第14話 ――山場

 ――夏休み間近


「学生として大切なものはなんだと思う!?俺たちにしかない特権の夏休み、部活の練習を毎日取り組む! 海に行く! 青春する! だが、それを邪魔するものがいる! そ、それは!!」


「テストかい?」

「テストだな。」

 晴矢はそれを聞いた途端、ドンッと机を叩いた。周りには一瞬時間が止まったかのような空気が流れる。

 変人集団扱いされると困るしやめて欲しいのが本音だ。


「ふふん、僕はちゃんと毎日勉強しているからね。」

「俺もある程度復習はしてるから赤点は取らないと思う」


 今はテスト期間。部活は個人で練習はできるが後で先生に赤点を取ったことを詰められる事を考えると今は勉学に励むのを勧めるしかない。


「裏切り者ー!! これでは夏休みが補習で潰れるじゃないか!」

 夏休み前、俺ら (晴矢だけ)は期末テストに追われていた。というのも、いちようこの高校は学業と部活の文武両道を謳い、進学校としても有名だ。まあそんな学校が赤点(30点)を許すわけがない。


「裏切ってない。僕は君によく課題みせてあげただろ?そのたびに言ったさ、見るだけじゃダメだよって」

「そういえば俺も、よく課題見せてたが。少しくらいはしなきゃダメだぞ。」


 俺は陸上をしないと決めてから、とりあえず地域で少しでも頭が良い学校に行こうと勉強して今に至る。その経験もあって勉強習慣はつくようになった。大学に行くには勉強しかないし。


「うっ…う……」


 ちなみに、晴矢みたいな部活で入学した推薦組は3分の1ほどいる。秀でたスポーツの才能で中学を乗り越えた人間、スポーツに日々を費やす彼らは小テストすら勉強する時間が無く難しく感じるのは仕方無いかもしれない。


 中間テストでは1部の真の文武両道を除き推薦組が下に偏り先生がため息をついていた。まあ入学させたのはそっちだからな。仕方ない。ちなみに俺は平均ちょい上だ。


「なあ、お前ら。とらまめ島は俺がいないと楽しくないよな!?」

「「……うーん」」


 確かに。俺と紫雲は静かだが。俺達は目線を合わせると首を傾けた。


「まあやっていけなくはない。よくユメタンで会って話しているし」

「君が中間テストの補修の間に雨季君からユメタンの素晴らしさを教えられてね。よく行くようになって、たまに合うからそのたびに話しているよ。」

「そういえば、ユメタンのゲーセンに100円でほぼ確定のやつが……」

 可愛いぬいぐるみがあったんだが、春にあげたら喜ぶかな。


「ええい!ユメタンはいまはどうでもいい! 言いたいことは分かるだろ! 近くにマクロがある。俺が奢る!」

「君本気かい?確かに新作の剣士バーガー食べたかったけど」

「新作のフロートが話題になってたな。こんな夏には少し飲んでみたいが」


「よし! 俺に付いてこい!」



 ――数分後

「トマト醤油剣士バーガとマクロフルーリーください!」

「びっぐばーがー、ドリンク変更でレモンソーダーフロート。以上で」

 俺は何年振りかにマクロに来た。最近はよく分からない100種類のぬいぐるみでイントラ狙いの女が争っていたとか。


 まあ、ブームも終わって今は静かだな。


「お前ら好き勝手頼みやがって!」

 晴矢は財布を震わせながらポテトを1つだけ頼んでいた。ちなみに買いすぎたと反省した俺たちは半分払っている。


「安心してくれ。報酬分の働きはするさ」

「あぁ。あと、少し陸上したいだろ?必要最低限に短時間で出来るメニューを作る」


「それは本当か!? なんて最高だ!俺は良い友を持ったなあ」

「今気づいたのかい?もっと感謝したまえ」

 全く調子がいいな。気を取り直してやっていくか。


 紫雲は出そうな問題を抜粋して問を出し、晴矢は唸りながらも解いていく。俺は解き方の解説をしていた。


 ちなみに紫雲はよく言う天才型だ。何故分からないのか分からないというよく聞くアレなので、自分なりに分かりやすい解き方を無理やり覚えている俺がカバーする。


「化学式はいけるでしょ?ここは絶対に出る。」

「先生がお経唱えてるから寝てたんだが。こんなに覚えないといけないのか?」


「確か覚え方がある。水平リーベ僕の船……って先生が言ってただろう。それを先に覚えた方がいい。」


 ――1時間後

「メロンソーダって何杯飲んでも美味しいよな。」

「続けるぞ。ここ、おそらく同じような難しい問題がでるはずだ。配点は高いから確認した方がいい。答えをxに入れれば大体の問題は正解かどうか分かる。」

「日本史と地理半分ダメじゃないか。あんなにしたのに……明日までに覚えきてよ?暗記するだけじゃないか」



 次の日

「このthatはなんだ?」

「それは意味を持たないやつだ。繋ぎ分みたいな扱いでいい。あとcan i have eat it はcan l でしてもいい?という形の疑問文になるから食べてもいい?だ」



