第14話・二つの詩篇と、暗躍するものたち

 ルーベンベルグ攻防戦、第ニステージが始まりました。


 第一ステージはダンジョンテレポーターを守るガーディアンの集落の攻防戦。

 第二ステージはダンジャンに突入し、最下層のダンジョンコアを『制限時間以内』に破壊すること。

 加えて、第二ステージにはサブクエストがあり、これは『ダンジョン地図の完成』および、入口から定期的に溢れてくるスタンビートの阻止というのが目的として設定されていた。

 第二ステージはメイン、サブ共に討伐ポイントが各キャラクターごとに蓄積されるらしく、クリア後には参加ボーナスおよびランキングボーナスも加算されるそうで。

 次々と冒険者たちが乗合馬車やら徒歩やら魔法やらで、ルーゼンベルグ領オワリにやってきます。


「ただいま〜」

「ただいま戻りましたよ〜」

「ハルナさま、お帰りなさい。ご覧ください、このとんでもない経験値を!!」


 私たちを出迎えてくれたのは、執事姿の乱丸。

 いや、できるならば半袖半ズボンにサスペンダーで、完全なるショタ装備を満喫したかったんだけどさ。

 市販品装備にはなくて、裁縫スキルで作らないとならないのよ。

 それで、防御力も持たせるとなるとレザー系とかチェインメイルとかになり、ショタ装備の外見とは異なるわけで。

 それで、今のこのスタイルなんだよ、うんうん。


「ハルナちゃん、ニコニコと鼻の下を伸ばして乱丸くんを撫でるのはいいんだけど、報告したくて困っているよ?」

「いやぁ、癒されるわぁ……それで、何が起こったの?」

「はい、イベントにより我がオワリの武具屋、道具屋、雑貨屋に大量に買取り品が持ち込まれました。それを経験値換算してみたところ、ほら、間も無くレベルが上がりますよ」


 ウインドウを確認すると、どこかの人口増加メーターのように経験値がカウントアップしている。

 これはまた、とんでもないけどさ。


「それで、どこに経験値を配分しますか?」

「レベル上げには使わないよ……そもそも爵位が上がらないから都市レベルも上がらないし。だから人材投与、ここ一点にぶち込むから」


 パパピッと領主コマンドを確認し、人材投与に経験値を振り込む。

 そしてレベルを上げて、必要な人材リストの表示数を増やし……。


「ドワーフの鍛治師、ドワーフの鍛治師……酒癖が悪くなく、腕のいい鍛治師はどこかいな……いたいた」


『ピッ……ハルバフタン、ハルグレン、ドゥドゥ……』

「ふむ、鍛治成功率は悪くない。でも、この中から選ぶとなると……いや、経験値を追加してリセット!!」


 三人の鍛治師の叫び声が聞こえそうだけど、強化失敗して開き直ったり、失敗してクホホホホと笑ったり、挙げ句の果てに運がなかったなと煽ってきそうな輩は排除。


『ピッ……ムルキベル、ガンノスケ、播州政宗』

「ドワーフはムルキベルなのか。え、これって確か神話の人だよね? ドワーフだったっけ?」

「えーっと、調べたけどドワーフじゃなくて、でも神さまだよ?」

「ふぅん。乱丸、ムルキベルをこの街に召喚できる?」


 リストに載っているのと、誘致できるかどうかは別でね、確率があるらしいのよ。


「少々お待ちを。ふむふむ、誘致確率は73%ですね。経験値をかなり注ぎ込んだので、高くなって……あれ? 78%に変化した?」


 うん、私が『FS±5』で確立を上げたから。

 

