第6話・都市経営バーチャルRPG? 違いますからね!
ヨルムンガンド・オンラインが完全正式稼働して一ヶ月。
登録ユーザー数は鰻登りに増え続け、その都度サーバーが強化されていく。
当初はユーザー数に対してイベントや商品が少ないのではないかと思っていた矢先、幾つものユーザー都市が開放されたので、人々が初期の三大都市に集中しないようにと自主的に分散を始めていた。
交易都市ハーメルン近郊にも、大小合わせて四つのユーザー領が存在し、その下にいくつもの町や村がある。
それぞれでイベントが発生し、一部は綿密にリンクしているので、ユーザーサイトとしても攻略甲斐があると評判ではあるのだが。
一部クエストは【ユニーククエスト】と呼ばれ、攻略されると二度と復活しないものも存在する。
そしてユニーククエストの中でも、特殊なものがある。
──ワーディス王国南方・ハーメルン近郊・ルーゼンベルグ領
領主の館で、私は普通に執務をしていたのに。
「失礼します。領主さま……あ、ハルナさま、お客さまがいらしています」
うん、領主様って呼ばれるのも恥ずかしいからさ、名前で呼ぶようにインターフェースの設定を変更したんだよね。
おかげさまで、こうして執務室でのんびりしていても、時間になるとお茶のセットを用意してくれるし。
ティータイムを寛ぐ時には味覚や嗅覚をオンにして、味と香りも楽しむことができるから、フルダイブって本当に凄いわ。
噂では、隠しコマンドとか課金アイテム、もしくは特殊なアイテムを使うことで【R18モード】の設定を解放することができるとかなんとか。
そんなの信じるなって思いつつも、一昔前に流行っていた【フルダイブゲームを舞台としたアニメ】の同人誌を思い出す。
あれには確かにあったよ、そういう設定を改造してゲーム内でエッチなことしたりするやつ。
本当にそんなことができるのなら、人類の少子化は進んで近未来には滅ぶと思わない?
「ハルナさま〜。お客様はどうなされますか? そろそろ妄想からお戻りください」
「私が妄想していたって、なんでわかるの?」
「ヘッドセットから、ハルナさまの脳波波長は随時監視されていますよ。フルダイブシステムによる影響が出ないように、常にバイオリズムと一緒に監視されているのはご存知ですよね?」
そういえば、スタートマニュアルにはそんなことも書いてあったよなぁ。
「来客って、どうせ冒険者でしょう?」
「はい。王都の冒険者の方です。こちらのオワリを拠点に活動したいらしく、援助をお願いしたいとかで」
領主権限の中には、【居住地開放】と【優遇措置】というものがあってね。
私の都市レベルは3なので、そこそこの権利を持っているらしいのよ。
それを【ヨルムンガンド観光協会】の掲示板で見たユーザーが、無理を承知でここまでやってくるんだけどねぇ。
そのまま応接間まで向かい、部屋に入ると。
──ガシャーン
いきなり目の前で、調度品を叩き壊しているんだけど。
「ちっ。ここの領主はしけているわ。何も出てこないぞ?」
「こっちの絵画は少しは金になりそうだが、どうする?」
「持っていくに決まっているだろうが」
目の前で壺を破壊され、お気に入りの絵画を剥がそうとしている。
「はぁ。乱丸、懲らしめてあげなさい」
「了解です。お客様とて容赦はしませんスマッシュ!!」
──フッ
突然、乱丸の姿が消える。
その直後、二人の冒険者を装った暴漢の腹に拳がめり込む。
「ぐふぁ!!」
「な、なんだこのチビがはぁぁぁ」
はい、乱丸の攻撃で暴漢たちの残HPが5まで低下したので、そのままそこで束縛しますか。
「領主権限により、二人をこの場で固定します……っていうか、なんの権利があって、人の家の調度品を壊す? せっかく書いてもらった絵画を盗む?」
「なんだお前!! NPCの家にあるものは、盗んでもの見つからなければ罪にならねーんだよ。それぐらいゲームのルールで常識だろうが?」
「それよりもお前は何者だ? 俺たちは、ここの領主に雇ってもらうためにきた冒険者だ。わかったら離せ!!」
