第9話 ――6月
「雨季くん湿気が凄いから、弾がしなれてないか確認してね。」
いつもより張り詰めたような視線を感じながら、俺はピストルを打っていく。
ま、今日が最後の練習だ。皆のためにも気を抜くわけにはいかない。
幸い雨も降っていないし天候も味方しているように感じる。
マネージャーの先輩は、俺に練習の手伝いを任せると、大会への準備を始めていた。
「湿気やばっ! 旗干した方がいいかな?」
先輩達が騒がしそうに荷物を出している。なんか作業を押し付けているようで申し訳ない。
「いやー今日は身体が重いな」
「逆に軽い方が明日やばいだろ」
「それもそうか。」
スタートダッシュ。通称SD。俺は頼まれた分だけピストルを打ち、水を飲んでいた。
いつの間にか大会への準備が終わり、先輩達も次第に帰っていく。
「よっしゃー、明日が本番だ!」
「はい! 応援してます!」
俺は、先輩達が帰っていくのを見送り帰宅の準備を始めていた。
「今日は蒸し暑いねー」
「そうですね」
部長とも話すくらいには、この環境に馴染めている。
それにしても、春はあっという間に過ぎていき、もう6月になっている。時間というのは速いものだ。
6月と言っても……もう夏と言って変わりない。立っているだけでフラフラしてしまいそうだ。
俺は、挨拶を終わらせるといつものようにベランダへと向かった。
「今日は速いね。明日はえーと」
「総体だ。」
「あーそれ!」
春は日陰に張り付くように端に寄り、足を伸ばしながらベランダの柵に座っていた。
「私も行きたいな。」
彼女はそう小さく呟いた。
「勿論来てくれ。それに、春が来た方がなんか良くなる気がする。」
これまで、何回かは連れて行ったが……行くたびに皆の調子がいい。
俺としては逆に来て欲しいくらいだ。
「やった!」
「でも……俺は忙しいかも。」
総体では、3年生は最後の試合のため補助員をしない。だから、マネージャーと部員で補う必要があるが結構な量だ。
だが、心残りなく送るのが俺達の役目だし、頑張らないとな。
「いいよ。たまに手伝うしね。」
「助かる。じゃあ今日はもう帰ることにするよ。明日速いし。」
「うん、じゃあね!」
春はニコニコと嬉しそうに手を振った。彼女の笑顔はこんな暑い中でも清々しく見えた。
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