第15話 波乱な合宿(前半)

 俺たち(主に晴矢)が必死に掴んだ夏休みが始まった。しかし、俺と晴矢に遊ぶという事はまだ速い。


「よし、じゃあ荷物を詰めろ」

「「はい!」」


 先生のかけ声と共にデカい鞄達をバスに詰め込んでいく。


 陸上部に訪れる夏休みイベントはすなわち合宿だ。俺たちだけでなく地域混同合宿となっていて他校との交流、専門種目ごとに別れより強い人と競い合い学べる、それぞれの種目に強い地域の先生が担当し専門的に教われるといった神イベントだ。


「すごいねーめっちゃ荷物ある」

「1泊2日だからな。皆は着替えに補助食、スパイク、こだわる人は安眠に何か持ちよったりプロテインやら色々持ってきてるんだ。」

 俺は保健室から道具を持ってくると言う口実で学校に入り春と合流した。


「お泊まり?」

「あぁ。企業が研修に使う2人部屋で最小限しかないけど」

 そういうと、春はそっかあと言いながら頭を揺らしていた。髪の毛のせいで暑そうだな。


「暇なら来るか?」

「そうだなあ。あっそういえば……もし、違う場所で夜過ごしたらどうなるのかな?」

 前は迷っていたら元に戻ったと言っていたが、1日過ぎたらどうなるんだろ?


「試してみるか?多分、空き部屋はあるから静かにするならそこで寝たらいい」

「じゃあやってみよっかなあ。それに、陸上部の皆なんか好きだからもっと見たいし」


「そうか。」

 俺は何食わぬ顔でみんなに合流しバスに入った。3年生の1部はもう引退してしまって前よりは空いている。少し寂しいがな。


 最後に春はバスの入る足場で腰を降ろし、俺はマネージャーとして扉くらい閉めます。と先輩に変わって閉める。



「よしお前ら出発するぞ」

「うえーい!」

「なあ、あいつ補習で来れなかったやつじゃん」

「可哀想に。皆で手を振ってあげようぜ。」


 そして、晴也が命をかけていた理由は怒られるのと、補修だけでなく合宿に補習組はいけないルールだからだ。晴矢は補習に行く人達をみて間一髪で参加できる事に喜んでいた。



「おー晴也も31点か!」

「まさか先輩もですか!」

 晴也と危なかった先輩は笑い声をあげ、俺と教えた先輩は目線で労っていた。夏休み気分の初めという事もありバスでは騒音に近い声が溢れていた。



「お前は夏休みなのに変わらないな?マネージャーだし楽しくないか」

「夏休みだっては思う。だが、ここまで騒がしい方がおかしくないか?あんまり気が上下するのは後で疲れるからなあ」


 晴也は俺の具合でも悪いのかという顔をしてきた。ただ、今は上から落ちそうな荷物。運転が荒い先生に振り回される春。うるさい部員と沢山気になることはあるが一々心配するほど僕は繊細ではない。




 昔は選手だった癖があるのかもだが。競技場に行くだけで気分が一定になる。




「俺はこれでも楽しんでる」


「そうか! ならいいんだ! なあなあ、あの競技場の近くにうどん家あるだろ? お昼そこで食べないか?」




 そういえば、お昼ご飯は各自自由だったな。うどんなら大体何食べても400円あれば十分に食べれるしいいな。




「よし行こう」


「よしきた!」


 と言っていたが、31点の先輩が顔を出した。




「それは無理かもしれないぞ?雨季は藤田先生の手伝いで棒高だろ?棒高は昼休みの時間がバカみたいに遅れるから別々にした方がいいかもな?一緒に食べようと逃したりするし。」




「確かに。」


 棒高は1人飛ぶ事に微調整で動かさないといけないし時間がかかる。それでも、誰よりも上手くなりたいと飛び続け時間が伸びるのはあるあるだ。




「じゃーまた他の時だな」


「あぁ」


 少し楽しみにしてたんだがな。あそこ安いしトッピングも良しで味が豊富なのに。アホみたいにトッピングを載せる晴也が見たかったが仕方ない。




「雨季は棒高のやつで行くか俺の持っているプロテインバーだな。晴也は俺たちとうどん食べるか?」

「本当ですか?」


「こいつ、イントラで仲いい女の子が出来て調子良いから奢ってくれるってよ」

 晴也は先輩達にも好かれていているな。というより、ここの先輩は皆いい人だな。


 おそらく他学校となると、またあの人に会わないといけないのが辛いところだ。仕方ない。俺がやった事なんだから。



 そして、開会式が始まり長い挨拶が終わった。よく合宿の話題でここまで皆の神経を削れる事だ。春は欠伸をしながら競技場のロビーで休んでいた。


「では、今から開始します。それぞれ指定された場所に行くように!!」

 どこかの先生の声が響き俺達は別れを済ませた。


 棒高跳びの前に行くと相変わらず知っている先生と生徒の顔ばっかだった。ま、地域の合宿あるあるだ。


「三須輝くん?」

草原くらはら?」

 もちろん、自分の知り合いもいるという事だ。


「合宿にきたんだ」

「まぁ、先生の補助だ」

 彼女は俺を珍しいなにかだと思っているのか感動しているようだった。


「じゃあ、今日はよろしくね」

「あぁ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君と出会う春 大井 芽茜 @oimeamea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