第4話・学生の本分は学業ですが、半分は遊びたいです
レポート提出の翌日から。
私はようやく一段落した学業を横に置いて、ヨルムンガンド・オンラインのスイッチを入れる。
すでにキャラクターは完成した、あとは……コンプリートボタンを押してキャラクターメイキングを終わるだけ。
そうすれば、ようやく念願のゲーム世界にダイブできる。
もう、朝からソワソワ状態で、大学院での助教授からの話を聞きつつ、頭の中ではチュートリアルで何をするか、何ができるのかを模索している最中。
「む? 本田くん、気のせいか、心がここに有らずという感じにうかがえるが?」
「そんな事ないっすよ〜、ささ、講義の続きをどうぞ!!」
「そうか。では続きを……そもそも、昨今のフルダイブシステムというものが脳に対してどのような影響を与えるかについて……」
ガクガクしかじかと講義を聞き、しっかりとボイスレコーダーでも録音してある。
電子黒板に表示されてあるものは全て手元のタブレットに自動ダウンロードして、あとは帰ってからプリントアウトするだけ。
タブレットで確認作業をするのが主流だけど、私は旧態依然の紙媒体の方が好きなので、自宅には専用プリンターもある。
まあ、午前の講義を終えてからは、速攻で電車に飛び乗りいざ自宅!!
さあ、楽しいオンラインゲームの世界の始まりです。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ピッ
キャラクターメイキング終了。
ユーザーインターフェイスによる、最終登録を開始します。
ユーザー名……本田小町
登録キャラクター……ハルナ・フォン・ルーゼンベルグ。
称号により、フォンを追加しました。
脳内波長確認。
全てのデータをバックアップ、同時に……の、……をコンバート。
システムよりマスターへ。
対象者はオンリーワン、選ばれたユーザーであることが判明。
マスターコードにより、観測者を選定、No.2658はハルナ・フォン・ルーゼンベルグの監視者として活動しなさい。
なお、このデータ構築は、ユーザーには見えていないことも観測者は留意してください。
………
……
…
世界が生まれた時。
神は、世界に7つの指輪を齎しました。
それは、いかなる奇跡も起こすアーティファクトであり、望みの力を得ることができるもの。
やがて人々は、その指輪を求めて世界を彷徨い始めました。
その指輪がどこにあるのか?
本当に存在するのか?
指輪の姿をしていないのではないか?
そんな疑問を持ちながらも、人々は奇跡を求め、夢を求め、世界を旅しました。
そして、やがて一人の冒険者が、最初の指輪を手に入れました。
「俺が望むものは……亡くなった恋人を蘇らせてほしい」
その冒険者の言葉は、指輪を通じて神の元に届きます。
そして彼の前には、新しい肉体を持って蘇った、彼にとって大切な恋人が姿を表しました。
そして指輪は、その中に眠る【3つの奇跡】の一つを失い、またどこかに旅立ったのです。
うしなった恋人を取り戻した冒険者は、生まれ故郷に戻ります。
そして指輪の力を人々に伝え、神がもたらした奇跡が本当にあることを告げました。
それはやがて、吟遊詩人の耳に届き、村から街へ、そして王都へ、隣国へ……海を越えた大陸にまで伝わりました。
一人の青年が起こした奇跡。
それは、誰にでも手にすることができる可能性。
さあ、立ち上がってください。あなたの目の前に広がる世界へ。
ようこそ、ヨルムンガンド・オンラインへ。
そして、遙かなる、二つの世界【マグナ・カルタ】へ。
………
……
…
──ワーディス王国・港湾都市ハーメルン郊外【ルーゼンベルグ領・領都】
中世風の街並み。
石畳みの街道、木と石造の建物。
高くても三階まで、大抵は二階建て。
街の中は綺麗で、大勢の人……あれ?
「さて。生産系スキルを活かすための最初の街は、ハーメルンの筈なのですけど。ここは、どこでしょうか?」
本当に、ここはどこ?
マップを開いても【都市名・未定】って書いてあるし。
周りは多分、NPCだと思うよ、まだ国際サーバーは解放されていないし、なによりも目線を遠くに向けると。
『ピッ……チュートリアル中』
って表示が出るから。
「酒場で話を聞くのが早いのか、それともクエストデータを確認するべきか……【クエストメニュー】オープン」
『ピッ……チュートリアル、ストーリー52-R01、持てるものの責務がスタートしています』
うん、表示されるけどさ、何をして良いのかわからないんだけど。
ヒントはないのか? いや、そんなものに頼ってはいけない。
「インターネット・オープン。私のお気に入りとリンクスタート」
『ピッ……ピピピピッ』
ボイスコマンドを入力して、目の前にWindows画面を呼び出す。
ここからタッチ操作で外部にアクセスして、ヨルムンガンド観光協会のサイトを開いて。
「ええっと、チュートリアルの説明……あった、って、うへぇ、なんじゃこりゃ?」
ずらりと並んだクエストタイトル。
ナンバー順に並んでいるからわかりやすいけど、ナンバー52のチュートリアルは不明って書いてあるんだけど。
「ええっと、なになに……ナンバー52は領主用チュートリアルです? はぁ? 領主の爵位と初期設定都市の場所によってストーリーが変化しますけど……ふむ、まずは領主の館へ行ってください?」
な、なんじゃこりゃ?
