第2話・キャラメが自由すぎて困るのだけど
コンビニで、適当につまめるものと缶ジュースを購入し。
本田小町は自宅へと帰る。
【ヨルムンガンド・オンライン】の初期設定中に軽く摘んだサンドイッチだけでは物足りず、さらにこれから数日はチュートリアルを堪能するために、俗世間から隔絶した生活へとダイブするため。
「にししし。これだけカップ麺とパン、コーラがあれば数日は引き込もれる。しっかし……外は暑いなぁ」
照りつける日光から逃げるように、日影を選んで帰路に着く。
途中の公園では学校が休みらしい子供たちが走り回っていたり、仕事中らしいサラリーマンが弁当を食べている光景もある。
5月なのにこの暑さとは、気候変動もここまで来たのかと小町はため息をついてしまう。
「はぁ……あれ、そっか、レポートも書かないと……」
大学院の脳科学研究室に在籍している彼女は、フルダイブシステムと人間の脳の働きについて研究している。
その一環として、ユメカガクが開発したフルダイブ式MMORPGを購入し、実際に体験してみるという名目で購入したものの、実際には自分が楽しむためのものであり、それ以上のことは考えていなかった。
「そうなるとなぁ……とっととキャラクターを作って、チュートリアルを楽しむことにしますか」
フルダイブ機能の全てが使えるようになる『完全稼働日』、つまり全世界同時リンクスタートの日までは、まだ時間がある。それまでには、ある程度のデータも得られるだろうと判断したのだが。
──ガチャッ
帰宅して食料品を冷蔵庫に放り込んでからは、すぐにパソコンの前に移動。
ヘッドセットを装着して『ヨルムンガンド・オンライン』を起動すると、先ほどまで見ていたキャラクターメイキング画面を睨み付ける。
「ええっと……Twitterには何か情報が……と、キャラメはステータスから? アイテムやスキルの個数にも関係する? そんなの当たり前だろうが……」
いくつかの体験談を見てみるが、やはり自分なりに満足のいくキャラクターを作るには『ステータス→スキル→アイテム』の順番で決定したほうがいい。
だが、それでは面白みがない。
何故、このゲームのシステムが『完全なるランダム』で作られているのか?
何故、ポイントを自由配分して好きなスキルやアイテムが取れないのか?
ここに小町は目をつける。
「スキル……だな」
画面をスキル選択に切り替え、スタートボタンを押す。
そしてストップを押した瞬間に、次々とスキルが表示される。
「へぇ、ステータスボーナスがない場合は、初期決定分は6個の固定か……って、なんだこりゃ?」
表示されたスキルを見て、小町は頭を抱える。
『大工3』『騎士道5』『夜目2』『値切り1』『料理1』『水泳1』
「は、はは。レベルって初期キャラクターメイキング時はMAXでも6で、それが出る確率は0.01%なのか……うわぁ、騎士道以外はハズレじゃないかよ」
思わず頭を抱える小町。
さらに、『引き直し』を選択するが、次に並んだスキルは生産特化が殆ど。
『大工2』『鍛治1』『料理1』『短剣技1』『SA-左利き』『騎乗4』
SAはスペシャルアビリティといい、ゲーム内に存在する特殊能力。
これはユニークスキルとも呼ばれ、習得可能人数が制限されている。
「はふぅ……SAはユニークスキル、あれか、SAOのキリトの『両手利き』みたいな感じか。習得制限は……へぇ、ゲーム内120人か」
ゲーム世界でも百二十人しか存在しないユニーク。
ものは試しにネットの交流掲示板を確認してみるが、そこではユニークスキルの噂はあっても、修得した人はごくわずか。
中にはワールド50限定の両手利きだったり、ドラゴンライダーというアビリティを修得したものも存在し、羨望の眼差しで見られている。
「うう、う〜。だめだ、殆どのスキルが1か2だぞ? クエストでスキルを覚えることもできるし、そこでは0レベルで修得可能って取説にも書いてあるじゃないか? つまりこれはゴミスキルか?」
決してゴミではなく、レベル0から1に上げるための経験値はかなり多い。
それでも、掲示板での噂などは、最低でもレベル3は欲しいとか、生活系スキルはあってもひとつだけ、とか。
中には欲しいスキルが手に入らず、一ヶ月後の再キャラクターメイキングまで何もしないという輩もいる。
まあ、大抵は3回目のスキルで妥協し、ゲーム内でスキル修得クエストがあることを期待しているらしいが。
「ラストワン……いくしかない!!」
──パン!!
