婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第212話 中等部の卒業パーティー ②

「何だよ、お前……ハンッ！見たことない顔だな……つまり、下級クラスの生徒だな？」

　この学院は身分よりも成績優秀者のほうが優遇される。その為、Aクラスの人たちは他のクラスの人たちを見下す傾向にあった。

「だったら何だって言うんだよ？それより嫌がっている相手に無理やりダンスを強要するなよ」

　背の高いアドルフ様はトーマス様を上から睨みつけた。その目はとても怖かった。

「う……」

　トーマス様はたじろぎながらも私から手を離した。

「こ、これだから頭の悪い人間は野蛮で嫌なんだよ！」

　吐き捨てるように言うと、トーマス様はその場を逃げるように去って行った。そんな彼の後ろ姿を黙って見送るアドルフ様。

　そしてアドルフ様は次に私に視線を移し、黙って見つめる。

　こんなにアドルフ様が近くにいるのは3年ぶりだった。本来ならとても嬉しいはずなのに今は気まずくてたまらない。

　でも……でも、何か言わないと……。

「あ、あの……助けて頂いてありがとうございます……」

　俯きながらお礼を述べると、突然頭に手が乗せられた。

　え……？

　驚いて顔を上げるとアドルフ様はじっと私を見下ろしている。

「あ、あの……」

「大丈夫だった？」

「！」

　その言葉は……3年前の頃のように優しげだった。

「は、はい……」

　返事をすると、アドルフ様の手が離れていく。それが凄く寂しかった。

「エディット」

　尚もアドルフ様は私に声を掛けてくる。

「はい……」

「そのドレス……」

「え？」

　その時――。

「おーい！アドルフッ！」

　突然背後からブラッドリー様の声が聞こえてきた。すると慌てたようにアドルフ様は振り返る。

「何だよ……ここにいたのか？突然走っていなくなるから何があったかと思った……え？一緒にいるのはエディットじゃないか」

　ブラッドリー様が私に気付いて声を掛けてきた。

「こ、こんにちは……ブラッドリー様」

「へ〜良く似合っているじゃないか。そのドレス……エディットにぴったりだ。あ、そうだ！エディット。まだ踊っていないなら俺と踊らないか？」

　ブラッドリー様が私に手を伸ばしてきた。そしてアドルフ様は黙ってその様子を見つめている。

「あ、あの……」

　これでは3年前と同じだ。何故ブラッドリー様は私を誘うの？何故アドルフ様は黙って見ているの……？

　すると、アドルフ様が不意にブラッドリー様に声を掛けてきた。

「そう言えば、さっきアリアがお前を探していたぞ？どうしてもお前とダンスを踊りたいって。この周辺で見かけたんだけどな……」

　アドルフ様がキョロキョロしながら辺りを見渡している。

「え！そ、それ本当か？！参ったな……俺、アリアが苦手なんだよ」

「だったら、早く別の場所へ移動したほうがいい。行こう」

　まるで急き立てるようにアドルフ様はブラッドリー様を連れて行く。

「あ、ああ……それじゃ、またな。エディット」

　ブラッドリー様は私に笑顔で手をふると、アドルフ様と連れ立ってその場を去って行った。

「アドルフ様……もしかして今、私を助けてくれたの……？」

　1人、その場に残された私はポツリと呟いた。

　きっとそうだ。

　私が困っているのを見てアドルフ様は駆けつけてきてくれたに違いない。

　そしてブラッドリー様からのダンスの誘いも……。

　やっぱり、どんなにきつい態度をとってもアドルフ様の根本は何も変わっていない。

　何故、突然態度が豹変してしまったのかは分からないけれども……。

「アドルフ様……私、やっぱり貴方を諦めきれません。だから婚約解消は致しません。いいですよね……？」

　思わずポツリと口に出して呟いていた。

　そして……時は流れ、私達は高校生になった――。