第13話 ――夏のはじまり
――夏
「雨季君! こっち、こっち!」
「すぐに行きます!」
俺は汗だくになりふらついた先輩を日陰に連れて行った。
「あちゃこりゃー。一大事だね」
「先生が重症ではないって言ってたけど様子はしっかり見ないとね。」
すぐに彼を寝かしOSワンをそばに置く。先輩は目の焦点が合いにくく顔も赤くなっているようで少しでも間違えれば救急車もありえるだろう。
「意識は大丈夫! 脇に氷!」
「はい。」
俺はすぐに氷を取りに行き先輩の元に持っていく。マネージャーの先輩はすぐに氷を袋に入れ手首や脇、足裏、股関節のあたりに置いた。
「これでひとまずは大丈夫。まぁ夏だからこれからも増えると思うよ。」
「雨季君速いねー助かっちゃう。」
彼女たちは汗を拭きながら様子を先生に報告していた。俺はパタパタとマットで彼を仰ぐ。
「まだ7月なのに30℃を越え続けるとは思いませんでした。」
「最近はそんなもんだよー」
そう言うと、先輩は大きなスポーツドリンクを持ってきた。
「雨季君! これやるからもうひとっ走りお願い」
「分かりました!」
すぐに大きなクーラーボックスを担ぎながら炎天夏の中を走った。
「大きなケースだねー。この中に入れるの?」
「あぁ。暑いしメンバーも多いから氷が沢山いるんだ。」
春は興味深そうに見ながら隣の機械から製氷器から氷を入れる。なくなったと思えばゴロゴロと出てくる氷に春は驚いていた。
「そう言えば、春は暑くないのか?」
「暑いけどこの格好だし日陰でいるから。まぁ倒れた所で死んだりはしないよ。」
「それはそうだが……」
「大丈夫。ほら雨季君、もういっぱいだよ」
気づけば氷でいっぱいになっている。俺は急に重くなったクーラーボックスを必死に持ち上げて運んだ。
「雨季君頑張ってね!!」
「ありがとう。」
春はガッツポーズをしながら可愛らしく微笑んでいた。
「はい、スポーツドリンクです。3年生から取りに来てください。お茶や水もあります」
そう声をかけただけで一斉に息を切らしながらに俺の元に走ってくる。
「ヨコセクレ……」
「ノドがっ」
「――すぐに!!」
「はい!」
紙コップに氷を入れ倉庫に入ったドリンクを注いでいく。
「ありがとな雨季! くぅ~生き返るぜ」
「いやー俺走馬灯見えてたわ」
「もうそれ熱中症じゃん」
先輩はニコニコしながら飲み干し、次第に2年、1年とドリンクを求めてやってくる。
「あ~うめぇ」
「今日はまだ大丈夫そうだな」
「ナツナレ?ってやつだ。なんかやってた。最初よりはマシになっただろ?」
晴矢はゴクゴクと飲み干し清々しい顔をしていた。2週間くらい前はすぐに日陰で倒れ込んでいたが夏になれた物だ。
「ねぇねぇ聞いた?なんか!あのベランダで閉じ込められて熱中症になりかけた生徒がいるらしいよ」
「ほんと?じゃあ前開けっぱなしになってたのは……」
「多分ね。猛暑が続く限りそうなんじゃない?」
2年の先輩がコップを片手に話し込んでいる。そういえば今日は開けてないのに当たり前に僕の傍に来ていたな。
部活が終わり、春は俺の自転車の近くで待っていたので鞄からとあるものを取り出した。
「これ私に?」
「あぁ、暑いと思って」
春は先輩から貰った余りのボカリを渡した。
「そういえば前、春のいる場所で倒れた人いたのか?」
「うん。私が上で涼んでいたらドアを叩いていている人がいてギリギリ助けて貰ったようだけど危なかったね」
俺は自転車を押しながら少し先の公園に二人で行った。
「美味しい! で、その日から鍵も開いているしドアに変な物をつけてドアが閉まりきらないようになっているんだよね。おかげで水も飲みに行けるようになったんだ。暑かったら休めるし」
「その人には悪いが春にとっては良かったな。」
「うん。それにこれから夏休みだし学校が開いてなくても頑張って抜ければ雨季君に会えるよ」
春は機嫌が良さそうに足を伸ばしながら身体を揺らしていた。でも、これなら夏休みが来ても春と一緒にいられるようだ。
「そういえば、晴矢がトラ豆島に行こうって言ってたんだ。」
「まさかの二回め?」
「そういう事だ。春もいくか?」
そういうと、うーんと言いながら考えこんでいた。
「でも迷惑にならない?」
「いや、俺は前のことがあったから怖いかなって。春にはあまり構えないかもだけど、他の場所とかブラブラしてみたいかなって」
前に春は倒れてしまったし、あまり周りきれなかったことに俺は少し後悔があった。物珍しいものもあるし見るだけでも何か掴めるかもしれない、それに、もっと学校以外の場所を観光をさせてあげたい気持ちがある。
「じゃあ行く」
「分かった。また日は言うから」
「うん、楽しみにしてるね。」
春はブランコから飛び降りて勢いよく頷いた。
「まぁ、俺は大会の補助があと二回くらいあるから頑張らないと」
「もちろん私も手伝うからね」
彼女の笑顔に俺は自然に笑っていた。
このまま一緒にいれたら面白いのに。……いや、そんな考えはだめだ。
俺はただ彼女の記憶を、その不思議な状態を何とかしたいんだ。彼女がもっと笑顔でいてくれるのはどうしたらいいんだろうな。
「あっ夏休みになったらやりたい事あるんだ! 平日の昼間は家族いない?」
「いないけど……」
そういうと嬉しそうにポカリを無意識に振っていた。
「じゃ、雨季くんのお家に行きたい!」
「え?なんで」
「楽しそうだから! だめ?」
あの家を見せても何も無いんだが?まあ、ずっと学校で暇そうだし暇つぶしにはなるか。
「別にいいけど」
「やった。夏休み楽しみだなあー」
ポカリは振ったら美味しくない。ワクワクさせながら飲んだポカリは不味いらしく春はうぇ。という顔をしていた。
夏休み色々あるし楽しみだな。中学生の時はそんなの感じなかったんだが。
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