第13話・冒険者って、強いよね。それに引き換え私は
ルーゼンベルグ攻防戦。
開始からリアルタイム二時間で、メメント森林外に広がるバトルオークの集落は、プレイヤーサイドの圧勝で完了した。
いくつものギルドが参加し、誰よりも早くダンジョン開放時に突撃できるようにと、短期決戦でバトルオークを屠っていった。
バトルオークは普通のオークと違い、ドロップ品に上級レアアイテムが紛れていることがある。
中でも、【名入り装備】については、普通の市販武具の5倍〜10倍の性能ということもあり、どのプレイヤーもより強い武具を求めて、必死に討伐に参加していた。
倒した死体のドロップ品はダメージを多く与えた上位数名がまず権利を得る。そして時間が経過したら、誰でも手に入れることができるようになるのだが、ダメージを多く与えたものやファーストアタックを叩き込んだもの、そしてとどめを刺したものが上位獲得者として先に権利を得やすくなっている。
このシステムに気がついたものは、範囲魔法を習得して無闇矢鱈に魔法を振り撒いている。
そうすることで先制攻撃権を得ることができ、ドロップ品のレベルの良いものが見込めるのだが、同時に一番ヘイトを稼いでしまう。
今回のイベントでも、範囲魔法使いがダメージを振りまくと、その辺りの敵には目もくれずに他の敵を探すものが多く。
結果的にバトルオークの群れに蹂躙されてリスポーン地点へと死に戻りするものも多数、存在した。
なお、時間が経過すると、死体からの回収は誰でも可能になり、ゴミアイテムや市販品などの放置されやすいドロップ品は、誰でも回収できるのだが。
………
……
…
大量の死体、そして輝く黒い壁。
黒曜石で作られたダンジョンゲートの前には、開放が今か今かと痺れを切らしそうなキャラクターたちで賑わっている。
まあ、私はダンジョンには行かないから、周りに転がっている死体からアイテムを回収するだけ。
「まあ、これだけ死体が重なっていると、回収忘れのドロップ品もあるよね」
「でも、バトルオークの斧とか、褌+5(呪い)なんて、誰が拾うの?」
「あっちの人たち。非戦闘要員なユーザーさんが拾うらしいよ。アスナの後ろでも、素材の剥ぎ取りをしている人がいるけど」
私が指差した先は、俗にいう生産系の方々。
死体をクリックして、ドロップアイテムが収納されている黒い宝箱を発生させている。
この宝箱の中にアイテムが入っていて、面倒臭い人は箱ごとアイテムボックスに収納し、安全な場所に戻ってから回収する。
ちなみに優先権を放棄された宝箱は白く点滅し、そこから時間が経過すると箱が自動的にパカッて開いて、誰でも拾えるようになるんだよね。
だから、非戦闘要員の方々は、あちこちでパカって開いた宝箱から、アイテムを拾っている。
それに、死体の優先権が消滅したら、誰でも素材の剥ぎ取りが可能になってね。スキルの発動であっさりと死体は素材に早変わり。
私は高レベルで解体スキルを持っているので、かなりの確率でレア素材が手に入っているんだよ。
まあ、オークの睾丸なんて、高く売れるけど欲しくない。
なんか、バッタい。
「うわぁ!! 出たぁぁぁぁ」
突然、近くの冒険者が叫び出した。
その声の方を見ると、死体から金色の宝箱が出現したらしい。
このレア宝箱は鍵が掛かっているだけじゃなく、罠までしかけられていることが多くてね。しかも、金箱って時間経過で蓋が開くこともなく、時間経過で消滅する瞬間には中身がランダムに三つだけ出現するのよ。
大抵の人は鍵開けスキルとか、魔法のアンロックを習得していないから、宝箱が出てもその場では開けられない。
宝箱ごとアイテムボックスに収納して、街の鍵開け屋に開いてもらうのが一般的なんだけどさ。
「開けられるか?」
「無理だわ、持って帰ってから……うわ、アイテムボックスに収納できないってどういう事だよ?」
「嘘だろ?」
そんな声が聞こえてくる。
うん、アイテムボックスに収納できる宝箱は銀色まで。
金色の宝箱は、それ専用の収納空間が必要なんだよ。
まあ、頑張ってくれ給え。
そしていらないアイテムは我がオワリの道具屋へ売ってくれたまえ。
「ハルナちゃん! 金色が出た!!」
「出すなぁぁぁぁ、持って帰れないんだよ? どうするの?」
「ど、どうしよう? 鍵開け道具はあるけどスキルなんて持ってないし、ハルナちゃん、スキル無い?」
そんなことを言われても、私のスキルで対応できそうなものは無いんだよ?
