第158話 再びのデート 

 エディットと手を繋いで正門を目指して歩きながら声を掛けた。


「エディット。試験も今日で終わったし……午前中で学校終わったから、もしよければこれから何処かに出掛けない?」


「え?今からですか?」


 首を傾げてエディットが僕を見る。


「あ、ごめん。ひょっとして何か用事でもあるなら……」


「いいえ、ありません」


 僕の言葉が終わる前にエディットが即答した。


「そう?それなら良かった。試験が終わったら2人で一緒に何処かに出掛けたいなって思っていたから」


「嬉しいです……。その、デートに誘って頂いて……」


 頬を染めて俯くエディットは恥ずかしいのか、最後の方は消え入りそうな声だった。


 デート?エディットは僕の誘いをデートと受け取ってくれているのか。それが妙に嬉しかった。


「うん、そうだよ。デートの誘いなんだ。それで何処へ行きたい?」


 繋いでいた手に力を込める。


「アドルフ様と一緒なら何処でも構いません。あ、でもこんなお返事だと困ってしまいますよね?」


「そんなことは無いよ。それなら……そうだ、以前一緒に行ったあの喫茶店にでも行ってみない?ほら、エディットが紅茶と苺のシフォンケーキのセットを頼んだ店だよ」


 するとエディットが目を見開いて僕を見た。


「え?アドルフ様は私が何を注文したのか覚えているのですか?」


「勿論だよ。他ならぬエディットのことだからね」


「ありがとうございます……」


 エディットの頬がますます赤く染まった――。




****


 

「着いたね。エディット、降りようか?」


 馬車が目的地の喫茶店に到着し、先に降りた僕はエディットに手を差し伸べた。


「はい、ありがとうございます」


 エディットが馬車から降りると、僕は御者のギルバートさんに声を掛けた。


「ギルバートさん、帰りは僕がエディットを送るのでどうぞ先にお帰り下さい」


「はい、承知致しました。ではお嬢様を宜しくお願いします」


「お父様とお母様に伝えておいて下さい」


エディットも声を掛けてきた。


「はい、勿論でございます。では失礼致します」


 ギルバートさんは帽子を外して、お辞儀をするとすぐに馬車を走らせていった。



「エディット。それじゃ、中へ入ろうか?」

「はい」


 そして僕達は店内へ入った。




 カランカラン



 ドアベルを鳴らしながら扉を開けると、コーヒーの香りと甘い香りが漂っていた。

お客さんは10人前後で一人できている人や友人やカップルのような人達もいる。


「エディット、窓際の席が空いてるよ。あそこに座ろうか?」


「はい、そうですね」


 早速2人で窓際の席に座ると、メニュー表を広げてエディットに手渡した。


「エディットは何を頼む?」


「アドルフ様は宜しいのですか?」


「うん、先にエディットから頼みなよ」


「はい、ありがとうございます」


 エディットはメニュー表を真剣な表情で見つめている。その姿もとても愛らしかった。

 幸せな気持ちで彼女を見つめていると、何やら視線を感じて振り向いた。


 見ると、友人連れと思われる2人の青年がじっとこちらを見つめている。どうやらエディットに視線を送っているようだった。


 やっぱり、エディットはこの世界のヒロインだけあって可愛いから人目にもつく。

そんな相手が僕の婚約者なのだ。


 初めは悪役令息の僕にヒロインの相手は荷が重すぎる……なんて思ったけれど、今は自分の置かれた境遇に感謝している。


 こんな素敵な彼女を僕の婚約者にしてくれたのだから。


 僕はエディットを見つめながら、少しだけ優越感に浸った――。

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