第181話 ついに告白

 音楽に併せて、エディットと一緒に踊るダンス。


 簡単なステップしか踏めなかったけれども、僕はとても幸せを感じていた。


「アドルフ様、ダンスお上手ですよ?」


 手を取って踊るエディットが僕を見上げて笑みを浮かべる。


「そ、そうかな?でもそれはエディットのお陰だよ」


 ドキドキする心臓の音がエディットに聞かれやしないかと、ハラハラしながら返事をした。


「フフフ……6年前は踊れませんでしたけど、今こうしてアドルフ様と念願のダンスを踊れて嬉しいです」


「うん、僕もだよ」


 少し余裕が出来てきたので、そっと周囲を見渡すと見知った顔の学生たちがやはり僕達と同じようにダンスを踊っている。

 いつもは悪ふざけをしているラモンやエミリオまで正装し、畏まってダンスをしている姿は中々見ものだった。


「アドルフ様、向こうを見て下さい」


 エディットに言われた方向を見ると、そこにはサチとセドリックがダンスを踊っている。

 

 やはり、セドリックは転生者だけども王子だけあってダンスをしている姿は様になっていた。

 でもまさか、サチまでもが華麗なステップを踏んでいるのは少し以外だったけれど。



 やがて音楽が鳴り止み、1曲目のワルツが終わった。ここで一旦小休止が入ることになる。


 よ、よし……!言うなら今がチャンスだ……!


「あ、あのエディット」


 エディットの手を握りしめたまま声を掛けた。


「はい、アドルフ様」


 ニッコリ笑みを浮かべるエディット。


「このバルコニーを出た先にある園庭に行ってみない?噴水がランタンに照らされて綺麗だから2人で見に行ってみたいだんけど」


 何度も頭の中でエディットを園庭に誘う言葉を考え……思いついたのが今のセリフだった。


「そうですね。行ってみてみたいです」


「それじゃ、早速行ってみよう」


 半ば、小躍りしたい気持ちを抑えて僕はエディットに腕を差し伸べた。するとエディットは自然に僕の腕に手を添える。

 以前のエディットだったら、これくらいのことで真っ赤に頬を染めていたけれども、今ではそんなことも無くなった。


 これは、僕に慣れてきたって前向きに捉えていいこと……なのだと思いたい――。




****



「まぁ……本当に綺麗ですね」



 エディットは噴水の前に行くと感嘆の声を漏らした。


丸い大きな噴水の周囲にはランタンが置かれている。吹き上げる水がオレンジ色の明かりに照らされて、まるで光のシャワーが上から降り注いでいるみたいだった。


 空には満点の星空と、大きな満月がキラキラと輝き……まさにあの『コイカナ』の世界観そのものだった。


 よし……今こそ、僕の気持ちをエディットに告げよう。


 深呼吸すると、僕はエディットに声を掛けた。


「エディット。大切な話があるんだ」


「はい?何でしょうか?」


こちらを振り向くエディットは光のシャワーに包まれて、とても綺麗だった。


「エディット。今迄、黙っていたけど…… 僕は君のことが好きだ。どうか婚約者としてだけではなく、恋人として……これからも側にいて欲しいんだ」


 まるで今にも心臓が飛び出しそうだ。


 エディットは……何て返事をしてくれるだろう?自惚れじゃなければエディットも僕のことを好いていてくれるはず。

 赤くなりながら……「はい」と返事をしてくれるのでは無いだろうか……?



「え……?」


 しかし、僕は息を飲んだ。


 何故ならエディットが怪訝そうな表情を浮かべて僕を見つめていたからだ――。

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