両頬を叩いて気合いを入れる。
そして『引き直し』を押して、最後の挑戦。
『属性魔術・光2』『釣り4』『解体1』『弱点・蜘蛛系2』
まさかの弱点スキル。
そして最後の一つを願う。
「頼む、頼むから良いスキル……いや、普通のスキルを!!」
『SA-FS±5』
「?????」
表示されたものは、スペシャルアビリティ。
でも、それがなんなのか、全くわからない。
スキル名をタップしても、表示されるのは『フリースライド±5』という説明のみだが、問題はその後のレアリティ。
『1/1』
「……はぁ? ゲーム世界に一つしかないアビリティ? いや、これってなんなのよ、何ができるのよ?」
画面の下には、決定ボタンが点滅している。
その隣の『引き直し』ボタンは消えたまま。
「は、はぁ……意味わからんレアスキル一つと、弱点スキル一つが、私のはじめてのキャラクターですか、そうですか」
ポチッと、決定ボタンを押した時。
『ピッ……スキル修得に、FS±5を使用しますか? Y/N』
そんな表示が流れる。
「んんんんん? これ、ネットで聞いたほうが……いや待てよ?」
よくよく考えてみると、このスキルを持っているのは小町のみ。
それなら、こんな面白いスキルを公開する必要もなく、むしろ隠し通して色々と調べたほうがいいと感じた。
「ここは、イエス……」
恐る恐るマウスカーソルを合わせ、Yを押す。
するとスキル画面が開き、各スキルのレベル部分が点滅する。
「フリースライド……±5……待て待て、まさかだろ?」
慌てず深呼吸をして、属性魔術・光2をクリック。
すると、光2の部分が上下し、最大7、最低0に切り替えられる。
「……それじゃあ、光7で……」
『これで決定しますか? Y/N』
「Yだよ」
決定ボタンを押すと、『魔術属性・光7』に表示が切り替わる。
それを見て、小町は体が震えているのを感じた。
「こ、これって、チートすぎない? だからワールドワンのアビリティなの?」
さらに他のスキルを次々と修正し始める。
信じられないのは『弱点・蜘蛛系2』をゼロにした時。
そのスキル自体が消滅した。
そのまま慎重にスキルレベルを弄り回し、最終的にはこんな感じになった。
『属性魔術・光7』『釣り9』『解体6』『ブランク』『SA-FS±5』
「流石に、±5を10にはできないよね。でも、ブランクって?」
クリックすると、ブランクスキルの説明が表示される。
そこは何もないが、キャラクターがゲーム中に経験したものを、経験値やクエストクリアなどの条件を無視して『レベル1』として習得できるらしい。
「はぁ……まさかとは思うけどさ」
スキルは決定したので、次はステータス。
バックボタンでステータスボーナス決定画面に移ると、やはりそこにも。
『ピッ……ステータスボーナス修得に、FS±5を使用しますか? Y/N』
この画面が出る。
「い、い、イエス!!」
『ステータスドラムが回転します』
イエスを押した瞬間に、ドラムが回転する。
そしてゆっくりと速度が遅くなり、画面には『39』という数値が浮かび上がる。
「これも……変えられるのか?」
恐る恐る、カーソルをドラムに合わせてクリックすると。
──カチッ、カチッ
表示が34〜44に自由に切り替えられる。
「……いや、やり直し」
再挑戦からの、次の表示は『16』。
ここは最後の挑戦ということで、小町は一縷の望みに欠ける。
だが、画面には非常にも04が浮かび上がる。
「スキルでいい目を見たから、ステータスでは悪いことしか起きてないのかぁ」
物は試しにカーソルを合わせる。
すると、表示がこのように変化した。
『99〜09』
「……ん?」
なんなことはない。
ドラムを逆回転させて、00からさらに一つ下げただけ。
「いやいや、おかしすぎるから!!」
すぐさま99で決定し、さっさとポイントを配分。
そして最後はアイテム決定。
ステータスによるスキルボーナスは三つで、あと3個のスキルを修得しなくてはならないのだが。残念なことに、ここはやり直しがなく、一発勝負。
もしも先にステータスを決めていたら、マックススキル数が多い状態でのやり直しであったのだが。
