怒り

信じられない。信じられない。信じられない。あの、俺が憧れてた、庄内夏樹があんな人物だったなんて。到底。

「じゃあ、ゆっくり食べてて、私上から呼び出しかかってるから。」

庄内が、先程まで山盛りになっていた昼食たちを手早く片付けてふらっと立ち上がった。先程まで気にならなかった庄内の白衣のよれが今では目立って仕方がない。庄内本人が見ていないことをいいことに、憎々しげに去っていく背を睨んでから、俺こと長良は視線を落とした。

 俺が、どんなに苦労してここの研究所に入ったと思っているのか。どんな思いでここまで目指して歩いてきたと思っているのか。それを「どうでもいい」「勝手にやってれば?」と切り捨てて、それこそ『ロボットになりたい』などという理由で「利用してやる」と簡単にこの施設を見下して。

 納豆をかき混ぜる手に力が入り、拍子に容器に箸がつっかえ、いっそう苛立たしさが増してくる。

「なーがら!」

「あ”あ”っっ!」

「おー、どうしたよ、長良くん。」

落ち着けよ、というように両手を上下させる揖斐を椅子を引いて向き合った。ある程度状況説明をすると揖斐は長良の声に被せるように数度頷いた。

「そうだろうと思ってたんだ。前から言ってるだろ、庄内さんは『ちょっと変わってる』ってさ。」

「今から言えばなんとでもなるだろ…」

「いや、お前が夢心地で全然頭に入ってなかっただけだ。苛立つのはわかるけど、もう配属しちゃったんだから後数ヶ月耐えるしかない。あとはもう気合いだ、気合い。」

「それほど嫌ってるわけではないんだが」

「そう後ろ髪を引かれるなさるな、前を向いて歩くが人生ってものよ、」

「その年で人生語んなし。」

大きく深く肺に吸い込んだ空気を吐き出す。

「俺。なんでここにきたんだっけ。」

「…付き合う」

揖斐は隣の食堂の椅子を床に擦り付けるように引くと腰掛けた。

「別に真っ昼間からこんなとこで話すか馬鹿。」

お前のそういうとこ、好き。

そう呟く代わりに照れくさい気持ちを隠すようにぼそと呟く。

揖斐はただ「最後に納豆食べるとか、終わってんだろ。口粘ついたまま帰る気?」と言っただけだった。

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