第170話 そこに待つ人は
翌日から早速約束通り、クラスメイト達に勉強を教える日課がスタートした。
追試の生徒達は毎日午前9時〜12時までで、間に休憩を挟んで2時間半の補講を受 けることになっていた。
そして僕が教える時間は午後1時から4時迄。有る意味、追試組のクラスメイト達にとっては普通の学院生活よりもハードなものだった。
それにも関わらず、彼らは皆必死になって勉強を頑張っていた。皆がどれだけ真剣に追試と向き合っているのかがその勉強の姿勢で分かった。
だから僕も真面目に勉強を続ける皆の為に、家でノートまとめや模擬試験を作ったりと忙しい日々を過ごしていた。
そのお陰か？エディットと会えない寂しさを何とか紛らわすことが出来ていた。
そしてあっという間に1週間が経過した――。
午後4時――
僕の最後の授業が終了した。
「皆、1週間お疲れさまでした」
自習室でクラスメイト達を前に、僕は教科書を閉じると皆に声を掛けた。
すると、たちまちあちこちでため息混じりのざわめきが起こる。
「やれやれ……やっと終わった……」
「何言ってるんだ、本番は明日だぞ」
「今度は点数を取れる気がするわ」
「こんなに勉強したのは人生始めてよ」
「皆、今度の追試は大丈夫だよ。全員苦手科目を克服できたんだから」
僕の言葉にクラスメイト達が次々とお礼を述べてきた。
「アドルフ、今迄ありがとう」
「お前の為にも試験頑張るよ」
「絶対合格するわね」
「全員でパーティーに参加しましょう！」
彼らの喜ぶ顔を見て、僕は少しだけ誇らしい気持ちになれた――。
「アドルフ、たまには一緒に帰らないか？」
「喫茶店でコーヒーでも飲んでいこうぜ」
帰り支度をしていると、ラモンとエミリオが声を掛けてきた。
「うん、いいね。行こう」
そして僕達は自習室を後にした……。
＊＊
クラスメイト達と校舎を出ると、遠くに見える正門の前に女子学生が立っている姿があった。
「おい、あれ……お前の婚約者じゃないか？」
視力の良いエミリオが僕に声を掛ける。
「え？」
言われるままに目を凝らすと、確かにその女子学生はエディットのように見える。
「お前を待っているんじゃないのか？」
ラモンの言葉に首を振った。
「まさか……だって、特に待ち合わせなんかしていないし……。第一ここ1週間連絡も取りあっていなかったし……」
その時、僕の脳裏に嫌な考えが浮かんだ。
ひょっとして……エディットはあの門の前で誰かと待ち合わせをしているのではないだろうかと。
「何言ってるんだよ。お前を待っているに決まってるだろう？」
エミリオが再び声を掛けて来る。
「だけど……」
どうしても僕を待っているとは思えなかった。用事があるならわざわざ学院に迄来なくてもヴァレンシュタイン家で待てば良いはずだ。
やっぱりエディットは他の誰かを……？
そう思った矢先……エディットがこちらを向いた。
そして次の瞬間、エディットが笑顔で僕に手を振ってくる。
「ほら、見ろ。やっぱりお前を待っていたんじゃないか？」
ラモンが肘で僕を小突いてきた。
「う、うん……そうだったみたいだね」
「何言ってるんだ。俺たちに構わず行けよ」
シッシとエミリオが僕を手で追い払う仕草を見せる。
「うん。ごめん、2人とも！」
「ああ、またな」
「追試、頑張るからな」
2人に見送られながら、僕は駆け足でエディットの元へ向かった――。
「アドルフ様、お待ちしていました」
駆け寄ってきた僕を見ると、すぐにエディットが声を掛けてきた。
「エディット……どうしてここに……？」
何故、ここにいるのだろう？疑問符しか湧いてこなかった。
「お疲れ様でした。今日で補講訓練が終わったのですよね？」
「うん……そうだけど……？」
「だからお迎えに上がりました。一緒に……帰りませんか？」
頬を少しだけ赤らめて僕を見つめるエディット。
1週間ぶりに会う彼女は……いつも以上に綺麗に見えた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます