第195話 再会
「お父様、準備が終わりました」
お気に入りの水色のワンピースに水色の髪留めを付けてもらった私は書斎にいる父に声を掛けた。
「そうか。それでは行こうか?うん。エディット、とても可愛いよ。きっと先方もお前を気に入るに違いない」
書斎デスクに向かって、書類に目を通していた父が私を見て笑みを浮かべる。
「気に入られる……?」
一体何のことだろう?
「よし、それでは早速行こうか?」
椅子に掛けておいた上着を羽織る父。
「はい、お父様」
そして私は父に連れられてヴァレンシュタイン家へ向かった。
****
「エディット、ヴァレンシュタイン家のことについて少し説明してあげよう」
「はい、お願いします」
馬車の中で向かい側に座る父の言葉に頷く。
「ヴァレンシュタイン家は我が家と同じ伯爵家で、そこの当主は父さんと昔からの親友なのだよ。それに偶然にも彼にもエディットと同じ年の子供がいるんだ。おまけに今年から2人は同じ学院に通うことになるのだよ」
「そうなのですか?それでは良いお友達になれそうですね」
「友達か……。うむ、初めは友達から始めるのも良いだろう」
父はまたしても妙なことを言う。
「あの……お父様?」
「そう言えばまだ肝心なことを話していなかったな。その同じ年の子供というのは男の子なんだよ。名前はアドルフ。とても優しい男の子だから、きっと仲良くなれるはずだよ」
「男の子だったのですか?」
てっきり女の子だとばかり思っていた。
「そうだ。学院に入学する前に友達が出来ていた方がエディットも気が楽だろう?」
「そうですね」
父の気配りが嬉しかった。そして私は馬車の外に視線を移した。
アドルフ……。一体どんな男の子なのだろう――。
****
「良く来てくれたな?ロワイエ!」
「元気だったか?ヴァレンシュタイン!」
父と伯爵は再会するなり、抱き合って喜び合っている。
ちょっと日本人には見られない行動だと思った。多分、ヴァレンシュタイン伯爵も日本人の転生者では無いのだろう。
「紹介しよう、この子が私の自慢の娘のエディットだ。さ、伯爵に御挨拶しなさい」
「はい、お父様」
返事をすると、私はヴァレンシュタイン伯爵の前に進み出た。
「はじめまして、ヴァレンシュタイン伯爵様。エディットと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
すると伯爵は目を見開いて私を見た。
「これは驚きだ。なんて利発な少女なのだ。しかもまるでお人形のように可愛らしいじゃないか。エディット嬢、伯爵様なんて言わなくて良いよ。おじさまと呼んでおくれ?」
「お、おじさまですか?」
そんな言い方をして失礼ではないだろうか?
「ああ、それでいい」
ヴァレンシュタイン伯爵は嬉しそうに頷く。
「それで?アドルフ君は何処にいるのだい?」
「実はまたブラッドリーが遊びに来ているんだよ。彼と今一緒にサンルームにいると思うのだが……」
「何だと?またあの少年か。あの子はどうも乱暴だからな……エディットに悪い影響を与えなければいいが」
「まぁ、息子がいるから平気だとは思うが……何しろモーガン家は名門の伯爵家だから……遊びに来るなとは中々言えなくて……」
父と伯爵が神妙そうな顔で話している。
「まぁいい。とりあえずはアドルフくんに会わせてくれ」
「分かった。では3人で行こう。おいで、エディット嬢」
「はい、おじさま」
そして私達はサンルームへと向かった。
****
「ここがサンルームだよ。アドルフの好きな場所なのさ。多分いると思うよ」
辿り着いた部屋は大きなガラス窓で覆われていて、明るい日差しが差し込んでいる。窓の外には綺麗な園庭も見える。
そして窓際には大きな丸テーブルがあり、2人の男の子が座って何かをしている姿が見えた。
「2人とも、ここにいたのか?」
サンルームに入り、伯爵が声を掛けると栗毛色の髪の男の子がこちらを向いた。
「お父さん!」
「こんにちは、おじさん」
別の男の子も顔を上げるけれども、もう私にはその男の子は目に入らなかった。
そ、そんな……まさか……。
栗毛色の髪の男の子。
外見はまるきり変わっていたけれども、その優しげな眼差しを見た途端……私は気付いた。
ううん、多分魂で感じたのだと思う。
氷室……先輩……。
そう、アドルフと呼ばれた少年は……大好きだった氷室先輩だということに――。
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