園遊会、大パニック①
来たる園遊会当日。
私は前日以上に豪華なドレスを着せられて、園遊会の中心に引っ立てられた。
白亜の王城が囲った庭園は完全シンメトリー様式の精美な外観で、それを会場に利用したパーティーは壮大なものだった。
楽団が演奏を披露する横では、吟遊詩人が聖女の伝説を諳んじ、その姿を画家がスケッチに勤しんでいる。
何よりも目を引くのは華やかな衣装を身に纏った招待客たち。
貴族の皆々様が異世界からの闖入者である私を見に来てると思うと、背筋がうすら寒くなる。
「これはこれは、異世界からの聖女様。お目にかかれて光栄です。不肖はリュディガー=アルフォンス=アリア=ヒルデランツ=エレンディア。この国の国王です」
そして、一番緊張する国王との対面。
灰色髪を狼のように立てた国王は、なんだかチョイ
イケメンには違いないが、ちょっと軽薄な感じがして初対面から緊張してしまった。
「は、はじめまして、橘 愛歌です……」
次に紹介されたのは、王様の息子。いわゆる王太子様だ。王様に似た吊り目のイケメンで、クリームイエローの柔らかな髪と、その目つきからなんとなく狐を連想した。年は私よりちょっと下の二十歳ぐらい? 王子様と国王は私と無難な挨拶を交わしただけで、一緒に園遊会の会場に消えてしまった。
……あんまりプレッシャーかけないでおこうって配慮かな?
どちらにせよ、見知らぬ貴族の皆さんに囲まれてる状況に変わりはなく、緊張するなと言う方が無理な状況だ。
しかも、私のそばには剣を腰に佩いた武人が立っている。
パーティーでも警護は怠らないということか、私にしたらちょっと迷惑なぐらい手厚い待遇だ。
しかも、この人もまたイケメン。
浅黒い褐色の肌に長い銀髪をオールバックに上げたヘアスタイルで、男性美を表現したようなルックス。
異国の王子様のような気品ある佇まいにははっと目を惹かれてしまう魅力があるが、妖艶なアメジストの瞳にはどこかトゲがあって、近づきがたい印象を覚える。
その人は、ルーファウス=クラーヴェルと名乗った。
「無骨な騎士がそばにいられては、パーティーを楽しむ余裕はないといったところですか」
私の心を見透かしたように、その人はどこか冷ややかな笑みを以て言う。
その笑みには、どこか嫌な意味でドキリとさせられた。
なんだろう……この人の笑い方。
なんだかとっても、心に引っかかる。
「そ、そんなことはありません」
「異世界に騎士はいないと聞きます。そうであっては、刃で血を吸う騎士など淑女は怯えて当然。無理なさらなくともいい」
気遣いに似た声がかけられる。
怖い雰囲気ながら、優しいとも言える一言をかけられて、私は少し緊張を解く。
どうせ騎士をつけられるなら、あの金髪の美人さんがよかったな、なんて思いはあるけれど……。
そうだ。美人さん。
ふと思い出したとき、記憶のままの姿で彼がパーティー会場に立っているのを見かけた。
ばくん! と鼓動する心臓。
伏し目がちのブルーの瞳が少し物憂げで、繊細な睫毛が上下するたびにその瞳に吸い込まれそうになる。
どうしよう……話しかけていいかな?
なんて迷っていると、私は周りの雰囲気に気が付いた。
周りの招待客たちはヒソヒソと彼を横目に何か囁き合い、遠巻きにしながらそれ以上近づこうとしない。
そのせいで彼は壁の花状態。自分からも誰に話しかけるでもなく立ち尽くしている。
その異様な光景に眉をひそめていると、すぐそばからルーファウスが話しかけてきた。
「“彼”が気になるので?」
ドキッと心臓が跳ねた。
冷ややかな瞳はたじろぐ私を見透かしたように見下ろしている。
「あれは聖女様に近づけるには多少不適切かと」
返事に困っているうちに、彼はそう言ってあっちを見る。
その目には確かな侮りが見えた気がした。
「不適切って、どういうことですか……?」
その言い回しにひっかかって、疑問をぶつける。
そして返ってきたのは端的な答え。
「あれは、呪われています」
呪われている。
非日常的な言葉に背筋がぞっと粟立った。
冗談と疑うには、ルーファウスの瞳は冷たすぎる。
思わず当の本人の方を見ると、彼はこちらの視線に気が付いて、自ら辞するようにその場を立ち去ってしまう。
去っていくその背中はどこか寂しげだった。
「呪われてるって、本当なんですか」
「王宮じゅうに知られていることです。本人が生まれついてのものだったかと。あれは先代王の息子で、元王太子ですが、呪われていることを理由に実の父から廃嫡されています。それゆえ、己の立場は自覚しているようですね。まあ、自分から聖女様に近づくことはしないでしょう」
元王太子ってことは、元王子様!!?
周囲の人はいまだヒソヒソと内緒話をしている。
消えてしまった彼の噂話だろう。
私は不意に、周りの何もかもが嫌になった。
呪いがどういうものかは知らないけれど、人の生まれつきのものに勝手に嫌悪を覚えて、自分から遠ざけようとする人々の態度に、私はうんざりとする。
そんなことをなんでもないように話すルーファウスの気持ちもわからない。
ただ、異世界でも差別はあるのだと突きつけられたことが辛かった。
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