「通らせてもらうぞ」
「!?」
ミノタウロスが反応できない速度で距離を詰め、そのままショルダータックルでぶっ飛ばす。
ぶっ飛ぶ途中で絶命したのだろう。
放物線を描いている途中で姿を消し、俺のストレージに加わった。
他のミノタウロスに動揺が走り、巨大なバトルアックスを握りしめたまま身を硬くしている。
原因は仲間の死か、俺の強さか、その両方か。
どちらにせよ、俺の決定は変わらない。
「悪いけど、お前ら全員ボコるから」
俺が左右の拳を打ち鳴らすと、ミノタウロス達は一斉に襲い掛かってきた。
◆
その頃、恭二とは離れた場所に布陣した高校生たちは、予期せぬ苦戦に苛立っていた。
「くそ、思ったよりも強いな」
「ちっ、レベル1だからか」
「こんなことならあたしも罪人殺しとけばよかったかな」
「だよね。日本ならあり得ないけど、この世界だと罪人殺しても無罪っぽいし」
レベル6で剣聖スキルを持つ刈谷と賢者スキルを持つ高村を含む、トップ5を自称する生徒は順調にゴブリンやオーク、トロールたちを殺している。
一方で、他の生徒たちは一体倒すのにも時間がかかっている。
チート無双展開を期待していただけに、彼らのストレスは溜まる一方だ。
高村も不満気だった。
「なんだよ、賢者スキルで全属性全タイプの魔術が使えるってのに、レベル6のMPじゃ小技しか使えねぇじゃん。幸いMPは自動回復するけど、中級魔法の連発は無理だな。ん? はぁ!?」
遠くの光景に、高村は顔をひん曲げて驚いた。
◆
ミノタウロス部隊を全員殴り倒した俺は一息ついた。
ちなみに武器を使わない理由は単純、刃物は血が飛び散ってグロいからだ。
それに、俺は武器を使う訓練をしていないので、なんだかんだで拳が一番楽だったりする。
「ん~」
ミノタウロス部隊が全滅したことで、左右の別部隊がこっちに来ている。
ここで両軍を待ったり、両軍の間を行ったり来たりするのは面倒くさい。
そこで、俺はちょっと閃いた。
ミノタウロスの死体と装備は全て回収済み。
その斧を加工して、長さ1メートルの鉄の棒を創造した。
それを投げやりの体勢で敵目掛けて投げた。
強化スーツの出力で投げた鉄棒は、音速を超えてベイパーコーンと呼ばれる白いスカートをまといながら甲高い音を立てて大気を疾走。
右から迫っていた魔王軍を貫通、ストレージ送りにしてから、巨大な土砂を巻き上げた。地面に落ちたらしい。
「おー、陸上経験ないけど、48レベルの運動神経だと狙った通りに行くな。じゃあどんどん行くか」
投げた鉄棒をストレージに回収しつつ、俺は次々鉄棒を創造、片っ端から投げまくった。
音速を超えて飛来する重さ10キロの鉄の棒、それが連射されるとあっては、流石の魔王軍も形無しだ。
俺の左右から迫っていた軍隊は瞬く間に壊滅、逃げて雲散霧消した。
「さてと、じゃあ門を開けるか」
砦を囲む城壁には、東西南北四か所に門がある。
俺が攻めているのは南側、高校生たちが攻めているのは東側らしい。
東門を守っていた魔王軍は門を開け、砦の中に避難している。
けど、俺にそんなものは関係ない。
俺は城壁の上から射かけられる矢をもろともせず、門に体当たりをかました。
木製の門をあっさりと粉砕して、砦の敷地内に入った。
敵は俺の姿を目にすると、砦の中に逃げていく。
「逃がすか、ていうかあれ? そういえば敷地内の備品がストレージの中に入らないな」
敷地内のものは他人の管理下にあるという扱いなのか。
けど、近くに落ちていた矢筒をストレージに入れようとすると収納できた。
――敷地内や建物の中のモノは、一つずつ指定しないと収納できないのか。
ただし、それとは関係なく、俺はストレージの自動採集機能をオフにした。
今気づいたのだが、味方の死体や装備を採集したら怖い。
採集できるものは何でも片っ端から採集、なんて欲張るのはやめよう。
でないと、いつか痛い目に遭いそうだ。
それから、遅れて俺と同じく南側を担当した兵士や冒険者が追いついてきて、俺がぶち破った門から一斉に砦内に雪崩れ込む。
俺も、ボスの居場所を探して砦の中を駆け回りながら、魔王軍兵をストレージ送りにしていった。
それからおよそ二時間後。
強化スーツの身体能力で砦の中をしらみつぶしに探し回ると、北棟の建物の広間から若い叫び声を聞いた。
急いで壁をぶち破るとそこは広間で、満身創痍の高校生たちが膝を屈していた。
刈谷と高村も、疲労困憊、気息奄々のありさまだ。
確かに生意気でムカつく連中だけど、傷だらけの高校生の姿に、俺は眉をひそめた。
「なんだニンゲン! 援軍かぶがぁっ!?」
近くにいたドラゴン頭野郎を裏拳でぶっ飛ばしてから、鬼気迫る勢いで叫んだ。
「ボスか!? 敵はどこだ!? ここから先は大人に任せろ!」
高校生たちは目を点に、口をぽかんとしながら、ゆっくりと同じ方向を指さした。
その先を視線で追うと、血を吐いて床で痙攣するドラゴン頭が転がっていた。
「……あー、こいつか」
次の瞬間、ドラゴニュートっぽいそいつはストレージに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます