第213話 あの頃に戻れたら

 高校生になっても、相変わらず私とアドルフ様の関係は変わらなかった。


 あの卒業記念パーティーで少しは2人の距離が近づいたのでは……と期待していただけに、落胆は大きかった。

 

 せめてクラスが同じならまだ良かったかもしれない。けれど私はAクラスでアドルフ様はCクラス。

 学院で顔を合わす機会はあまりなかった。


 アドルフ様がわざと成績を落としているのは分かっていた。

 その原因は多分、ブラッドリー様。

 でも、何故アドルフ様はブラッドリー様と同じクラスになる為に勉強の手を抜いているのか……その理由だけはどうしても分からなかった。


 何故ですか?アドルフ様。

 そんなにブラッドリー様が大切なのですか?

 あの方は、もしかするとアドルフ様に背中の傷を追わせた人かもしれないのに?


 けれど私にはそのことを告げる勇気が無かったし、何より私とアドルフ様の関係は破綻している。仮にそんなことをアドルフ様の前で告げれば、きっと私は完全に嫌われてしまうかもしれない。


 それだけは……絶対に嫌だった。



 私はアドルフ様との接点をどうしても断ち切りたくは無かった。だから毎週末、どんなに両親に止められてもアドルフ様に会いにいくことをやめなかった。


 会いに行っても冷たい言葉で追い返された。それでも時折見せるアドルフ様の申し訳なさげな表情が、まだ私の心をつなぎとめてくれた。


 そして……私たちの関係は拗れたまま、とうとう最終学年を迎えてしまった――。




****


 11月も押し迫ったある日のこと。


 クラス委員の私は12月に行われる創立記念式典パーティーのプリントを貰いに職員室へ向かっていた。


 その時――。


「おーい、エディット!」


 背後からブラッドリー様が私を呼ぶ声が聞こえ、立ち止まって振り返った。


「何でしょうか?ブラッドリー様」


 ブラッドリー様が学院内で声を掛けてくることは珍しいことだった。


「12月に創立記念式典パーティーが行われるだろう?もしパートナーがいないなら俺がなってやろうかと思ってさ。どうせアドルフには断られたんだろう?」


 またブラッドリー様は私を誘ってきた。だけどブラッドリー様と参加する気は全くなかった。


「アドルフ様には…‥まだ声を掛けておりませんが……で、でももし、アドルフ様に断られたら、1人で参加します……」


 ブラッドリー様と視線を合わせにくくて、俯きながら自分の気持ちを語った。


「そうか……。アドルフからエディットを誘ってみろって言われたんだけどな……。まぁ、仕方ないか」


 え?ブラッドリー様の言葉に耳を疑う。そんな……!アドルフ様の方から、私を誘うように声を掛けられたなんて……。


 心臓の動機が激しくなる。


「でも、気が変わったらいつでも俺に声を掛けてくれよ。待ってるからさ」


 ブラッドリー様は笑顔で走り去って行った。


 申し訳ございません……ブラッドリー様。

 私はアドルフ様意外とは、パーティーに参加したくありません。


 心の中でブラッドリー様に謝罪した。



 だけど、この創立記念式典パーティーだけは、どうしてもアドルフ様と一緒に参加したかった。


 何故なら、この記念式典パーティーの為に既にドレスを用意していたから。

 6年前にアドルフ様と踊る為に着ていた青いドレス。その時とそっくり同じドレスを着て、2人の関係を修復したかった。

 それが例え儚い願望なのは分かり切っていたけれども。


 私は毎日神様にお願いした。

 

 あの頃の私たちのように、また再びアドルフ様と恋人同士になれますように……。

 



  そして……ついに私とアドルフ様の運命を変える、その日がやってきた――。

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