ほら、金箱の中身が放出するのを狙って、ユーザーが集まってきたよ。
「ハルナちゃん、パス!」
「うぉい!」
いきなり鍵開け道具を渡されてもさ。
試しにチャレンジしてみるよ? ノースキルだよ?
『ピッ……鍵垢成功率は0%です』
ほら、無理だって表示されたし0%も点滅して……マジかよ?
頭の中で『FS±5』を起動する。
すると、0%を最大5%まで動かすことができた。
流石にゼロ以下にして95%とかにはできないけど、5%ならやってできないことはない。
──ガチャガチャ……ブーッ
うん、失敗の音。
「え? ハルナちゃん、鍵垢スキルあるの?」
「ないよ。でも、可能性だけならあるから」
そのまま金箱が消滅する時間制限まで、必死に開け続ける。
もしも消滅して中身が出現したら。、周りのこっちを監視している奴らが一斉に飛んでくるからさ。
いくら目の前にドロップしても、盗み系スキルを持っている奴がいたら取られるんだわ。
──ガチャガチャ……ブーッ
失敗音が響くたびに、周りから失笑が聞こえる。
「ハルナちゃんに、【応援レベル5】を発動!! 頑張れ!!」
いきなりアスナが叫ぶ。
すると、私の鍵垢成功率が50%加算されて、55%になった。
「いや、アスナ。そのスキルを先に使ってよ」
「だって、今取ったばかりだから」
「あ〜、例のストック分か。まあ、これならいける」
──ガチャガチャ……パーパラパ〜♪
静かに箱が開く。
それを見て、周りの人たちも集まってくるが、見ることしかできない。
鍵を開けた私が回収優先権があっで、これにはパーティーメンバーのアスナも含まれている。
「やったぉぁぁぁ!!」
「よし、何が入っていることやら?」
中には金貨が1500枚、宝石や指輪などのアクセサリー、装飾された短剣、そして二色のインゴットが入っている。
「うひょひょ。全て回収だぁ」
「お〜」
適当にアイテムボックスにしまい込むと、【宝箱も収納しますか?】という表示が。なるほど、空になったら持ち帰り可能なのか。
そのまま空箱も収納したら、それまで見ていた冒険者が散っていった。
『ピッ…… 大規模討伐クエスト【ルーゼンベルグ攻防戦】、第二ステージが開始します。まもなく【黒曜狼の洞窟】が解放され、最下層よりスタンビートが発生します……繰り返します、大規模討伐クエスト……』
突然、大規模クエストの第二ステージ開放の説明が響き渡る。
そして黒曜石のゲート前にいる冒険者たちが雄叫びを上げ始めた。
「お、おおう、脳筋が吠えている」
「よし、ハルナちゃん、あっちの放置された箱も行ってみようか!!」
「よっしゃ!!」
転がっている箱を探し、鍵を構える。
開けられず、どうすることもできない金色の箱。
周りでは消滅ドロップを待つ冒険者たちが見ているけど、それを無視して箱開けに近寄る。
「おう、おまえ、まさかこれを開ける気か?」
そう脅してくる戦士。
だが、箱は白く輝いている。
つまり、優先権は失われている。
「所有権フリーだからね。邪魔したらマナー違反で通報するが?」
「放棄された宝箱を漁るのは、マナー違反じゃないのかよ。これは、俺たちが見つけたんだぞ?」
「でも、所有権はあなた達じゃないよね?」
そう告げてから、鍵穴に鍵を刺す。
『ピッ……罠あり。解除率50%』
「やばいわ、アスナ、罠外せる?」
「罠なら外せるよ? 貸して!!」
そのまま箱の鍵を開けてから、アスナにタッチ。
そしてあっさりと鍵を開けると、中身を回収……って、地図?
