第3話・キャラクターはできた!! そしてチュートリアルは地獄だった。

 『ヨルムンガンド・オンライン』をインストールし、キャラクターメイキングを開始して二日目の昼。


 うん、昨日は深夜の三時までネットを漁りまくっていましたよ。

 だってさ、ヨルムンガンド・オンラインの情報収集に余念がない人たちが多くて、チャットで話をしていたからね。

 そのまま気がつくと寝落ちしていて、気がつくと朝。

 そのまま起きているのもなんだから、ベッドに転がり込んで昼まで仮眠というか、爆睡。

 ようやく目を覚まして、シャワーを浴びて気分一新。

 冷蔵庫からランチパックとコーラを取り出して腹拵えをすると、いよいよアイテムチェック。


 え?

 うら若き乙女の生活じゃない?

 そんな乙女の嗜みなんて、二十歳の時に燃えるゴミに投げてきましたよ。

 大学三年からの専攻科目で脳科学を専攻した時点でね。


 おしゃれ?

 恋人?

 グルメ?

 旅行?


 そんなものよりも脳波とシナプスが恋人でね。

 脳が見る幻覚を生み出す波長と、それを自由にコントロールするイマジナリートレーニング、それが私の研究。

 そして、このユメカガク研究所のフルダイブシステムがあれば、私は研究中の【リバースダイヴ】を実践できるかもしれない。

 そのためにも、私はこのヨルムンガンド・オンラインを攻略しなくてはならない。

 そう、全ては私の研究のために!!


「なんて大層なことを考えていないと、大学サボってゲーム三昧なんてできないからなぁ」


 食後の咥えタバコのままヘッドセットを装着して、ヨルムンガンド・オンラインを起動する。

 私の生体認証が終わり、すぐに画面がキャラクターメイキングに切り替わる。

 

「さて、アイテムチェック!!」


 すぐさまスタートボタンを押すと、画面に次々とアイテムが表示される。

 初期アイテムは全部で四つ、これにキャラクターの年齢ボーナスが加えられるらしい。

 ここで普通の人はステータス配布画面に戻り、年齢を設定するそうだけど。


『年齢は、アイテムが決まってからの方が有利』

『一番最初に決めるのはアイテム』

『アイテムのプラスボーナスは、高いほど強くてレア』


 などなどの説明を聞いたからね。

 思いっきり後悔しそうになったけど、わたしには『FS±5』という究極スキルがあるからさ。

 これだけで、十分な勝ち組に思えてきたよ。


「さて、1回目のスロットル……って、まあ、こんな感じなのか」


『鉈+3』『一般支給装備』『オデッセア近郊の雑な地図』『冒険者ギルド会員証』


 鉈プラス3は、武器にも伐採にも使えるそうで。

 一般支給装備は初期では当たり、レザー系防具とナイフ、バックバック、や水筒、保存食やロープといった、初期装備の塊である。

 これを引けたらあとはどうでもいい、みたいな『負けフラグ』発散の発言もあったけど。

 ギルド会員証は、登録時のお金が必要なくなるだけの金銭アイテムと思えばいいが。チュートリアルで薬草採取だけやってれば、二時間ぐらいで稼げるらしいからゴミアイテム。

 そして、今回のあたりアイテムは地図。

 最初のうちはマップ画面もワールドマップもなくて、雑貨屋で買わないとならないらしくてね。

 これがあると、場所指定で自動移動とかもできるらしいし、自分なりの狩場や最終場所などのメモもできるのでかなり万能だけど。


「はい、引き直し」


『一般支給装備』『一般支給装備』『一般支給装備』『割り箸』


 うわぁ、画面を殴りたい。

 VRヘッドセットによって投影されている画面だから殴れないし。

 さっき余裕をかましていた自分を、殴り倒したい。


「ぐっ……まて、どれも取引掲示板では高額トレード商品だ。だが、金では買えない浪漫も欲しい……」


 震える指先で、静かにマウスをクリックする。

 しっかし、VRヘッドセットがあるのに、キャラクターメイキングのカーソルとかはマウスなんだよなぁ。

 ゲームの起動も、このヘッドセットの右側のスタートボタンだし。

 普通は『ダイヴ』とか叫んだら、電脳世界に沈んでいくのに、このカチッカチッというマウス音。

 

「ま、まあ、懐古趣味ってことで。さて、最後の一回、いくしかない」


 ここまできたら一蓮托生。

 スタートボタンを押して最後の挑戦。


『粗雑な支給装備』『ブレードウイップ+5』『村人/村娘の証』『テンガロンハット』


「……まあ、『FS±5』って使えないよなぁ」


 そう考えたけど、ふと、ブレードウイッブ+5が点滅している。

 どうやら『FS±5』は数値の部分なら使えるらしく、+10に変更して……。


「……いや、この『FS±5』って本気でおかしくないか?」


 そう思ったのは、アイテムの数。

 つまり、初期装備なら一つだけかと思ったら、全ての数が最大5つ増やせる。

 支給装備も5セット、ブレードウイッブ+10も5本、テンガロンハットも村人の証も5つずつ。


『これで決定します。よろしいですね Y/N』


「なるほど、これでアイテムも終わったのか」


 ポチッとボタンを押すと、一番最初の画面に変更された。

 そこには、今の時点での完成したキャラクターデータが表示されていた。


………

……


名前 :未定

年齢 :18

性別 :女

種族 :ヒューマン

称号 :未設定


体力 :70

瞬発力:85

感覚力:85

魔力 :85

闘気 :85

HP :50

SP :70.


