第63話 敵に回すと厄介


 王はこの時間執務室で仕事をしているはずだ。ミックは中央階段を駆け上がりドアをノックしたが返事はない。


「おい、貼り紙がしてある!」


目の前にあるはずなのに、シュートに言われて初めて気がついた。


[旅のもの、会議室に来られたし]


と貼り紙には書かれていた。ミックがここに来ることは予想済みだったようだ。


 会議室には王が前と同じ席に座っていた。既にベルとディルはいた。


「緊急事態だ。ラズが操られていなくなってしまった。誘拐されたと言ってもいいだろう。そして、ガラの姿を多くのものに見られてしまった。」


そこまでは、ミックも見てきた。問題はそこから先だ。


「ラズが半分ガラだということは、伏せておくべきだ。こちらから、ガラの魔法だとかなんとか言って説明する。そこは我々の仕事だ。」


ここで、王は一息ついた。


「助けに行くのが私達の仕事ですね!」


ミックは身を乗り出した。王はまあ、落ち着けと手でミックを制した。


「十中八九理望の仕業だ。ラズを戦力に加えたいのだ。エンの民の前で变化させることで、帰ってくることができないよう画策したのだろう。が、これは先程も言った通り我々でどうにかする。肝心のラズ救出については、今ミックが申した通りこの4人にお願いしたい。」


王はディル達の顔を順に見つめた。全員が力強く頷いた。


「すまない…万全の体制を整えて理望との戦いには挑んでもらう予定だった。私の考えが甘かった。」


王が頭を下げた。国のトップに2回も頭を下げられる人って中々いないよなぁと、ミックは自分の人生がとんでもないものになっていったのを、こんな時なのにしみじみと感じてしまった。





 ラズが残していった数珠を頼りにベルが行き先を探ったところ、トップスリードという街に理望達はいそうだということだった。ミックの聞いたことのない街だった。ディルが地図を指さしながら解説した。


「トップスリードは、廃墟だよ。昔のこの国の首都。今で言う王都のようなところだったらしいよ。」


廃墟と聞くといかにも悪の親玉がいそうな感じだ。ミック達はクリフに加えて三頭の馬を貸し与えられた。トップスリードまでは、馬で行けば数日しかかからない。


道中、ミックはずっとラズのことが心配でならなかった。ベルは悪いようにはされていないはずだとミックを慰めてくれたが、心は休まらなかった。


「それにしても、いつラズは操られたんだろうな。」


ある日の夕飯時にシュートが呟いた。シュートが以前操られたときは、本が魔法の媒介だった。王都、ましてや城内でガラがラズに接触したとは考えにくい。そうすると、それ以前に媒介を手渡された可能性がある。しかしミック達は、怪しい者からラズが新しく何かを購入したりもらったりしたのは見ていない。謎は解けなかった。


 数日後、もうすぐトップスリードに着くというところで、一行は最後の休憩を取った。装備を整え、作戦を確認した。


「トップスリードの様子がよくわからないから、作戦も何もないんだけど…基本は隠密行動だ。こっちが圧倒的に不利な状況だからね。目的はラズの奪還。打倒理望は、体勢を整えてからでいいから一旦置いと…うわっ!」


説明するディルに、ベルが突然蹴りを食らわせようとした。ディルはかろうじて避けたが、座っていた丸太は粉々になった。本気の蹴りだ。


「おい、まさか…。」


シュートは身構えた。ベルの目は虚ろで何も見ていないようだった。


「操られてる!」


ミックも構えたが、よりによってベルか、と思った。この中で近接戦闘が一番得意なのはベルだ。怪我をさせずに気絶させるのは、相当難しい。


「何で…まさか!」


ディルは何か気付いたようだが、ベルがまた攻撃を繰り出した。かわせるがベルに反撃するのは無理なようだった。ミックは後ろを取ろうと動いたが、すぐに気付かれてしまい、流れるような攻撃の数々を避ける羽目になってしまった。味方だと心強いが、敵に回すとやっかいなのは買い物以外でも一緒だな、とこんな時なのに考えてしまった。

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