第29話 盗み聞き
自分たちで仕留めた鹿のスープの昼食後、ミックはクリフにブラシをかけに行こうと、集団の外れへ来た。俺もクリフともっと仲良くなりたいと言うシュートも一緒だった。
餌が入った馬車に手綱を括り付けられている馬たち。その間を、初夏の爽やかな風が吹く。彼らはのんびりと餌を食んだり耳を小刻みに動かして周囲の様子を窺ったりと思い思いに過ごしている。ミックがクリフに声を掛けようとした時、誰かの切羽詰まったような声がした。
「ベルさん、お願いです!このまま鷹の塊に留まって……俺と付き合ってください」
え、ベルが告白されてる!ミックはドキドキして気まずくなり引き返そうかと思ったが、シュートは盗み聞きができるようにミックを馬車の影へと引きずり込んだ。
告白したのは、鷹の塊のツイストだ。ミックは一緒に狩りに行ったことがある。弓矢の扱いが上手かったし、明るくて冗談を沢山言っていた。歳は恐らくベルよりはやや下だが、ベルにはお似合いな気がした。
一般的には、ベルは結婚していてもおかしくない年齢だ。本人が望んでいるかどうかはわからないが、もし将来的に家族を持ちたいのなら悪い話ではないかもしれない。
しかし、今は旅の途中だ。ベルはなんと返事をするのだろうか。ミックは気になって仕方なかった。隣で息を潜めているシュートは、自分が告白しているかのように緊張した面持ちだ。
「ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられないわ。私は大切な旅の途中なの」
断った!シュートはガッツポーズをしている。ベルが旅から抜けてしまったら、戦力的にはもちろん、精神的にも辛い。ミックもツイストに同情しつつ良かった、と息を吐いた。
「わかってます……。もし俺がその旅が終わるまで待つって言ったらどうしますか?休憩中、あなたの舞を見ました。とても、美しかった。そして、それを仲間に教える明るさや優しさ……俺にはあなたが必要です」
ツイストは本気なようだ。こんなに一途な想いを向けられたら心が揺れるんじゃないだろうか。悪いと思いつつ、ベルの次の言葉にミックは聞き耳を立ててしまう。シュートに至っては、額に汗をかいている。
「そんなことさせられないわ。あなたには私よりもっと相応しい人がいるわよ」
「そんなこと……」
ツイストの声は懇願するような響きを持っていたが、ベルは遮った。
「私は呪いが発動しているの。誰とも結ばれることはない」
ベルの断固とした態度と言葉に、ツイストは衝撃を受けたようだった。目は大きく見開かれ、何も言い返さない。ミックとシュートは顔を見合わせた。呪いが発動している?
「塊が違うから知らなかったでしょうけど……。とにかく、ごめんなさい。でも、あなたの気持ちは嬉しかったわ」
頭を下げるベルに、ツイストは震える声で時間を取らせたことに詫びと礼を述べ、去っていった。
ツイストはミック達のすぐ脇を通ったが、涙で視界がぼやけていたのかこちらには気付かなかった。盗み聞きの罪悪感とベルの謎の発言に、ミックの胸の鼓動はいつもよりずっと強く速く打っていた。
ミックは今聞いてしまった話を頭の中で繰り返した。呪い、結ばれることはない、塊が違うから知らない……塊が同じならば知っているということか。そして、塊が違ったとしても、その呪いについては秘密にする必要はない?昨日のスピアの「呪われている」という言葉は事実だったのだろうか。
「あなた達、いつからいたのよ?」
「うわぁっ!」
「うおおっ!」
考え込んでるミックとシュートの目の前に仁王立ちしたベルがいた。口から心臓が飛び出さんばかりにミックは驚いた。
「もしかして、最初から聞いてた?」
仲良く尻餅をついたミックとシュートをベルはぐいっと引っ張り助け起こした。立ち上がった二人は、揃って頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「悪い」
言い訳せずあっさりと認める二人をベルはしばらく睨みつけていたが、諦めたようにため息を吐いた。
「わかったわ。聞いてしまったのなら、教えましょう。中途半端に知られて、誤解されるのは嫌だもの」
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