第180話 待ち望んでいた時

 ダンスが始まる時間は午後7時からだった。


 そこで時間になるまで食事をして待っていようということになり、僕達4人は揃って立食テーブルへと向かった。

 僕はセドリックと並んで歩き、その後ろをエディットとサチが親しげに話をしながらついてくる。

 あの2人はすっかり仲良くなったようだ。



「お兄さん」


突然、セドリックが耳元で囁いてきた。首筋に彼の息が当たってゾワッとする。


「ちょ、ちょっとやめてくれないかな?首筋に息を当てるのは。しかも、こんな場所で『お兄さん』と呼ぶのはまずいよ。他の人が聞いたら変に思うじゃないか」


小声でセドリックに注意した。


「あ、悪い。つい」


 セドリックは気のない謝り方をする。


「それで何?」


「今夜、エディットに告白するんだって?」


「う!な、何故それを……?」


 するとセドリックはニヤニヤしながら僕を見た。


「決まってるじゃないか。アリスから聞いたんだよ。お兄ちゃんは今夜エディットさんに告白するから、そのときは邪魔しちゃ駄目ですよって。お兄さん思いの妹だよな?」


「全く……そんな話をしたのかい?だけど、そういうセドリックはどうなんだい?」


「え?お、俺?!」


「そうだよ、サチのことが好きなら告白したらいいじゃないか」


「そ、そんなの今言えるはずないだろう?!ちゃんとそれなりの準備をして……」


「準備って?」


 「全くお兄さんは能天気だな……」



 セドリックがため息を付いた時――。


「2人とも、何を話してるんですか?」


 背後からアリスが声を掛けてきた。


「う、うわっ!ア、アリス!」


 驚いたようにセドリックが後ずさる。


「い、いや。何でも無いって!それよりアリス!飲み物を貰いに行ってこよう!」


「え?セドリック様?」


 セドリックは戸惑うサチの手を掴むと、強引に別のテーブルへ移動していく。それを見ながらエディットが笑みを浮かべた。


「本当にセドリック様とアリスさんは仲がいいのですね」


「うん。本当に仲がいいよね」


 あの2人、お似合いだと思うんだけどな……。


「あ、アドルフ様。見て下さい、あのケーキすごく美味しそうですよ?」


 エディットが早速スイーツのテーブルを見つけた。


「アハハハ……本当にエディットは甘いお菓子が好きだね」


「はい、大好きです」


 笑顔を見せるエディット。


「それじゃ、一緒に行こうか?」


「はい」


 こうして僕とエディットは他の学生たちと一緒に食事を始めた。


 その後、学院長や関係者の挨拶が行われ……ついにダンスタイムが始まった。




「アドルフ様、ダンスが始まりましたね?」


 エディットが僕に声を掛けてきた。


「うん、そうだね」


やっと、この時が訪れたんだ。


緊張しながら僕はエディットに向き直る。


「エディット、簡単なダンスしか踊れないけれど……僕と踊って頂けますか?」


 母に習った女性をダンスに誘うためのポーズを取って、手をエディットに差し出した。


「はい、アドルフ様。喜んで」


 エディットは僕の手を取り……ニッコリと笑みを浮かべた――。


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