はぁ、この手の阿呆が最近は多い。
先日なんて、いきなり領主の館を襲撃して、私からこの都市の権利を奪おうとした奴らがいたからなぁ。
当然ながら返り討ちにして、牢屋にぶち込んだけど。
保釈金が支払われないと、彼らは【牢獄オンライン】を一週間楽しみ、それから郊外の【犯罪者坑道オンライン】を堪能することになるんだけど、まだ結果は聞いていないんだよなぁ。
「さて。私の名前はハルナ・フォン・ルーゼンベルグ。このルーゼンベルグ領の領主で、爵位持ちユーザーだが?」
そう自己紹介すると、二人の顔色がサーッと青くなっていく。
NPC領などでの犯罪行為は、通報された時点でレッドネームとなり賞金が加算される。これにはPKも含まれるらしいが、設定で【対人】をカットしておくと、PKされなくなる。
まあ、大抵のユーザーは対人オフにしているらしいから安全なんだけど、犯罪都市やスラムに入ると、自動的にオンに切り替わる仕様でね。
自分から危険な場所に踏み込んだのだから、死を覚悟しろって事らしい。
そして、今、目の前の二人の名前も点滅している。
「あ、俺は、ここがNPCの領地だと思ってよ、金目のものがあると思ってきただけなんだ」
「まさかユーザー領だなんて思ってなくてよ……頼む、赤ネームにはしないでくれ」
犯罪被害者は、対象者の名前を赤もしくは黄色に変更できる。
赤ネームとなった場合、都市部にいるだけで騎士たちに追いかけ回され、捕まると牢獄へ。
黄色だったら情状酌量、ゲーム内時間で四十八時間以内にまた犯罪行為を行うと赤になるのだが、黄色の場合は、他のユーザーからも攻撃を受けられるようになる。
しかも、黄色ネームは殺しても犯罪にならず、倒した相手の装備品をランダムに取得できてしまう。
「まあ、この壺、実は金貨20枚でね?」
「嘘つけ!! 鑑定したら銀貨6枚だったぞ?」
「……それは、システムが定めた金額だよ。これを手に入れるまでの手間賃も計上させてもらうけど?」
「そ、そんな阿呆な!!」
「弁償してくれるなら、街から追放だけ。でも、それが無理なら、黄色ネームで街に放り出すよ?」
──ピッ
乱丸が携帯型ターミナルをオープンする。
そこを使って、銀行コマンドも使えるのだけど、この二人はそっぽを向いている。
「……なるほど、強制ログアウトからの、ランダムスタートで逃げる気だね?」
そう呟いた瞬間に、男達がニイッと笑う。
でもね。
遅かったなぁ。
「そういう事だそれじゃ『パチーン』あな!!」
「あばよ!!」
──スッ
うん、ログアウトしたようだけど、既に二人の名前は赤。
このやりとりも、4回目になると乱丸も慣れたものである。
「ハルナさま、二人のマーカーを確認しますか?」
「うちに入った泥棒だから、私はマーカーで確認できるのか。二人はどこに?」
「チェック……ジャイルには反応がありません。ログアウトしたままかと」
「ふぅん。まあ、赤ネームから開放されるまでは30日、それもゲーム時間内でしょう? 潜伏場所がわかったら、ハンターギルドに懸賞金を掛けてきて」
手加減なんか、する気はない。
寧ろ、私の領地で犯罪を犯したことを後悔させてやるわ!!
「さ〜てと。散歩にでも出かけますか」
「いってらっしゃいませ」
「うん、乱丸はいつも付いてこないよね。つれないなぁ」
「私の仕事は、この領地の経営サポートですので。それでは、お気をつけください」
頭を下げて見送ってくれる。
あ〜、それにしても乱丸くんは可愛いよなぁ。
戦闘ができて経営手腕……には偏りがあるけど、それでも私の補佐として頑張ってくれるし。
R18モードが使えるようになったら、デートイベントも発生するのかなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ピッ・リンクアウト
散歩と同時にログアウト。
領主って自領地ならどこででも一瞬でログアウトできるのが強みですが。
恐ろしいことに、討伐クエストを受けられないんだよ?
