第30話
「涼がどうかした?」
「いや……ええと」
晶の脳裏に番長と呼ばれる涼の姿が映る。
学校での彼はカフェで見た姿とは打って変わって近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
その原因のほとんどは鋭い目付きと、銀糸を思わせる程脱色された髪色にあるかもしれない。
「まさか……ああいうのがいいの?」
「またそういう事言って」
「ちょいワル好きとは盲点だったなー!」
「違うから!」
とにもかくにも、晶にとって涼と一緒に買い出し係になったことが果たして吉と出るか凶と出るか悩ましいところではあった。
霊感を持つ可能性が高い涼について、既に高麗に報告してある。
その結果、やはり霊感アリ。
学園内ではなるべく近づかない、学園外ではさりげなく邪霊がどこまで見えているのか探りを入れるということになった。
元から友人関係である斗真と辰海が主に口を割らせる作戦だったが、晶にも機会があるとなれば話は別だ。
三人にターゲティングされれば、さすがに何かしらの情報は得られるはず。
晶は面白がる凪を見送った後、気合を入れ直して勝手知ったる理事室の戸を開けた。
「追試は無事終わったようだね!」
白鷺が意気揚々と両手を広げる。晶と斗真はすっきりとした笑顔で答えた。
「おかげさまで! 辰海、サンキューな」
「ありがとう辰海くん!」
「本当にね」
マイペースにコーヒーを飲む辰海は意外にも勉強を教えるのが上手かった。
その地頭の良さと要領の良さと容赦の無さで、無事に晶と斗真に試験問題を叩き込むことに成功したのだ。
「授業聞いてれば最低限分かるでしょ」
「本野は授業中寝すぎな」
「それはごめん」
「それで今日の議題は?」
辰海の声のすぐ後に、円卓の中央に動画が映し出される。
高麗がパソコンをいじると動画がより鮮明になった。
「僕の眼鏡に小型カメラを取り付けて【鯨】との戦闘を動画に撮っていたんだけど」
「探偵かよ」
「動画を見返していたら気になることがあって、ほらここ。ストーップ」
晶と辰海が乗った地面が崩れ落ちた直後。土埃で画面がざらついている。
「うわっこんなに危ないことになってたんだ……」
「お前、本野に足向けて寝れないな」
「君も人の事言えないと思うがね」
戦々恐々と画面を覗き込む辰海の横で、晶はようやく思い出した。
あの時、このまま落ちたら下の床に叩きつけられて死んでしまうと思ったのだ。
封印の場の下には更なる階があった。敷き詰められた石畳の階が。
「はい、みんな見えたね。つまり我々が知っている封印の場は地下一階。そして穴が空いたことで見えたのは――?」
「地下二階か。そういやそうだ。本野が着地したのは下の階だったんだな」
「封印の場に下の階があるって理事長は知ってました?」
「いや、この映像を見るまで知らなかったよ。一体何のためにあるんだろうか」
「これまでの傾向から、邪霊は生徒を地下に引き摺り込むことが見えています。残り二体ももしかしたら地下で合間見えることになるかも」
「行ってみませんか、地下二階」
もちろん邪霊を探しながら。晶の声に三人が頷いた。
いつ地下二階を調べるか。これについては白鷺が慎重な姿勢を見せた。
先の戦いでは床が崩壊している。その下に行こうとするには備えが必要だった。
「ドローンを使ってなるべく危険のない道のりを見つけてからにしよう。辰海君の分の呪器改良もしないといけないからね」
ばちーんと音が鳴りそうな勢いでウインクをして見せる白鷺に、冷たい視線を向ける三人。
結局地下探索は三日後に迫る体育祭が終わってから行うことになり、その間に各自学生の本分を忘れず、やるべきことをやるという結論に至ったのだった。
「のんきが過ぎないか? 明日にでも邪霊が出たらどうするんだよ」
斗真が呆れたように頭の後ろで手を組む。
「ふむ。そうしたら全員で突撃するしかない」
「自分は封印の場に入れないからって……」
「私かい? 入れるよ。防空壕の穴を通れないってだけで、理事室から正規ルートがあるんだ」
白鷺はさも当たり前のことのように言い出し、理事室の壁の一か所を押し込んだ。
ガコンという音とともに壁が回転し、そこから長い階段が現れる。
「この階段、封印の場に直結ね」
「そう言うことは早く言えよオッサン!! 前回わざわざ穴通ったんだぞ俺は!」
「やーごめんごめん。私は封印の場に入れはするものの霊感がさっぱりだから足手まといだろう? 皆のサポートに徹するよ」
「じゃあ追試免除で」
「それはダメ」
▽
「地下、か……」
新たな手掛かりに嬉々とする歴研のメンバー。
しかし彼らが素人であることには変わりなかった。
自分たちが盗聴されているという可能性を微塵も考えていない。
白鷺が席を外す時、理事室は開放されている。
理事室は様々な魔除けが複雑に絡み合い、星野の使う術は通らない。
それならば原点回帰。単純な構造の盗聴器を仕掛けて電波を飛ばせばいい。
星野はイヤホンを付けたまま手元の端末に触れる。
理事室での会話が全て文章化される中で、星野の目を引いたのは地下という言葉。
ようやく邪霊の尻尾を掴めた。
これまで頑なに秘匿されていた霊の存在が、『転校生』が現れたことで露わになってきている。
「あとは、ハーリットとの繋がりがあるかどうか……」
星野は白鷺を疑っていた。
あれだけ強大な邪霊を祓うことなく何十年もこの土地に秘匿している理由が分からない。
世の中には幽霊に価値を見出す者もいる。
そういった者は大抵幽霊を金で売り買いしている。
星野の所属する機関の最も嫌うタイプのトレーダーだ。
もしもハーリットとの取引などをしていたら、白鷺は黒。
逆に、ハーリットと対峙するようなことがあれば白に近い。
「お前はどちらだ。白鷺。邪霊を利用する側か、邪霊を解放する側か。」
星野は小さく呟き、静かに煙を吐いた。
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