第7話・願いの叶う、オンラインゲーム?
ユメカガク研究所、そしてユメミライ、ヨルムンガンド・オンライン運営からの公式発表。
ヨルムンガンド・オンラインの次期大規模アップデートで実装される新システム【R・I・N・G】の情報は、瞬く間に全国、そして全世界へと広がっていった。
その真偽の程はともかくとして、公式がはっきりと『10億円までなら支払うし、それぐらいの価値のものならお渡しできます』と、きっぱりと公言したのである。
そして、ヨルムンガンド・オンラインと同時期にアメリカでも公開されたフルダイブ式RPGゲーム【E・F・O】とのシステムリンク、さらに【R・I・N・G】システムの実装と、世界は二つのオンラインゲームの話で盛り上がっていた。
──ファミリーレストラン・サイバリアン
「だから、今話した通り、このゲームの中で、クエストアイテムを手に入れることができたら、どんな願いも叶えてくれるんだって」
私は同じゼミの仲間であり幼馴染である『
彼女もまた脳科学研の仲間であり、秤助教授の愛弟子である。
その彼女にも、脳科学解明のためにフルダイブ式オンラインゲームを体験してもらおうとおもったんだけど。
ここにきて、急遽、目的が変わった。
「小町ちゃん、ちょっと待って。出所を確認するから」
「いいよ、まずはそこを確認してからね」
すぐさまタブレットを取り出し、明日花がヨルムンガンド・オンラインを調べはじめる。
その公式サイトから始まり、開発元である『ユメカガク研究所』、及び合資会社である『株式会社ユメミライ』まで確認すると、明日花はいきなり小町の手を握る。
「小町ちゃん!! これで夢が叶うよ。オバァの夢、私たちの島を取り返せるよ!」
「そう、これが成功したら、私たちがこのクエストをクリアしたら。あいつらに取られた島を取り返せる」
島を取り返えす。
それは、小町と明日花の夢。
………
……
…
二人は幼い時、南方の小さな島に住んでいた。
でも、ある日を境に、島民たちは島から追い出され、誰も入ることができなくなった。
島の持ち主が、彼女たちの住んでいた島を海外資本の企業に売却した。
そして島のあちこちにレジャー施設を作りまくり、一時は観光島として国内外問わず、さまざまな方面に有名になった。
だが。
夢はいつか破れる。
観光島のオーナーによる不正行為が発覚、食品等の偽造から始まり汚物処理の杜撰さが表に出てからは、観光島を訪れるものも減り始め。
数年前に、ついに海外資本は観光島を手放すべく、まずは元島民に話を持ちかける。
その結果、島の守家でもあった本田家と朝津家が買戻しを打診。
そのための予算を作るべく、奔走しているところであった。
島を出てからの、元島民の希望。
それが、生まれ育った島に帰りたい。
最後は、島でゆっくりと眠りたい。
それを叶えるために、その力をつけるために、小町と明日花は大学に進んだ。
さまざまな研究を続け、いくつかの特許をとり。
コツコツと貯蓄を続けていた。
幸いなことに、海外資本のCODは、島の買い戻しに10年の期限を設け、その間は島に手をつけることも、他社に売ることもしないと約束してくれた。
その日から、今日まで。
いつか、島に帰る日のために、二人は走っていた。
………
……
…
「そうと決まったら、私もヨルムンガンド・オンラインを始める。小町ちゃんはもう始めているんだよね? 細かいところとか教えてくれると助かる」
「あ〜。私はどっちかって言うと、バックアップ専門になるからなぁ。まあ、クエストを探したりするし装備その他を提供するし。寧ろそっちの方が得意だからさ」
明日花に請われて、私は頬をポリポリと掻いてしまう。
「……小町? ちなみにゲーム内のクラスは何? 戦士? 魔法使い?」
「え〜っと……領主」
「はぁ?」
もうね、私もそう説明するしかないんだわ。
何故そうなったのか、キャラクターメイキングから始めて、とんでもないユニークなアビリティを手に入れたこと、それによりゲーム開始時点で領主になって、それなりに領地が発展してきたことも。
最近では、【村長の証】と言うアイテムを手に入れたユーザーが、自分の村を私の領地の庇護下に加えて欲しいって打診まで来ている。
「……ふぅん。それじゃあ、一緒に冒険には出れないわけ?」
「いや、出れるんだけどさぁ……戦闘スキルがなくてね、それを覚えるクエストを受けようにも、領地経営が忙しくて」
「嘘だね。シムシティ系を始めたらとことんまで突き進む小町が、領地経営なんて面白いものを放置するはずがないから」
バレた。
でも、言い訳させてもらうなら、ヨルムンガンド・オンラインでは普通に遊ぶ予定だったんだよ?
散々、シム系のゲームをやり尽くして満足したから、今度はのんびりと冒険者として遊ぼうと思ったんだよ?
