第171話 待ち遠しくて
「え?まさか……僕を迎えに学院まで来たの?」
「はい。アドルフ様が皆様に勉強を教える邪魔をしたくは無かったので……会うのを……が、我慢していました」
うつむき加減で顔を赤らめるエディットに心打たれ……自分を恥じた。
どうして僕は彼女の気持ちを一瞬でも疑ってしまったのだろうかと。いっそ今、自分の気持ちをエディットに打ち明けたい衝動に駆られる。
でもまだ駄目だ。まだその時じゃない。僕がエディットに自分の気持ちを告げるのは記念式典パーティの時だと決めているから。
だから……その代わり、僕はいつものようにエディットの頭を撫でた。
「それじゃ一緒に帰ろう?エディット」
「はい」
エディットは笑顔で僕に返事をした――。
****
「どうですか?皆さん、追試で合格点取れそうですか?」
馬車が走り出すと、向かい側に座るエディットが声を掛けてきた。
「うん……だといいけどね。皆あんなに必死で頑張って勉強していたから、なんとしても全員に追試で合格してもらいたいよ」
「そうですね。折角の記念式典パーティーですからね。皆さんで参加したいですよね」
「でも、皆を信じるよ。あれほど一生懸命勉強したんだからね。ところで……エディットの用事はもう終わったのかな?」
「え?用事……ですか?はい、そうです。もう終わりました」
一瞬、間を開けてエディットは返事をする。
「それなら、また2人で一緒に何処かへ出かけようか?」
「はい、行きたいです」
「今日はもう時間も遅いから無理だけど、明日はどうかな?」
明日から3日間の追試試験が始まるけれども、合格点が取れている僕達は引き続き学校は休みになっている。そして休み明けはいよいよ記念式典パーティーの開催日だ。
「はい、大丈夫です」
嬉しそうに返事をするエディット。
「それじゃ、明日までに何処か行きたいところが無いか考えておいてくれる?あ、でも僕も出掛ける場所を考えておくから」
いけない、危うくエディットに全て任せるところだった。やはり相手に丸投げばかりしていたら頼りない男だと思われてしまうかもしれない。
「分かりました。では何時に出掛けるかだけでも決めておきませんか?」
「う〜ん……そうだね。それじゃ10時でも大丈夫かな?」
ちょっと早すぎただろうか?
「いいえ、私は大丈夫です。それではまたお迎えに上がりますね?」
「いいよ。僕から迎えに行くから」
「え……?でも……町へ行くなら私がお迎えに上がったほうが良いのではないですか?」
「確かにそうかもしれないけど、僕がエディットをたまには迎えに行きたいんだ。いつもいつも迎えにばかり来てもらっているからね」
「あ、ありがとうございます……」
嬉しそうに頬を赤く染めるエディット。
その後も馬車がヴァレンシュタイン家に到着するまで、2人でどんな所へ出掛けようか色々な話をした。
僕の話に相槌を打ち、くるくると表情を変えるエディットはとても愛らしい。
そんなエディットを見つめながら僕は思った。
記念式典パーティが待ち遠しい――と。
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