第57話
▽
「どうして命令を無視した」
「なんの話?」
学校の屋上から騒がしい理事室を見下ろす二つの影があった。
珍しく煙をふかす高麗に、星野が厳しい表情を向ける。
「とぼけるなよ。お前程の霊能力者が邪霊の位置を特定できないわけがない。ずっとお前が学園全体に結界を張って隠していたんだ。それを生徒達に見つけさせて、邪霊憑依の儀式をわざと引き起こさせた――。お前には組織からハーリットよりも先に邪霊を回収しろと命令が出されていたはず。わざと邪霊を生徒に取り憑かせ、呪器で生徒を抑えつけて、組織に引き渡す。それがお前の段取りだったはずだ。最後の最後で何故そうしなかった」
「だって『転校生』のこと知らされてなかったし」
拗ねたように言う高麗に星野はぐっと言葉を飲み込み、額に手をやり深く息を吐いた。
「あのまま生徒達ごと邪霊を回収してたらハーリットと同じじゃない」
「俺はハーリットを捕まえられたからいいが、これじゃあお前は任務失敗だろ。どうするんだこれから」
高麗はキョトンとした顔で星野を見て、「心配してくれてるの」と茶化した。
段々と苛立つ星野の様子を面白がりながら高麗は言う。
「組織は抜ける。今回の事で信用できなくなった。生徒には手を出さない約束だったのに、生徒ごと捕まえて来いなんて酷い話だ。僕は育成機関にでも戻るよ。霊能力者として色々教えなきゃいけない子が五人も増えたからね」
「五人……?」
「一人にはもう推薦状渡しておいた。残りの子にも渡しておいてよ」
星野に手渡されたのは高麗と星野の母校である霊能力者育成学校のパンフレットと、高麗直筆の推薦状だった。
星野は目を瞬かせ、仕方がないとでも言うようにそれらを受け取る。
「元邪霊憑きがどんな霊能力者になるか楽しみじゃない?」
「いい性格してるよお前」
櫻場に平穏が訪れる頃、『転校生』は去っていった。
仲間達に見送られながら、少しだけ上手くなった笑顔を浮かべて。
それとほぼ同時に保健医の転勤が発表され、桜中央学園は夏の長期休暇に入ったのであった。
その後何十年も、桜中央学園の理事室には、初代歴研メンバーの集合写真が飾られることとなる。
櫻場の地にまことしやかに伝わる、邪霊退治の英雄として。
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