すでに小町は三回分を使い切っている。
「はぁ……欲しいものは当たらないよなぁ」
ボーナススキルは『交渉術3』『肉体言語1』『保存食アレルギー5』
流石にこれをみた小町は、頬を引き攣らせてしまう。
「……よし、アレルギーはゼロまで下げて、ブランクにして。あとはマックスまで……いや、肉体言語もゼロだ、『ブランク』二つ、『交渉術8』でスキルはコンプリート……アイテムは、流石にアビリティの補助はないよなぁ」
少しだけ期待しつつ、アイテム習得画面に切り替えるが。
やはりアイテム修得画面では『FS±5』の恩恵はなく、それらしい表示もされない。
「よし、一休み。少し情報を集めてみよう」
冷蔵庫から缶コーラを取り出して、ひと口喉に流し込む。
そして『ヨルムンガンド・オンライン』の交流掲示板を見て絶句した。
──某・大型掲示板
【世界一斉開放までやることやるぜスレ・その8』
7 ななし
一ヶ月間、俺は楽しめない。お前らガンガレ
8 ななし
>>7
待て待て、まさか再キャラメ待ちか?
10 ななし
>>8
ステータスがよ、00、15、25。
この時点で終わっとるだろ?
15 ななし
>>10
すまん、実は00は、ゼロじゃなくて100。
しかもストックからの再スロットル入るって、海外サーバーで祭り状態だ。
16 ななし
FA?
17 ななし
FA?
18 ななし
>>FA。
確認してきたら、100+100+25という猛者がいる。
トータルで225がステータスボーナスのマックスらしい。
他にも情報欲しいか?
25 ななし
>> 18
因みにだが、スキルから決定する意味はあるのか?
32 ななし
>>25
アイテムからの決定は意味があるぞ。
アイテムの中に【スキルストッカー】っていうのがあって、これにスキルを保存するとスキルチェックのやり直し時には、それは消えないからな。
35 ななし
>>32
俺、スキルストッカー引いたけど意味がわからんからやり直したorz
42 情報屋010
( ´ ▽ ` )つスッ https://***/otakara.jpg
45 ななし
>>42
レアアイテムリストか、サンキュー。
それでよ、アイテムで爵位があるのはなんで?
47 ななし
爵位は、いきなりNPC従者がついてくる。
あと、金と村が貰える。
俺は貰った!!
56 ななし
>>47
いきなりシムシティ?
勝ち組かよ?
57 ななし
割り箸が高騰している件について
海外サーバーでは、あれば忍者に転職アイテムだって噂が流れているぞ
58 情報屋010
転職アイテムは別。
『聖騎士の勲章』『忍刀』『死者の魔導書』
この三つは確認済みで、アメリカ鯖では、RMTで高額取引されている。
なお、アメリカ法人では、RMTは違法じゃないことは覚えておくように。
75 ななし
>>58
情報thx。
日本鯖で高額アイテムを引いて、それを販売すれば金持ち?
83 情報屋10流
>>75
そこが肝でな。
アイテムは交換可能で、RMTで高額販売。
そしてアイテムの中には【スキルストッカー】がある。
意味は分かるな?
♪───O(≧∇≦)O────♪
84 ななし
うわ、【スキルストッカー】って、5000ドルで買い取りあるぞ?
まだ世界サーバーが解放されていないのに?
85 ななし
ちなみに、聖剣を手に入れた俺は大勝利!!
86
ステータスボーナスドラム、77だったがストックされて再抽選入ったぞ?
そのあとが05だったから、まあ、82だがな!!
88 ななし
>>86
乙
………
……
…
「へ?」
掲示板を見て、小町は呆然とした。
さっきのステータスボーナス、00にしておけばストックからの再抽選。
それよりも、アイテムに爵位まであるとは予想外である。
「も、もう少し調べてから……」
再び掲示板を探し始める。
そして海外サーバーの掲示板まで突き止め、その内容を確認している頃には、日付は翌日に変化していた。
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