その領主ごとに、つまりキャラクターごとにストーリーが自動構築されているじゃないか?
「あ、領主様だ!!」
すると、近くを通ってきた子供たちが私に手を振る。
「やあ、皆んな元気そうだね!!」
思わず声を掛けて手を振り返すと。
『ピッ……領主の信頼度上昇、領地経験値が加算されました』
「ぬぁぁぁぉぁ、このゲームって、キャラクターにレベルはないんだよ? なのになんで、領地にレベルがあるんだよ!!」
思わず叫んだら、子供たちが慌てて走っていく。
「あ、君たちに起こったんじゃないからね」
「は、はーい!!」
「ふう。チュートリアル中だよな。領主の館までの道筋を表示」
『ピッ』
すると、私の目の前に矢印が浮かぶ。
なるほど、よくある3Dゲームなら画面を見ているからわかるけど、リアルな視点だと矢印って目の前に浮かんでいるのか。
そのまま館に向かって歩いて行くと、道ゆく人が声を掛けてくれる。
それには挨拶をして手を振り返すと、その都度、経験値が加算されましたって表示がうぜぇぇぇ!!
「システムコンソール、表示一覧から経験値加算についてのお知らせをカット」
『ピッ……完了』
「よし、それじゃあ行こうか……」
このあとは返事を返したり手を振っても経験値表示はされていない。
横の画面でWindowsの掲示板を確認すると、チュートリアルの前に大抵は設定しておいた方がいいって書いてあるよ。
うん、先にここを全部読んだほうが良かったね。
………
……
…
──名前未定・領主の館
洋館風の建物。
正門の前には軽装鎧の護衛士たち。
そして私をみるや否や、敬礼をして門を開いてくれる。
うん、軽く手を上げてねぎらいの言葉をかけると、どうやら喜んでくれているらしい。
そして屋敷に入ると、いきなり画面が開いた。
『チュートリアル52R03、執事を設定してください』
そしてキャラクターメイキング画面が出る。
それも、自分のキャラクターを作った時と同じものが。
またこれからやるのかと思ったけど、画面の右に【お任せ設定】っていうのがあってね。もう、これでいいんじゃないかってボタンを押したら、三人のプレロールド・キャラクターが表示される。
「壮年の男性、淑女風女性、ショタ少年……」
思わず叫びそうになるんだけど、ここでお約束を踏襲するのは面白くない。
だから選んだよ、ショタ少年執事を。
選ばない理由などない!!
『ピッ……スキル及びステータス、レアリティに対して『FS±5』を適用しますか?』
「いや待て、そのスキルを使えるのはおかしくないか?」
そう思ってみたけど、まあ、実務として使えるように設定するには、やはりスキルは全て+5、ステータスも増やして……レアリティってなんだ?
そう考えてキャラクターを見ると、どうやらNPCやテイマー生物にもレアリティがあるらしくて。
ちなみにこのショタ少年はレア度がEX、一般のNPCかノーマルのNで、その一つ上らしい。
「内政その他を任せるのだから、やっぱり優秀な人材の方が良いよね?」
そう思ってレアリティを操作すると、レアリティは【normal】【expert】【companion】【Masters】【Grandmaster】の5段階表記しかない。
それならばと、最大レベルのGMに設定したら、全てのステータスが一つ桁が増えるわ、スキルレベルはマックスになるわで、てんてこ舞い。
それでもどうにか設定は終わったので、名前をつけて上げる事に。
「ふぅむ。では、命名・乱丸。しっかりと私の元で尽くしなさい」
「かしこまりました、領主さま。私、乱丸がこの領地をより良い都市にすべく尽力します…」
『ピッ…… チュートリアル52R04、都市名を設定してください』
「はい、オワリ」
『ピッ……ルーゼンベルグ領・領都オワリ。設定完了しました。ピッ…… チュートリアル52R05、都市の税率及び詳細設定を行います。全て執事に任せますか? Y/N』
はあ、これは予想していたよ。
という事で、イエス。
「はぁ、まだありそうだよなぁ。チュートリアルって、飛ばせないのかなぁ」
『ピッ…… チュートリアル52Rの残りを全て完了します。それではゲームをお楽しみください』
「……飛ばした? まさかだろ? クエストメニュー、オープン」
慌ててクエストメニューを開くと、ちゃんとチュートリアルは残っている。
中断マークが付いていて、いつでも再開できるようなので、今はこれで良い事にしよう、そうしよう。
「……いや、しっかし。いきなりオンラインゲームで、領主スタートって面白そうだよなぁ」
そう、私はそう思っていた。
このあとひと月後の最初のアップデートで起こる、あの出来事を知るまでは。
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