「まあ、それで誘致チェックしてくれる?」

「はい!! それでは鍛治師ムルキベルの誘致チェックを開始します……」


 乱丸の声が止まり、室内をうろうろし始める。

 その様子を見て、アスナも心配そうな顔になる。

 まあ、ショタ君が腕を組み顎に手を当て、真剣な眼差しでうろうろしていれば、お姉さんも心配になるってものだよ。


「うわぁ、まさしくハルナちゃんの好みにドンピシャ!!」

「うっさい。心配そうな顔をしているかと思ったら、そんなこと考えていたのかよ。乱丸はあげないよ!!」

「だって、これがゲームの中だから許されることで、リアル世界でまだ十歳ぐらいのショタ少年を家で飼っているって書いたら犯罪ものでしょ?」

「飼ってるいうなぁ!! せめて同棲にしてよ」


 そんなことをギャーギャーと話していると、乱丸が立ち止まり、ポン、と手を叩いた。


「誘致成功です。設定画面をどうぞ」


『ピッ……ムルキベル、鍛治師、【伝承鍛治レベル5】【金属加工レベル5】……』


 次々と表示されるデータ。

 そして私は、【R・I・N・G】クエストに必要な鍛治と金属加工の二つのレベルを10まで上げると、そのまま確認ボタンを押す。


──ガチャッ

「おう、あんたがハルナ・ルーベンベルグか? 俺に働いて欲しいっていう手紙をもらったんだが、ここで会っているか?」


 いきなり部屋の扉が開き、髪ボサ髭ボサのドワーフが入ってくる。

 はあ、誘致って、いきなりこんな感じに来るのか。


「ええ、初めまして、ムルキベル。私がここの領主のハルナです。貴方には、この街で私のお願いする鍛治作業をお願いしたいのですけど」

「まあ、そういう契約だからな。それで、俺は何をしたらいい?」


 そう問われると、アスナが先ほど回収してきたインゴットを二つ、取り出して机に並べる。

 

「初めまして、ムルキベルさん。私たちがお願いしたいのは、この金属の加工です。これが何か、わかりますか?」


 すると、ムルギベルはその場に座り込み、インゴットを片手に持ってハンマーで軽く叩き始める。


──キィン、キィン

 まるでガラスがぶつかり合うような、透き通った音が室内に響く。

 そして腕を組んだかと思うと、ムルキベルが唸り声を上げている。


「う〜む。こっちのインゴットはアダマンタイト、こっちはミスリルだな。これを加工するとなると、【神鉄の炉】が必要になるが、ここにそんなものはあるのか?」


──ブンブン

 私とアスナ、2人同時に手を左右に振る。

 そんなすごいもの、ここにはありませんよ。


「残念ながら、ここにはありません。それで、ムルキベルさんは神鉄の炉を作ることはできますか?」


 もしも彼の鍛治レベルが5のままであったら、それを作ることはできない。

 トリビアから貰った書物には、神鉄の炉の作成に関することも書かれていたから、少し詳しく調べてみたんだよ。

 

「まあ、できないことはない」


──パン!!

 アスナと私のハイタッチ。

 

「こ、これは、いけるかも!!」

「いける、まず二つ目の道が見えたよ!」

「はぁ? お主らが何を話しているのか、わしにはさっぱり理解できないのじゃが?」

「まあ、それでは端的に説明します。実はですね……」


 私とアスナは、ムルキベルに一から説明した。

 【R・I・N・G】クエストのこと、二つの詩篇について。

 それと、古代エルフ語で記された書物。


 この三つについてアスナが説明し、そしてさらにムルキベルに質問を始めていた。


「この5つの金属って、ムルキベルさんはわかる?」 

「心当たりなら、ある。恐らくはミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ドラグナイト、そしてナイリア鉱石。この五つが伝承金属だな。まあ、この中でも、表に流通するとしたら、ミスリルぐらいだろうなぁ」

「あっちゃあ。ハルナちゃん、どうする?」

「う〜ん」


 ミスリルは、街の中の鍛治師の店で買えるのは知っている。

 そして今、目の前にはそのミスリルとアダマンタイトがある。

 残りは三つ、それを入手しなくてはならない。


「ムルキベルさん、もしも五つの素材が全て揃えば、メイルシュトロームの短剣は手に入りますか?」 

「それも、伝承金属によるダマスカス鋼です。どうですか?」


──ボリボリ

 頭を掻きながら、渋い顔をするムルキベル。


「一昔前の俺なら、確実に断っていたところだな」 

「それじゃあ?」

「今の確率は50%……あ、55%だな。五分五分よりも少し良いぐらいだが、それでも構わないか?」

「ありゃ、また5%ふえたよ? ハルナちゃん、なんかこう、そういうスキル持っているの?」

「う〜ん、そんじゃ、答え合わせ。実はね……」


 私の最大の秘密、朝チートアビリティの『FS±5』について説明したよ。

 口止めもしっかりと。


「んんん? それって数に関するものなら、なんでもいけるの?」

「さぁ? あまり使わないようにしていたけど、ここ一番では使ってる。あの鍵開けだって、成功率0%は絶対失敗なのでチャレンジすらできないけど、そこを5%にしたら、チャレンジできたからね。それに、これも」


