第193話 新しい世界での目覚め
麻酔用の点滴を受けながらストレッチャーで手術室へ運ばれる私に両親が声を掛けてきた。
「架純ちゃん、頑張るのよ」
「父さんも母さんも手術の無事を祈ってるからな」
「うん……お父さん、お母さん……行ってきます……」
麻酔が徐々に効いてきて、ぼんやりした頭で私は両親に言葉を掛け……そのまま手術室へ入っていった。
お父さん、お母さん。元気な心臓になって戻ってくるから……。
けれど、これが両親との最後のお別れになるとはこのときの私は思いもしていなかった――。
****
「う〜ん……」
目が覚めた時、私の目に最初に飛び込んできたのは見たこともないほどに高い天井に立派なシャンデリアが天井から吊り下げられている光景だった。
「ダ〜ブゥ〜」
(え?何?ここは?)
「バブ?ダァァァ?」
(嘘!私の声が!)
普通に話をしているつもりなのに、私の口からはまるで赤ちゃんのような
(な、何で?どうして私話せないの?)
慌てて起き上がろうとしても、何故か身体が少しも言うことを聞かない。必死で手足をバタバタ動かし、自分の手が偶然視界に飛び込んできた。
(そ、そんな!ど、どうして!)
私の手はまるで赤ちゃんのように小さな手に変わっている。
(い、一体私に何が起こったの……?)
何だかとても悲しくなり、次第に私の目から涙が溢れてくる。
そして……。
「ほぎゃああああああんっ!!」
私の口から出てきた泣き声は……完全に赤ちゃんの泣き声だった。
すると、誰かがこちらへ向かってパタパタと駆けつけてくる足音が聞こえてきた。
(え?だ、誰?)
思わず身構えた途端、突然真上から私を覗き込んできた女性。
その女性は青い瞳に金色の髪のとてもきれいな人だった。
(え……誰……?)
女性は私を見るとニッコリ微笑み、声を掛けてきた。
「まぁ、目が覚めたのね?私の可愛いエディット」
「ばぶぅ?」
(エディット?)
女性はベッドの中の私に腕を伸ばし、軽々と胸に抱き寄せた。
「よしよし……何か怖い夢でも見たのかしら?」
背中をトントンしながら優しい声で語りかけてくる女性。
その瞬間、私は全てを理解した。
そうだ……私はこの人を知っている。
この人は私の今のお母さん……。
私は、手術の最中に死んでしまい……この世界に生まれ変わったんだ。
エディット・ロワイエ伯爵令嬢として――。
****
生まれ変わったことを知った後の私の順応は早かった。
元々前世の記憶もあったことから周囲から頭が良くて、とても大人びた子供と言われていた。
この世界の私は日本人だった頃の私と違い、健康な身体だった。走っても息切れもしないし、具合が悪くなって寝込むこともない。
優しい両親と親切な使用人の人たちに囲まれた、裕福で何不自由無い生活。
けれど、それでも時々日本人として生きていた頃のことを思い出すと悲しい気持ちになってくる。
お父さん、お母さん……死んでしまってごめんなさい。
氷室先輩……突然いなくなってごめんなさい。
特に先輩のことでは後悔しない日は無かった。最後にきちんとお別れ位告げたかったのに。
先輩、もう一度……貴方に会いたいです。優しい笑顔で名前を呼んでもらいたい。
その大きな手で頭を撫でてもらいたい……。
そして氷室先輩への思いが強すぎたお陰か……私に奇跡が起こることになる――。
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