第192話 突然の報告
氷室先輩と手芸屋さんに行ったその夜――。
私は酷い呼吸困難に陥り、救急車でかかりつけの総合病院に運び込まれてそのまま入院になってしまった。
意識はとぎれとぎれになり、気付けば酸素マスクをあてられていた。そして傍らには涙ぐみながら私を見つめる父と母。
お父さん……お母さん……。どうしてそんなに泣いているの?
私は……もう長くは生きられないの……?
入院してから意識が遠くなる日が続き、私にはもう時間の感覚が分からなくなっていた。
先輩……今、どうしていますか?
貴方に……会いたいです……。
****
病院での処置が良かったのか、私は意識を保てる時間が長くなっていた。
そして入院してから既に1週間が経過していることを知った。
入院してからはスマホは医療機器に負担がかかるからと、取り上げられていた。その為、先輩とは全くの音信不通になってしまっていた。
先輩は突然連絡が途絶えてしまった私をどう思っているのだろう……。
「架純。今日は大切な話があるのだけど」
ベッドの上で先輩のことを考えていると、お見舞いに来ていた母が話しかけてきた。
「大切な……話……?」
「ええ、そうよ。実はね……もう貴女の心臓は……このままでは長く持たないの。それでアメリカで心臓移植手術のお願いをしていたのよ。その為にお金もずっと貯めてきたわ」
「え……?そ、そうだった……の……?」
そんな話、初耳だった。
「それで、今回貴女の心臓の病気が悪化したことを先生に報告したらアメリカで順番待ちをすることを勧められたのよ」
「ア……アメリカ……?」
あまりの話に耳を疑う。
「ええ、そうよ。もう高校の退学届も出してきたわ」
「そ、そんな……!ど、どうして私に何も……うっ!」
興奮してしまったせいか、心臓が苦しい。
「架純、落ち着いて。それは確かに貴女には内緒にしていたこと謝るけど……知らせたくなかったのよ。このまま心臓移植の手術を受けなければ……長くは生きられないなんて……そ、そんな悲しいこと……だ、だって貴女はまだ16歳なのに……」
母は嗚咽しながら私を見つめる。
「ごめんなさい……お母さん。こんなに弱い心臓を持って生まれてしまって……」
どうしよう、私は今とても母を悲しませている。
「何言ってるの?!貴女は何も悪くないわ。むしろ……健康な身体で産んであげられなかった私のせいなのに……!!だから、心臓移植手術を受けてもらいたいのよ」
「お母さん……。もし、手術が成功すれば……私はもっと長生き出来るの……?」
「ええ、勿論よ」
母が涙に濡れた顔で頷く。
手術が成功すれば……もっと先輩と長く一緒にいられる……。
「うん……受ける」
「架純……?」
「私、生きたいから……手術受けるね」
「ええ、そうね」
こうして私のアメリカ行きは決定した。
そこから先は早かった。体調の良い今のうちにアメリカに飛んだほうがいいだろうと言われ、私と母はコーディネイターの人と一緒にアメリカに渡った。
アメリカに到着した私はそのままドナーを待つ為に病院に入院し……本当に偶然にも5日目にドナー提供者が見つかり、私は心臓移植手術を受けることになった。
それは12月24日のクリスマスイブの日の出来事だった。
けれど……この手術は失敗し、私は別の世界に生まれ変わることになる――。
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