 例の金箱から出てきた、レベルEXのトレハンマップも見せてあげた。


「ふ、ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! クエストマップだ!」

「何それ?」

「【E・F・O】の情報掲示板にあった、レベル10の上の地図。重要なクエストのヒントが書かれている地図でね、開いた人とそのパーティのみが恩恵を受けることができるんだって」


──シュルルルッ

 躊躇うことなく速攻で開きましたが、なにか?


「うわ、ハルナちゃん、少しは躊躇おうよ? なんでも即実行は宜しくないよ? 女の子なら少しは乙女の嗜みというものも身につけたほうがいいよ?」

「そんなの面倒くさい。乙女担当はアスナに任せるよ。それで、これ、なんだろ?」


 描かれているのは、祭壇のようなもの。

 それと座標と魔法の術式と、古代語の説明文。


「うわぁ、これはまた難易度が高いねぇ。これも、私が調べておこうか?」

「そう? それなら任せたいけど、私は何をしたら良い?」

「オリハルコンとドラグナイト、あとはナイリア鉱石を手に入れて欲しい。それがあれば、メイルシュトロームの短剣は作れる。そしてこれは私の予想だけど、この地図、この場所で儀式をすることによって、【R・I・N・G】は手に入るんじゃないかな?」

「それだ!! じゃあ私が残りを探してみるよ」


 うん、ムルキベルさんの横で盛り上がっていると、ゴホンと咳払いをして、ムルキベルさんが背中に背負ったカバンから虹色の鉱石を取り出した。


「ナイリア鉱石なら、手持ちにある。じゃから、領主さんはオリハルコンとドラグナイトを探して欲しい。あと、わしの住居、できるならば鍛冶場があるものを頼む」

「それこそ私の仕事じゃない。じゃあ、すぐに手配するわ、乱丸」

「はいはい。この屋敷の近くにちょうど良い場所があります。そちらをムルキベルさんの所有に登録しましたので」


 さすが、できるショタ執事は違う。

 そこは任せた、私たちは二つめの詩篇の解析とメイルシュトロームの短刀の作成に取り掛かるとしましょう!!


 そう盛り上がっている2人とムルキベルだが、部屋の天井、その角に小さく丸まっていた使徒の存在には、気がついていなかった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──某所、某宿

 暗い室内。

 ベッドの上では、艶かしく体を揺すっている女性と、その腰を掴み激しく動かしている男が1人。

 

「……へぇ。【R・I・N・G】クエスト、それに必要なものねぇ……アリーシァ、メイルシュトロームの短刀って知っているか?」

「ああん……な、なんでそんなこと聞くの?」

「いいから教えろ、それとダマスカス鋼、あとは伝承金属についてだ」


 そう話しながら、男はアリーシァと呼ばれた女性から体を離す。


「も、もう少しだったのに」

「それは後で、もっと良いことをしてやる。お前のスキル【吟遊詩人レベル6】で、さっき話したものについて、情報を書き留めておいてくれ」


 そう告げてから、男は着替えて部屋から出ようとする。


「ねぇ、ザナドゥ。また使徒でどこかを盗聴したの?」

「まあ、な。馬鹿な部下を脅して、どこぞの領主の屋敷に使徒を2体、潜りこませておいたんだが。ちょいと気になって、一体は屋敷に残したんだが、どうやらビンゴだ」

「ビンゴ? まさか、私たちのアジトが手に入るの?」


 嬉しそうに告げるアリーシァに、ザナドゥは一言だけ。


「【R・I・N・G】だ。リアルで億万長者になる道が見えた。こうなったら、なりふりなんて構っていられねぇな」


 下びた笑みを浮かべ黒い外套を身に纏うと、神聖同盟のギルドマスターであるザナドゥは宿を後にした。

 そして、スラム街から外に出ると、部下たちの溜まり場になっている酒場へと向かっていった。

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