第3話 お願いだから冒険者ギルドに入ってください!

 その日の夜。


 ビジネススーツの破片をストレージに回収、創造スキルで新品同様に作り直した俺は、冒険者ギルドに戻った。


 カウンターには、昼間に目にした受付嬢が座っていた。


 途中で交代を挟んでいないのだとしたら、ギルドはとんだブラックだ。


「あ、先程の」

「覚えていてくれたんですか?」

「えぇ、珍しい格好ですから」


 くすりと笑われて、ちょっと恥ずかしくなった。


「それでですね、森で素材を採集したので買い取って欲しいのですが」

「はい、ではカウンターにどうぞ」

「いえ、それが大量にあるので、できれば広い場所のほうが」

「収納系のスキル持ちでしたか。ではこちらへどうぞ」


 受付嬢に案内されるがまま、俺はギルドの奥へと移動した。


 ギルドの奥はガレージのようになっていて、解体作業用と思われる道具が揃っていた。


 壁にはシャッターのように巨大な門が設えられている。


 きっと、大型モンスターの死体を丸ごと搬入したりするのだろう。


「じゃあ、ちょっと離れていてくださいね」


 言って、俺はストレージから今日の収穫、その、ほんの三割を出した。


 雪崩のようにして現れたモンスターの死体の山に、受付嬢が悲鳴を上げた。


 次いで、ドタドタと騒がしい足音がして、とある女性が乗り込んできた。


「なにごとだい!?」


 姿を見せたのは背が高く、燃えるような赤毛をポニーテールにまとめた、野性味あふれる女性だった。


 服装こそ商人が着るようなシャツにチョッキだが、ギルド職員、というよりも冒険者の風情だ。


「ギルドマスター、それがこちらの方がこれを」


 モンスターの死体の山に、ギルドマスターの女性もぎょっとした。


「これは、巨猪エンテロドンにロングフェイスベア、ブレードティガにギガントピテクス、モノクロームベア、どれもレベル40以上、Bランク冒険者推奨のモンスターじゃないか! それがこんなに!?」


 実際はその三倍以上だ。

 残り7割は、俺が創造するときの素材として使いたい。

 あと、一度にたくさん売ると値崩れして安く買い叩かれるかもしれないからだ。


「これは、全部君一人で?」

「はい」

「見ない顔だが、別の国の上級冒険者か?」

「いえ、無職の旅人ですよ。冒険者ギルドには未登録です」

「なら、是非冒険者になってくれ! 君ならすぐにAランク冒険者になれるだろう! そうなれば金も名誉も思いのままだぞ!」


 俺が返事をするや否や、ギルドマスター、略してギルマスの女性は詰め寄り懇願してきた。

 が、その期待には応えられない。


「残念ですが、組織に所属するのは嫌いなんです。しがらみが増えるし縛られるのも嫌です。そもそも、この国にだって長居するかわかりません」


 何せあのDQN王が治める国だからな。


「どうしても駄目か?」

「どうしてもです。100回誘われても100回断ります」


 悪いとは思いつつ、食い下がるギルマスの願いを断る。

 すると、彼女は口惜しそうに唇を硬くしてから握り拳を固めた。


「ならせめて、次の魔王軍との攻城戦クエストに参加してくれ!」

「俺、冒険者じゃないんですけど?」

「構わん! 今回だけの単発でいいから!」


 両手を合わせて懇願してくる様子にただならぬものを感じて、俺は腕を組み唸った。


「そんなに人手不足なんですか?」


「ああ。実は魔王軍に占拠された砦は国の重要拠点でな。此度の攻城戦は国の威信をかけた拠点奪還戦だ。王都を含め、国中の街の冒険者ギルドから腕利きの冒険者が集まる。だが、王都の有力冒険者は今、別件で出払っている。だが我々も王都冒険者ギルドとしての矜持がある。なんとしても、他の街のギルドが派遣した冒険者には負けたくないんだ」


 言われてみれば、ここは王都、つまりは日本で言うところの東京、首都だ。


 本来なら、一番規模が大きく人材がそろっているはずだ。


 なのに、そこの冒険者が遅れを取ればこれ以上ない恥だろう。


 必死に頼み込んでくるギルマスの姿が、営業時代の俺自身と重なり、つい、仏心が出てしまう。


「わかりました。その代わり、今回だけですよ」

「助かる。感謝するぞ! では仮の冒険者証を発行する。君の名前は?」

「ああ、俺は薄井恭二、30歳のアラサーです」


 こうして俺は、生産系スキルなのに魔王軍との戦いに身を投じることになった。

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