第159話 慌てる僕と、いつもと変わらないヒロイン

 この喫茶店はケーキや飲み物以外にも、ちょっとした軽食を扱っていた。まだ食事を済ませていなかった僕たちはここで軽く食事を取ることにした。


 僕はピザトースト、エディットはハムサンドを頼むことにした。そして料理が届くと、2人で今回の試験について話をしながら食事をした――。



**** 


 

 食事を済ませた僕たちは、本命の食後のデザートを頼むことにした。エディットはイチゴタルトにレモンティーのセット。

 一方の僕は……流石に前回みたいにコーヒーだけではエディットに気を遣わせてしまいそうな気がした。そこで今回は一番甘さが少なそうなジンジャーケーキにブラックコーヒーを頼んだ。



 そしてジンジャーケーキの味は……。


「うん、美味しい!」


 ケーキを口にした瞬間、思わず声を上げていた。


「そんなに美味しいのですか?」


 レモンティーを飲んでいたエディットが首を傾げて尋ねて来る。


「うん、すごく美味しいよ。ジンジャーの少しピリッとした味が最高だよ。何だか身体も温まる気がする」


「そうなのですか?アドルフ様がそんなに喜ぶなんて……本当に美味しいのでしょうね」


「うん。あ、そうだ。良かったらエディットも一口食べてみない?」


 僕は……本当に無意識で一口サイズのケーキをフォークに刺すとエディットに差し出した。


「え……?」


 エディットは驚いた様に目を見開いてこちらを見ている。その時になって自分がとんでも無いことをしていることに気が付いた。

 つい子供時代……よくサチに自分の食べ物を分けてあげていた時と同じことをしてしまっていたのだ。


「あ!ご、ご、ごめん!」


 慌ててひっこめようとすると、エディットが首を振った。


「い、いいえ。下さい、食べてみたいです」


「え?」


 するとエディットは僕が差し出しているケーキをパクリと小さな口を開けて食べてしまった。


 えっ?!ま、まさかっ?!


 あまりにも驚いてエディットを見つめる。


「フフ…‥本当に、美味しいケーキですね?」


 頬を赤く染めながら笑みを浮かべるエディット。


「そ、そう?良かった。エディットの口にも合ったんだね?」


自分でやったくせに、僕は激しく動揺していた。けれどエディットはいつもと変わらぬ様子を見せている。


「はい、アドルフ様の言う通りとても美味しかったです。あの、もし宜しければ私のも食べてみますか?」


「あ、それなら大丈夫だよ。ほ、ほら。エディットは甘いものが好きなんだから、全部食べなよ。エディットの美味しそうに食べている姿を見ているだけで僕は十分だからね?」


 その申し出に慌てて首を振った。エディットの方から先ほどのような真似をされたらと思うと、絶対赤面してしまうに違いない。


「そうですか……?分かりました。では頂きますね」


 エディットの声が少しだけ寂し気に聞こえたのは……うん、きっと気のせいに違いない。


 そして自分の気持ちを落ち着かせる為に苦いコーヒーを口にした――。






 

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