『領主様が戦闘に出るなんてとんでもない』
これがひたすら繰り返されてさ、私、いまだにハンターギルドの依頼しか受けられなくて、猪とかウサギ、ごく稀に鹿を猟る程度しか戦闘経験がないのよ。
いや、討伐クエストを受けなくても戦えば良いんだけどさ。
やっぱりパーティを組んだ方が効率が良いわけで、ソロだと死ぬと厄介じゃない?
「はぁ。サブキャラクターでハンター系を作りたいわ。普通なら課金でキャラクター枠を購入したりできるのに……」
生理的現象を解消してから、あ、エッチなことじゃないからね!!
着替えていつものサイバリアンまで向かう。
今日は午後から大学のゼミ仲間との打ち合わせ、という名目で友人をヨルムンガンド・オンラインに引き込む算段。
「あれ? 煙草も切れているか」
灰皿のシケモクから吸えそうなものを探して咥え、火を灯す。
そのまま加え煙草でパソコンのモニターを眺めていると、画面にメッセージが流れる。
『ピッ……ヨルムンガンド・オンラインの最新情報があります』
「了解。ヨルムンガンド・オンライン公式をオープン」
──ピッ
音声入力で画面を切り替える。
一ヶ月前まではマウス操作だったのに、ヨルムンガンド・オンラインをインストールしてヘッドセットがダイレクトリンクしてからは、音声入力でさまざまなことができるようになった。
これも【ユメカガク研究所】の開発したシステムらしくて、ヨルムンガンド・オンラインがインストールされているパソコンなら、誰でもヘッドセットを通して使えるらしくてね。
『大規模アップデートのお知らせ』
おおっと、つい先日、インターネットの【9gamers】って言うゲーム情報サイトにも出ていた大規模アップデート、それについての情報が流れてきた。
………
……
…
ハイパークエスト、R・I・N・Gが実装されます。
これは、世界のどこかに存在する七つの指輪、それを求める旅。
指輪を手にしたものは、望みのものが与えられます。
それは富
それは知識
それは愛
それは友情
如何なるものも、ユメカガク研究所は叶えます
………
……
…
「如何なるものも、叶えます……か。まあ、ゲーム内の夢なんて限られるからなぁ。私なら、何を叶えてもらうかな……」
そんなことを考えつつ、そこから先にある説明を見て、私は言葉を失った。
『ゲーム世界の何処かに存在するアーティファクト。
この願いを叶える指輪は、世界に7つしか存在せず、それを手に入れたものには、【望むもの】が与えられる。
・ユメカガクサイトQ&A
Q:ゲーム内ではなくリアルで現金一億円とかを望んでも叶いますか?
A:まあ、望むものとは言いましたが、現金なら10億円までですね。
Q:リングを手にしたら、すぐに使わないとならないのですか?
A:夢を叶える権利を使わず、装備しても構いませんが。
リング装着者は、自動的に【対人OK】に強制的に変更されます
Q:リングの権利の譲渡は可能ですか?
A:権利を行使していなければ、リングの譲渡により権利も譲渡されます
Q:クエストの難易度的には、かなり難しいのですか?
A:アメリカのDreamcatcher社のフルダイブゲーム【E・F・O】との共有クエストとなります。なお、このクエストアイテムの入手方法としては、同一アカウントで向こうのゲームのキーアイテムを見つける必要があるかも知れません。
今回のアップデートで、【E・F・O】へのアクセス権もインストールされますので、ご期待ください。
Q:一人のキャラクターがリングを手に入れることができるのは、一度だけですか?
A:はい。一度きり、ひとつだけです。
Dream catcher公式のQ&Aからも回答を補足させていただきますが、一人で手に入れることができるのは、一つもしくは最後の一つです。
──ゾクゾクッ
背筋が寒くなる。
これは普通のオンラインゲームじゃない。
願いを叶えることができる、オンラインゲーム。
それこそ、莫大な富と財宝が手に入る可能性がある。
「こ、これは大変なことになった……」
ふと時計を見ると、間も無く待ち合わせ時間。
急いでサイバリアンに向かう前に、近くのパソコンショップでヨルムンガンド・オンラインのスタートセットを購入。
そのままバイクをかっ飛ばして向かうことにした。
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