第47話
▽
「涼くんは霊感ある人を見分けられる?」
唐突に投げられた問いかけに涼は眉根を寄せる。
「さあ。そもそも見分けようと思ったことがねェ」
「そっか。うちのクラスの凪がね、霊感あるんだって星野先生が言うんだ。本当なのかなって思って」
「凪って誰だ?」
「もー。和屋凪。去年も同じクラスだったんでしょ」
「和屋……ねえ。でも霊感の有無は個人情報の中でも特に繊細な問題だろ。無理に見分けるのもどうかと思うけどな」
「ま、真面目」
「自分がされたら嫌なだけだ」
涼の言うとおり、本来ならば他人の霊感を探ろうとすること自体が良くないことかもしれない。
晶はそう思い直し、ぎゅっと拳を握る。
「私、凪を危険な目に遭わせたくない。霊感がある生徒は邪霊に狙われる。引き寄せてしまう邪霊憑きとは一緒に居ない方がいい。クラスには斗真くんもいるし、これから涼くんもいるでしょ。だからせめて私はクラスにいない方がいいのかなって」
「バーカ」
沈んだ面持ちで不安を吐露する晶に対し、涼はバッサリと否定で返した。
「霊感あるやつなんてそこらへんにゴロゴロしてンだよ。お前は道歩いてる霊能力者全員避けて歩くつもりか?」
「ゴ、ゴロゴロ?」
「昔から櫻場には霊能力者が多いんだとさ。入院中に高麗がぼやいてたけど、霊感のある生徒が多くてリスト作りに苦戦してるんだと。だったら凪ってのだけ避けてても意味ねーだろ」
「そ、そっか」
クラスには凪以外にも霊感のある生徒がいるかもしれない。
ということは学校全体で見たらもっといるだろう。
晶だけが凪を避けたところでどうにかなる母数ではないということだ。
「うん、そうだよね。ありがとう涼くん。また悩み解決してもらった」
「へーへー。どーいたしまして」
目の前で仲良さげに会話する二人を辰海はぼんやりと眺め、ふと隣を歩く斗真を見る。
そしてまた二人を見て……を繰り返す内に辰海の中の悪戯心に火が付いた。
「ねー、二人ってそんなに仲良かった? なんか怪しいんですけど」
「は?」
「まーた辰海くんはそうやって……。気にしないで涼くん。いつもこうなんだよ」
「つまんないの。なァ、斗真」
「お、俺に振るなよ馬鹿!」
斗真は辰海からプイと顔を背けて職員室の扉を開いた。
「こんちはー」
「失礼します。星野先生に呼び出されたんですが」
入口に立ったまま声をかけると、四人の背後から手が伸び、そのまま器用に四人分の襟を捕らえた。
「こっちだ」
「うげ」
目の下に深い隈を作った星野が四人を見下ろす。
こっち、と示されたのは生徒指導に使われる小さな部屋。四人は渋々星野に従い、部屋に入った。
「結論から言うと、地下二階には巨大な祭壇がある」
星野は椅子に深く腰かけ、腕を組みながら言い放った。
突如振られた予想外の話題に、晶は目を丸くする。
「地下二階に行ったんですか?」
「ああ。封印の場の地下二階の調査を俺が引き継いだ。ここ数日、毎晩地下に潜っていたんだ。そこで見つけた。恐らくこの祭壇は、呪画を描くために
「急に何の話だよ?」
話についていけない涼を置いておいて、晶は星野に質問する。
「呪画には人間の血が使われているというのは本当なんですか」
「いにしえから血液は強力な呪いに使われている。邪霊の封印に使われてもおかしくない。邪霊の封印が解かれても、呪画から抜け出せなかったのはそのせいだろう」
「まさか再封印にも人の血が必要なんて言わないよね?」
辰海の疑問に星野は頷く。
「人間の血液が使われているのはあくまで呪画だけだ。封印はまた別の術式がある、らしい。【監視者】に秘匿されているが」
「でもその封印って佐倉先生に解かれてるんだから、もう隠してても意味なくね?」
斗真の意見に星野は大きく頷く。
「俺もそう思う。いっそ封印方法を共有してより強固なやり方を練るべきだ……と言っても聞かないのが【監視者】だがな」
星野の言うことが正しければ、地下二階の謎が解けたことになる。
晶は深く考え込む姿勢を取った。
得られた情報から察するに、地下二階は邪霊を呪画化するための場所で、地下一階が邪霊を封印するための場所。
封印を解いたとされる佐倉ひなこが
星野はぱっと顔を上げて、一旦晶達を見回して言った。
「こちらの報告は以上。次はお前達だ。【蜥蜴】が現れたあの日、俺が到着するまでに何があった」
「なにって……」
戸惑う涼を遮り晶が報告を始める。
「まず【蜥蜴】の出現時ですが、上櫻神社に霊杭が出現しました。その後すぐに涼くんのお父さんが【蜥蜴】を見つけて、弓矢で一時捕らえたんですが、【蜥蜴】はしっぽを切って脱出。地下へと逃げて行きました」
「上ノ原は何故地下に?」
「え、こいつが邪霊を追いかけてって……親父に弓矢持たせられてお前も行けって」
それを聞いた晶は、あの時涼が地下に現れたのはそういうことだったのだと納得する。
続いて斗真と辰海が当時の動きを説明する。
その後、晶が地下で若菜と遭遇したこと、白鷺がすでに倒れていたこと、若菜に手を組もうと誘われたことを伝えると、星野の表情は途端に険しくなった。
「なるほど。ハーリットの狙いは邪霊を奪うことのはずだった。しかしあの男はそれ以上の野望を持っていて、そのために転校生の君を引き入れようとしている……。どうりで組織的な怨み屋にしては行動が読めなかった訳だ」
「あの、高麗先生は病院から戻って来ないんですか?」
真剣な表情を浮かべる晶の問いかけに、星野はあっさりと答える。
「白鷺の意識が戻るまでは無理だろうな」
「呪器はいつも高麗先生が用意してくれていたんですけど、どうしましょう」
それを聞くと星野は「ああ」と呟き、上着のポケットをごそごそとやり始めた。
「高麗から預かっている。多分、君が持っていた方がいいな」
星野から晶に託されたのは、手のひらサイズの金色に輝く輪っかだった。
「
「あ、孫悟空が着けてるやつだ」
「へえ。――まるで、人間に取り憑くことを想定して作られたみたいだね」
辰海の嫌味に星野は素直に頷く。
「ああそうだな。俺もそう思う。文句は高麗に言え」
しんとその場が静まる。
晶は星野に聞きたいことが山ほどあった。
それは全員同じだったようで、まず始めに斗真が星野に対して慎重に切り出した。
「どうすんだ? これから」
「俺はハーリットをどうにかする。若菜はまた本野さんを狙ってくるだろう。それの対策と、佐倉ひなこの捜索。残りの邪霊も探してみるが、俺の探知には引っかからないから難しいな。上ノ原、お前は親父さんに相談して邪霊を成仏させる方法を探してみろ。親父さんは櫻場の
「まあ……それは構わないけどよ」
「俺達は病院に通って高麗先生と呪器の特訓するよ。強くなる分には問題ないだろ」
「ああ、もちろん」
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