 3日後

「サーキットを作った。せっかくだし今いるメンバーに声掛けて取り組む」

「あぁ! といったが、結構ハードじゃないか?」


 ハードル、30mタイヤ押し、帰りはタイヤ引き、バウンディングと言われるリズム走、その他ダッシュ、筋トレもろもろ混ぜ込んだメニューを俺は作り出した。


「ありがとうな雨季! 俺もやばいのは分かってるんだが来てちまうんだ」

「合宿行きたいなら後輩にちゃちゃ入れずに帰れ……といいたいが今回は満足して速く帰れそうだな」

先輩達も同じ状況の人が多いらしく誘ったらゾロゾロと集まってきた。


「晴矢もやばいのか。あ、俺が教えてやろか?」

「いつも俺が教えてギリギリだろ。晴矢は雨季が教えるんだ。邪魔するな。引っ張るもの同士頑張ろうな」


「はい!」

「「おい!」」

俺と同じような立場の人間がいるとはな。


「何周いくの?」

「3週行きましょう。初めます」

俺は笛がなる機械のボタンを押し、ストップウォッチを起動した。


 数分後


俺が考えたメニューはしっかり的を得られたらしく海のように人が倒れていた。いちよう藤田先生にアドバイスもらったし、いい経験になったな。


「……死ぬ」

「帰るぞ」

 この日々が俺たち (晴矢だけ)の夏休み前の鬼門だった。倒れ込んだ晴也を引きずり晴矢の家に紫雲と入りシャワーに押し込んだ後、知識を詰め込んでいく。



「もう無理」

「そんな君にてんててーウィンゼリー!! 雨季くんが走って買ってくれたんだ」

 俺らも暑さと晴矢の酷さに頭が壊れていくようだ。そう、これが僕らの最終兵器! ウィンゼリー! ラムネ味! と言っても、さっき紫雲がツイトラで話題になっているのを見ただけだが。


 近くにイヨオあるし5分あれば十分だ。春もこっそり着いてきたらしく教科書を嫌な顔をしながら読んでいた。


「いつも飲んでるやつじゃん。ブドウ糖味はなんの意味もないから飲んだことが……」

 晴矢は蓋を開け飲み込んだ。


「――!!」

「さあ、最後の追い込みだ」

 彼の身体は青いオーラを纏いながら目を見開いた。高くあげたシャーペンは絵を描くように踊っていく。


(「「これならいける!!」」)




 ――テスト明け

テストが終わり1週間たっていた。先生が普通の表情で結果を渡してくれた。


「どうだった?僕は3位」

「俺は11位だ」

 俺の点数は45点のギリギリもあるが全てクリアしている。


 「あとは」

 「あぁ」

 俺たちは先生に紙をもらいにいく晴矢を見ていた。各授業で貰えるが最後にまとめたやつを見た方が心臓に優しいので長い間様子見だったが。


 「なんで不安そうにしてるんだ! 見ろ! この完璧を!」

 40.38.31.51.39……


 「30点以内がない!」

 「まじかよ」

 何度確認したが赤点ラインである30点を上回っていた。そういえば先生は少し驚き嬉しそうな表情で渡していたな。


 流石に次に手を貸すことは無いとおもうから勉強し始めたのだと感動する先生の悲しむ未来がみえる。


 「当たり前だろ! あんなにしてくれて赤点なんか取れるか」

 「あぁ確かにあんなにしたらいけるよな」

 「31点あるけど赤点じゃなければなんでもいいか」

 俺たちはテスト用紙を片付け、鞄を机に置いて荷物を詰め込み、いつでも立てるように取っ手を手に取った。



 「テスト結果返したし、宿題も渡した。連絡事項もよし。赤点は残って補習の説明。あとは……うん、では楽しい夏休みを!!」

 「「しゃー!!」」

 山場(晴矢だけ)を乗り越えた俺たちに夏休みは幕を上げた。

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