その目的でヨルムンガンド・オンラインを始めてさ。
「はい、仰る通り。でも、時間をとって、少しずつでも進めるからさ」
「そうだね。特許報酬も入ってくるけど、それだっていつまで続くかわからないし。それなら、平行でその【R・I・N・G】? とかいうクエストを進めて指輪を手に入れようじゃありませんか?」
「賛成!! では、今日はその前祝いで!」
「「カンパーイ!!」」
飲んだよ、久しぶりに飲みまくったよ。
まあ、ふらふらしつつも二人で私の家まで帰ってきて、私はお酒でグロッキーだったけど明日花は自分のヘッドセットを接続してユーザー登録をしてから、さっそくキャラクターメイキングだけは終わらせるって。
「……このなんとか観光協会とかっていう攻略サイトだと、アイテムから決めろって書いてあるけど?」
「うん、そうだね……」
「小町ちゃんは、アイテムから?」
「スキルから」
「話が違うじゃない……この酔っぱらいがぁ!!」
「へへへ……だってね、楽しいからさ」
もう、途中からは頭の中がグルグルって回り始めてね。
明日花が何やら叫んでいたけど、空返事しかできなかったと思うよ。
うん、ごめんね。
明日になったら、ちゃんとアドバイスする……か……ぐぅ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ワーディス王国南方・ハーメルン近郊・ルーゼンベルグ領
領都オワリにある一流武具店『天上天下唯我独尊』。
ここは、生産系ユーザーの『大和伝重浪』が経営している店舗。
領主であるハルナの許可を貰い、登録しているギルドのメンバーと一緒に、この街に越してきたのである。
すでにギルドハウスもハルナに頼み込んで借りることができたので、スタートから一ヶ月という短期間にも関わらず、彼の登録しているギルドは安定したアジトと武具師を手に入れていた。
「はへ〜。これはまた、凄く良いバグが揃っていますねぇ」
アスナ・アシタバ、それが朝津明日花のキャラクター名。
金髪長髪で、アイテムチェックで【ハイエルフの証】を引いたため、初期キャラクターとして亜種族のハイエルフを選択できたという。
なお、ハイエルフの証は海外で100万単位で買取が出ているほどのレアアイテムであり、それを知った明日花が2日ほど後悔したことはそっと伏せておく。
「ええ、うちの武具はどれも良いものでっせ。このロングソード+10なんて、他では手に入らない一級品ですよ?」
「へぇ。剣技は持ってるけど、武器は取れなかったのよ。さすがは大和伝、やるじゃない」
「まあ、ね。それで。お買い上げしますか?」
──キラーン
大和伝の目が光る。
だが、それに気がついたハルナが、大和伝の肩をポンポンと叩く。
「アスナは私のとこの客人だからね。そこそこにサービスしてよ?」
「わかってまっせ。定価の二割引でどーですか?」
「まあ、妥協点ね。それでよろしく。請求書は領主館の乱丸に回してくれたらいいからさ。アスナにいいところ一式、よろしくね」
「ちょっとハルナちゃん!! そんなことしてもらっていいの?」
剣だけじゃなく装備一式と聞いて、アスナは動揺したが。
すぐにハルナがサムズアップして一言。
「持てるものの権利よ。ノブナガ・オブ・ルーズね」
「ノブレスオブリージュ、やな。そんじゃ、一通り揃えさせてもらいますわ」
「うん、それではよろしくお願いしますね」
そんなこんなで、女性の買い物はとかく時間がかかりました。
これが普通のオンラインゲームなら、メニューを見てポチッて終わるところですけらど、ここはヨルムンガンド・オンライン。
実際にアバターが試着することができるため、コーディネートに凝り始めると終わりが見えなくなるという。
「うわぁ……この籠手も良いけど、この白地に赤のラインの入った軽装ドレスも可愛いですわね?」
「お、良いものに目が行きましたなぁ。それはとあるゲームのヒロインがつけていた装備で、装備するだけで【速度+1】の加護が得られますわ」
「へぇ、これにしようかな……」
「まだ他にもありまっせ、これなんか……」
とまあ、終わるものも終わらず、最終的に買い物が一通り終わったのは、ゲーム時間で夜の8時。
リアルタイムとゲーム内時間は流れが違うため、この感覚に慣れないと寝不足を起こす人もいるらしい。
ちなみに、ヨルムンガンド・オンラインのでの時間経過は【6:1】。
ゲーム内の6時間はリアルの1時間であり、ヘビーユーザーがリアルタイムで4時間ぶっ続けで遊んだら、ゲーム内では1日が経過する。
まあ、途中途中で食事休憩を取ったり、仮眠を取ったりする人が多く、ゲーム内で丸々三日間遊び続けたとかいう連中もざらにいるという噂まで広がっているのが、怖すぎるんだけどさ。
「はぁ、堪能した」
「だろうなぁ。そんじゃ、うちに帰りますか」
「あ、宿を取ってないや」
「うちに泊まれば良いよ。この町を拠点にして活動するときは、私のうちにアスナの部屋を用意してあるから自由に使って構わないよ」
「本当に!!」
「まあ、これも持てるものの権利……でもないけどね」
そのままゲーム内での注意事項などを説明しつつ、私とアスナの二人は領主の館へと戻る事にした。
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