第57話 最後の足掻き

 ラズはベルに剣を渡した。ベルはそれに光をまとわせた。そしてそれをシュートが作った氷のボールの隙間から差し込んだ。ゾルの胸に刺さった。


「ぐあぁ…!」


ゾルが苦しみだした。


「答えろ。貴様の目的は何だ?理望との関係は?」


ゾルはラズのことを睨みつけた。ベルがさらに深く剣を刺した。ぎゃあぁぁ!とゾルは悲鳴を上げた。


「は、話す…!だから…一旦剣を抜きなさい…!」


ベルが剣を抜いた。ゾルはまだ苦しそうに喘いでいたが、ラズは容赦なく話すよう促した。


「私はただ、頂点に立ちたかっただけです。姫の真名さえ知ることができれば、理望をも上回る力を手に入れられると思ったのです。」

「貴様が城内に入ることができたのは、理望の手引きががあったからではないのか?」


知らないのか、と馬鹿にするようにゾルは笑った。


「私は結界が弱まった常闇の鏡から出ただけです。城巫女の結界は月に一度弱まります。今までは姫がそれをカバーしていたけれど、あの日はそれがありませんでした。」


ディルが姫に別れを告げた日だ。なんと皮肉なことなのだろう。恐らく姫は結界を守れるような精神状態になかったのだ。


「理望は私を利用したいだけです。あなた達にこんな風に情報を流すことが、嫌がらせくらいにはなるかもしれませんね。」

「そう思うのなら、知っていることを全部話せ。」


このゾルが言うには、理望はただのガラではないとのことだった。ラズ達は真名を知ったにもかかわらず肉体がないことは知っていると伝えたが、そういうことではない、とゾルは笑った。


「あれは、神です。」


どういうことだ。神話に出てくる神のことだろうか。そんなものがこの現界に存在するとは思えない。しかし、この流れで比喩表現として使うにしては違和感がある。


「わりぃ、これ以上抑えるのはキツい…。こいつずっと抵抗してんだ。」 


氷のボールに向かってずっと両手を向けていたシュートが、ガクッと片膝をついた。ラズはベルから剣を受け取り、闇の魔力を流した。光の系統の魔法だけではゾルは完全には倒せない。闇の力が必要なのだ。


「貴様のようなやつにはもったいないが、苦しまないように消し去ってやる。」

「あぁ…儚い夢でしたわ。でも、もう疲れました…。」


ラズは容赦なくゾルを刺した。ゾルは悶え苦しみ、しばらくすると形を保てなくなり黒い靄の塊になった。そして、徐々に縮んでいき、最後には消えてしまった。


「終わった…のか?」


ラズが頷くのを見て、シュートが魔法を解いた。そしてその場にへなへなと座り込んでしまった。ベルもシュートの隣にドサッと座り込んだ。脱力してしまったようだ。


「倒したんだね!」


ディルが駆け寄ってきた。ミックが慌ててその後を追っている。


「石が反応しなくなったんだ。」


ディルが首に下げている石の入った巾着を取り出した。いつもなら、どこかに引っ張られて真っ直ぐ下に下ろされることのない巾着が、すとんと落ちている。


「ほんとに…?」


追いついたミックは驚きと疑いと喜びと様々な感情が入り混じった表情をしている。ラズが頷いたのを見て、ミックの目にブワッと涙が溢れた。


「よかったよ〜…!みんな無事で…これで、シュートも、ディルとベルも…ラズも…ずっと抱えていたもの色々…うわーん!よがっだあ!!」


ラズは思わず笑ってしまった。ミックらしい。人のためにこんなに涙を流せるなんて。立ち上がったシュートがミックの肩を抱いた。慰めるのかと思いきや、


「ほんとになぁ!よがっだぁ!!うわーん!!」


一緒に泣き出した。ベルとディルはそんな二人を見てラズと同じように笑っていた。





 モデローザから王都へ、例のゾルを倒した旨を記した手紙をハヤブサ便で飛ばしてから、一行は帰路についた。ラズの提案で二手に分かれて帰ることになった。


「ディルは一刻も早く姫の安否を知りたいだろう?」


ラズがドラゴンに变化して、ディルを運ぶと言った。


「いいね!ラズだったらニ、三日で着けちゃうよね。」

「お前も一緒に来るんだ、ミック。」

「え?」


予算の都合だとミックは言われた。王都まで馬を走らせれば、半分以下の日数で帰ることができる。しかし、残りのお金で借りられる馬は一頭だけだった。シュートはもう二度と空の旅はごめんだときっぱりと断った。すると残りはベルかミックになる。前回と同じく体の軽い方ということらしかった。


「心配なのね。理望がまた狙ってくる可能性があるとしたら、あなたかミックのことだものね。」


ミックに聞こえないところでベルがラズに囁いた。


 

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