第4話

 もう何度目の5月12日だろう。

僕は今日も鬱々とした気持ちで布団から抜け出す。

半ば諦め気味にテレビを付けると、画面にはもはやお馴染となったキャスターが映り、今日も元気よく5月12日の朝を告げていた。

僕は短く息を吐いて、リモコンに手を伸ばす。


10回目の繰り返しを過ぎてから、僕は数えるのをやめた。

毎回、今回こそは、と心に誓うのだがやはりあの橋で躊躇ってしまう。

もはや猫云々という話ではなく、自分の中の言い訳と闘っている、そんな状況だった。

猫一匹くらいすぐに助けてしまえばいいのだ。そう頭ではわかっているつもりが、「猫自身の気持ちを尊重するべきだ」というあまりにも見え透いた言い訳を盾に、僕の足は止まってしまう。そうして、「それなら仕方ないじゃないか」と自分をなだめるのだ。

心底自分の弱さに腹が立つ。そんなに自分が可愛いのか。そうまでして自分の身を安全な場所に置いて何が得られるのか。

僕はもう一度、短く息を吐く。


 突然、消そうとしたテレビから、コミカルな音楽が流れ始める。

どうやら朝の星座占いのコーナーらしい。

何とはなしに画面を眺めていると、僕の星座が映し出される。

神様からの啓示によると、

 『友人を頼ると吉!悩み事もたちどころに解決へ向かうでしょう。』

との事だった。おまけに『ラッキーアイテムは、猫!』ときた。

……出来過ぎである。もはやこれは僕のための占いではないか。

何らかの情報操作が行われたとしか思えない。

それとも、神様も何度も続く5月12日に飽き飽きしているのだろうか。

だから、この占いは神様からの助け舟、なのかもしれない。

とんだ気まぐれな神様だな。これではあまりに不平等である。

そう思うとなんだかおかしくて、僕は一人で笑ってしまう。


ふと、笑ったのは久しぶりだな、と気が付く。

こんな状況なのだ。文字通り、神頼みでもするほかない。今回もこのまま何もしなければ再び同じ結末を迎えるだろう。それならいっその事あの2人の力を借りてしまえばいい。


カーテンを開ける。

青々とした空には雲一つない。日が燦燦と照り、大地がその喜びを全身で受け止めている。

明日に向かって一歩踏み出すには、きっとこんな日がぴったりだ。

僕は小さく微笑む。

キャスターの『今日も一日頑張っていきましょう!』という言葉を背に受けて、僕は歩き出す。


さあ、「今日」を終わらせに行こう。



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