神魔2-1
□
ユーグ王国、王城。
王太子の執務室にて。
「ご要望のありました、“神魔国”に関する調査内容の資料です」
少年執事サージュは、エミール王太子へと資料の束を差し出してみせた。
王太子はそれを軽くパラパラとめくって
「……多すぎやしないか?」
いつもなら要点だけをかいつまんで記録したものを渡される。
だが、机に並べられる資料は山となって王太子のデスク上に並べられる。
それに対して、
「今回は魔族、魔獣も徹底的に調べろというご指示でしたので」
少年執事はけろりと言ってのける。
「まぁいい。現状においてわかっていることは?」
「北方山脈に都市を築き、わずかひと月たらずで勢力を拡大。現在、南下してルリジオン教国の「第三の壁」の攻略中……とのことでした」
「でした、だと?」
「王国諜報部の調べでは、「第三の壁」はすでに攻略され、「第二の壁」にまで迫っているとのこと」
「……馬鹿な」
エミールは絶句した。
北方に築かれた「第三の壁」という巨大城砦は、己の記憶にある限り、人にも魔にも攻略不能な絶対防壁として、北方山脈都市に築かれていた。山そのものとも見まがう巨大建造物を攻撃し攻略することなど、ありえる話なのだろうか。
「ルリジオン教国の動きは?」
「「第三の壁」を破壊され、続く「第二の壁」防衛線のため、兵力を募っているようですが」
「待て、サージュ。「第三の壁」を破壊、と言ったか? あの巨大城砦を?」
「魔族の中でもとりわけ危険度の高い者どもが、戦線に投入されていたようです」
資料はここだと指を叩かれ、エミールはファイルを紐解く。
部外秘と朱印が押されたそこに記載されていた魔獣の総覧は、確かに信じがたい情報のオンパレードであった。
「これは本当か? 本当に確定情報なのか?」
「諜報部が無能でなければ」
「〈魔犬〉〈大狼〉〈骸骨〉〈巨人〉まではわかるが──〈
ドラゴンとは。
寝物語や聖典に記載がある超常の
その鱗はオリハルコンのように硬く、その巨体は巨人を食料にするほど。
広げた翼は太陽を閉ざすとされ、かの獣の存在は二千年前に、勇者たちによって根絶やしにされたと。
だが、そんな伝説上の化け物が復活を果たした。
それも、「第三の壁」の機械化装甲擲弾兵戦闘団を壊滅させるほどの“群れ”、否、“軍勢”だったと、情報資料は語る。
「馬鹿げてる。ドラゴンなど、過去二千年確認されていない、伝説上の魔族だ」
「では、諜報部の事実誤認だと?」
「────」
エミールは両眼の間をもみほぐすことで緊張を解こうとしたが、無駄に終わった。
サージュは資料を読み上げる。
「「第三の壁」は、歩哨上の兵員をドラゴンによって掃滅し、その間に地上部隊の巨人などによって、「壁」は完全に破壊される被害を被っております」
「ランドルミー、姫巫女の予測は“当たり”だったようだな」
この間の使節訪問の際に交わした会話が思い出される。
「それで。教国はこの一件については?」
「
「こちらはなにもできんわけだな? クソッ!」
エミールは悔し気に資料の山を叩いた。
己を落ち着かせるように、彼は両手を口の前で合わせる。
「──ドラゴンを復活させるほどの国力が、“神魔国”には存在する、と?」
「おそらくは」
「聖典に記される“神”の御業だな。ああ、おそろしくて震えが止まらんよ」
などと、うそぶくエミール。
彼は早急に教国へ使者を出す準備を整えるよう、別の随従に声をかけた。
「どうなさるおつもりで?」
「ドラゴンなんてものが出てきた以上、帝国や魔女の国、エルフ公国などと
「ですが、教国は」
「わかってる、
ドワーフ並みの頑固さだと、エミールは呆れ果てるほかない。
サージュは明晰な王太子の言葉に首肯を落とす。
「では、使者は殿下ご自身が?」
「俺が行ってもいいが──こういう交渉事はクロワの方が得意だったよな? 第二王子は今どこに?」
「……それは」
「サージュ?」
バツの悪そうな返答しか返ってこないことに、王太子は首をひねるしかなかった。
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