・スペシャルアビリティ

『FS±5(1/1)


・スキル

『属性魔術・光7』『釣り9』『解体6』『交渉術8』『ブランク』×4


装備なし

頭部、胴部、腰部、腕部、脚部

アクセサリー×4


アイテム

『粗雑な支給装備』×5

『ブレードウイップ+10』×5

『村人/村娘の証』★

『テンガロンハット』×5


………

……


「まあ、無難な配分だよね。ステータスによって武器の威力とか生産効率がどれぐらい変化するのかわからないけど、まあ、お約束としては5の倍数だよね……って、なんだろ、これ?」


 ふと見ると。 

 アイテム欄の『村人/村娘の証』に星マークか点滅している。

 そこをクリックすると、こんな表示が現れた。


『ピッ……同じ称号アイテムがあります。融合しますか? Y/N』


「つまり、同じアイテムでも称号系はダブルと融合可能と。どれ、試しに」


 Yを押すと、『いくつ融合しますか? 2〜5』という表示が出たので。

 とりあえず2つを融合すると。


『村人/村娘の証は、村長の証に変化します。まだ融合しますか?』


 うん、面白くなってきたのでまだ融合する。

 この場合、同じ称号である必要がないらしく、融合するごとに段階的に変化するのがわかった。

 最初は『村人/村娘の証』、それが『村長の証』になり、さらに『町長の証』に変化した。

 あと二つを融合すると、どうなるか。


──ゴクッ

 思わず息を呑んで試してみる。


『ピッ……町長の証は、男爵位に変化しました。さらに融合しますか?』

「待て待てまてーい!! 順番なら次は子爵だよな? いきなり良いのか?」


 そう考えて、掲示板の情報交換サイトに向かう。

 どうやら『証』系の融合による身分の一段階上昇は噂では流れており、すでに男爵位を二つ重ねて伯爵位にした人もいる。

 その動画も流れていたから、爵位は二段階上昇なのだろう。

 それじゃあ、爵位と村人の融合は?

 そう思ってマウスに手が伸びるけど。


「こ、ここはストップ。一つだけ残しておけば、あとで交換でもどうとでもできるよね……」


 そのまま男爵位を有効化して名前も設定。

 ついでに外見の設定まで行くんだけど、この外見設定モードが実にイージー。

 自分の写真やイラストを取り込み、それにより外見を自動構成してくれる。

 つまり、どういうことかというと。


「ふっはぁぁぁぁぁ!! これだよこれ!!」


 私が選んだのは、某アニメ『機動銃士ガルディーン』のヒロインである『コハク・サカキバラ』。

 黒髪ストレートのスレンダーな女性で、少し切長つり目のキツそうな女性。

 このイラストをイメージとして取り込み、そこから外見を自動形成。

 流石に著作権絡みのものはある程度のアレンジが加わるらしく、そこから先は手動であちこち弄りまくって。


──ピピピピッ、ピピピピッ

 スマホが鳴り響く。

 

「この音は、大学からか……」


 外部イヤホンもヘッドセットにリンクさせてあるので、右耳のボタンを押してゲーム世界とのリンクを解除。

 そのまま手を伸ばしてスマホに出ると。


『……やあ、本田くん。今日までのレポートは何時ごろ持ってきてくれるかな?』


 秤正太郎はかりしょうたろう助教授の声が聞こえてくる。

 そういえば、締切は今日だったか。


「今が夕方ですから……夜八時までに持っていきますが?」

『それなら明日の朝イチで構わないよ。君は真面目に書いているようだから関心関心。それに引き換え、他の奴らときたら』

「はぁ? 他の奴らって、まだ書いてないのですか?」


 まさか、私以外に締切を忘れる奴がいるとは。


『君は、世界初のフルダイブ式ゲームを知っているかな? 確か、ヨルムンガンド・オンラインとかいう奴だが』

「は、はぁ、名前程度なら存じていますけど」

『どうやら皆んな、それに嵌ってしまったらしくてね。寝食を忘れてゲームに没頭していたらしく、皆、朝イチでの提出に間に合うかどうかって言うところらしい。では、明日の朝、待っているからね』


──プッッ

 うん。

 秤助教授、そのフルダイブ式ゲームには、私も膝どころか腰まで浸かっていますよ。

 でも、私のレポートはゲームを始める前に完成しています。

 こうなる事ぐらい、予想していますよ、ええ。


「さて、そんじゃあ、レポートを助教授にメールして。ついでに私のパソコンにも転送、ついでにクラウドにもバックアップを取っておくと」


 一旦、ゲームから離れて学業に専念。

 レポートの読み込み直しと修正稿を再度送り直してから、明日は学校なので身体を休める事にしたよ。


 ヨルムンガンド・オンラインの世界の中でね。

 

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