「ありゃ、トレジャーマップがでたわ」
「「「「「「「「「嘘だろ? レベルは?」」」」」」
そう言われると、確認するよね。
ええっと、マップレベルは……これも『FS±5』で動かせるのかよ。
最大値が10で、これが6だから。
かちかちかちと、レベルを足していく。
7、8、9、10。
そしてEX。
は? 何そのレベル?
そう考えたけど、とりあえずはEXで固定して。
「レベル10トレジャーマップ、ゲットだぜ!!」
「「「「おおおおおお!!!」」」」
周りから聞こえる感嘆の声。
拍手している人もいるから、思わずあちこちに頭を下げてしまいましたけど。
やっぱり狙っていた人はいるわけで、周りで地団駄踏んで悪態を突き、どこかに消えていく冒険者達も大勢。
悪いね、ダンジョンに入れないから、こうやって稼ぐんだよ。
それよりも、この地図って、嫌な予感しかしないんだけどさ。
とりあえず、落とすと危険だからアイテムボックスにシュート。
………
……
…
『ピッ……ピッ……ピッ……ピーン』
黒曜石の壁のカウントダウンが完了し、黒曜石のゲートに渦巻きが現れる。
そこに飛び込んでダンジョン内部に突入するらしい。私は行ったことないけど、慣れた冒険者は勢いよく飛び込んでいく。
それはもう、まさに怒涛の如く。
私とアスナはその光景を遠くから眺め、人が減っていくのを見送っていた。
そして、あちこちに残っている箱を狙おうと考えたんだけど、私のように鍵を開けている冒険者もいる。
そりゃそうだ、鍵開けスキルって、隠しクエストでシーフギルドを訪れたらスキルスクロールっていう形で手に入るからね。
それを読むと、そこに書かれているスキルを覚えられるんだよ。
取引掲示板でも、これは高額で取引されていてね。
初期アイテムでもあったらしく、海外ではそこそこな値段でRMTの餌に使われているとか。
「ハルナちゃん、どうするの? みんなダンジョンに突入したけど?」
「う〜ん。一介の領主に、ダンジョン最下層まで向かう実力はない。ということで、箱開け大会を楽しみましょう!!」
「おーけー」
そのまま一時間ほど、金銀箱を開けるために走り回りました。
なお、ダンジョンが解放され、集落が廃墟化した時点で、いきなりその場で整地を始めるユーザー集団がいたことは説明する必要はないよね?
あちこちの銀箱黒箱がタイムアウトでどんどん開き始めるけど、金箱は堂々とその場に残っている。
何人かの冒険者が鍵垢にチャレンジしていて、ある人はガチャッと開いて舞い踊っていたり、それを見て悔しそうにしている人がいたり。
──ドゴォォォッ
罠が発動して、爆発したり。
「うわぁ……アスナ、爆発したらどうなるの?」
「アイテムも何もかも消滅。即死ダメージの場合はリスポーンポイントに強制転移。最悪なのは、レベル7爆弾で、あんな感じ」
アスナが指差したのは、今の爆発地点。
直径10mのクレーター状に爆発したらしく、大勢の冒険者が瀕死の状態で転がっている。
「どれ、辻ヒールでもして帰ろうか。もう、金箱は残ってないでしょう?」
「んんん??? まだあちこちにある……ないね、もうないね?」
まだあるんだけど、私とアスナは目立ちすぎた。
あるって呟いた瞬間、周りの冒険者にギロッて睨まれたよ。
次々と金箱を開けたものだから、ヘイトを稼ぎすぎたかもしれないからさ。
まだそこそこに残っているけど、これ以上は他の冒険者を敵に回すと危険だから、怪我人を回復させてから領都オワリに帰還することにした。
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