第三章 冷酷皇帝は『花の乙女』に誓う①
ウォルフレッドに足の手当てをしてもらった翌日。
十数人もの貴族達が居並ぶ
顔の前に垂れたヴェール
正体を
そっと視線を動かせば、
古めかしい型の白い絹のドレスを着せられたトリンティアは、「『花の乙女』として謁見に同席せよ」と命じられ、わけもわからぬままここにいる。
『何も言わずに、ただ大人しく座っていろ。それだけでよい』
とウォルフレッドに命じられた通り、トリンティアは気を
貴族達がウォルフレッドに謁見を求めた理由は、約半月後に
「陛下のご
「ほう。それで、貴族どもに『天哮の儀』も満足に執り行えぬ新皇帝と
進言を途中で
進言した貴族が、「め、
「わたくしどもは陛下の
「なるほど。主人思いの臣下を得て、わたしは幸運だな」
ウォルフレッドがゆったりと
「でしたら──」
「だが」
期待を込めて開かれた貴族の口を、針のように
「おぬしらの心配は無用となった。ようやく『花の乙女』を得たのでな」
「っ!」
貴族達が
今すぐここから
「
不意に、あたたかく大きな手に右手を包まれる。
つ、と眼下の貴族達を見下ろす端整な横顔を、
「へ、陛下……っ! ひとつお聞かせくださいませ……! その『花の乙女』は、どちらで
信じられない──。そう言いたげな
「この乙女は、とある貴族がわたしに
「な……っ!?」
「お、恐れながら……っ。その『花の乙女』は、本物でございますか……!?」
「本物か、だと?」
ひやり、とウォルフレッドが発した
と、ウォルフレッドが握ったままのトリンティアの手を持ち上げた。ちゅ、と手袋
「わたしの目が節穴だと言いたいのか?」
トリンティアの指先に顔を寄せたまま、ウォルフレッドが
「望むなら、今ここで
「ひいぃっ!」
と、若い貴族が悲鳴を上げて情けなくへたりこむ。
椅子に座っていなければ、きっとトリンティアもへたりこんでいただろう。指先を握るウォルフレッドの手の力強さだけが、かろうじてトリンティアを現実につなぎとめている。
「おぬしらは、わたしがつつがなく『天哮の儀』を行えるか案じているようだが……」
貴族達を
「『天哮の儀』は予定通り行う。これは、決定
続いて「もう下がってよい」と告げたウォルフレッドの言葉に、
「ぶぁっはっは! いやーっ、見物でしたね! あの貴族どもの顔!」
ゲルヴィスが腹を
「お見事でございます。貴族達の間に的確に
「『花の乙女』さえ、わたしに渡さなければ、わたしが苦痛に
ウォルフレッドが人の悪い笑みを浮かべる。
「これで、勝手に
「しっかし、陛下もなかなかやるじゃないっすか~?
ゲルヴィスがからかうように唇を吊り上げると、
「甘い? 何をわけのわからんことを言っている?」
ウォルフレッドが
だが、トリンティアは三人のやりとりなど、ろくに聞いていなかった。
頭がくらくらする。サディウム
「
ウォルフレッドがトリンティアの右手を放す。大きな手が頭を
「おいっ!?」
トリンティアは、ウォルフレッドの手がほどけた瞬間、意識を失っていた。
● ● ●
握っていた手を放した途端、糸が切れたようにふらりと
「どうした!?」
呼びかけるが、返事はない。顔を
取り返せない、
「おいっ!?」
気を失っているだけ──。そうわかっているはずなのに、呼ぶ声が震え、ひび割れる。
生気を失った蒼白な面輪。血に染まった白いドレス。もう二度と、ウォルフレッドの名を呼ぶことはない
失った過去が、ウォルフレッドを
「大丈夫です。嬢ちゃんは気を失っただけです」
ぐっ、とゲルヴィスの分厚い手のひらがウォルフレッドの
「そう、か……。気を失っているだけか……」
自分自身に言い聞かせるように
「元々、度胸とは
「そうだな……」
くたりと力を失った
「しかし、このまま
「はい。あと三件ございます」
セレウスが
トリンティアの蒼白な顔を見るだけで、胸の奥が
昨日、傷つけないと
貴族達との謁見の際、
『
力を込めるだけで
「陛下?」
セレウスの声に、ウォルフレッドは思考の海から引き上げられる。今、考えなければならないことは、気を失ったトリンティアをどうするかだ。
ひとつ
隠し部屋の中は無人だった。ウォルフレッドには
昨日、トリンティアが待機していた部屋の
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