第147話 嫌な予感
「今日も送ってくれてありがとう」
馬車が邸宅に到着したので、エディットにお礼を述べた。
「は、はい。あの……アドルフ様」
エディットが何か言いたげに僕を見つめる。
「何?」
「明日、明後日は週末ですよね……?もし宜しければ私と一緒にべ、勉強を……」
「え?でもそれだとエディットに迷惑を……」
「い、いいえ!迷惑なんて……とんでもありません!2人で勉強したほうが……きっと効率が上がると……思うんです……」
そして真っ赤になって俯く。
きっとエディットは自分の勉強時間を割いてでも僕に勉強を教えてくれるつもりなのだろう。
「ありがとう、それじゃ一緒に勉強しよう?」
「はい。あ、あの……ありがとございます」
エディットは頬を染めて僕にお礼を言ってきた。
「アハハハ……何故エディットがお礼を言うんだい?むしろお礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう」
「いえ。それでもやっぱりお礼を言わせて下さい。ありがとうございます、アドルフ様」
そしてエディットは、頬を染めて笑みを浮かべた――。
****
自室に戻る途中、リビングで紅茶を飲んでいる母を見かけた。
「只今戻りました」
廊下から声を掛けると、母がこちらを向いて手招きしてきた。
「お帰り、アドルフ。こちらへいらっしゃい」
「?は、はい……?」
何だろう?今度は何で呼び出しを受けるのだろう?
緊張する面持ちでリビングに入った。
「そこにお座りなさい」
「はい」
向かい側の椅子を指さしたのでおとなしく座る。
「今日、モーガン伯爵夫妻がいらしたのよ」
「え?!」
まさか、ブラッドリーの両親が本当に謝罪に来るとは思わなかった。
「本当に大変申し訳ないことをしてしまったと、床に座り込んで手をついて頭を下げてきたのよ」
「そうなの?!」
なんてことだろう!それはいわゆる「土下座」だ。まさか、あのブラッドリーの両親が土下座をするなんて……いや、それ以前にこの世界に土下座の文化?があることも驚きだ。
あれ?そう言えば……。
「あの、ブラッドリーは一緒に来なかったのですか?」
「ええ、そのことだけど……午後2時の汽車でこの国を出るから来れなかったと話していたわ」
「午後2時……」
今は午後4時を過ぎている。ということはもうブラッドリーはこの国を出ているということだ。
「モーガン伯爵のお話では、お隣の国にある寄宿学校に入るように学院の理事長から命じられたらしいのよ。何でも既にブラッドリーの迎えに来てくれる人を手配してあるとかで」
「え?!き、寄宿学校?!」
それはまた驚きの展開だ。しかも迎えだって?
「とても規律が厳しいことで有名な寄宿学校らしいわ。何でも卒業するまでは学院の敷地内を絶対に出ることが出来ないだとか……」
「ええっ?!」
ま、まさか寄宿学校とは名ばかりの、いわゆる少年院か刑務所のことでは無いだろうか?第一、セドリックはブラッドリーのことを犯罪者だとか、廃嫡するべきだとか過激な事を口走っていたし……。それに考えてみれば、18歳にもなる青年に迎えを寄越すものなのだろうか?
何だか非常に嫌な予感がする。けれど何という名前の学校なのか、とても確認する気にはなれなかった。
「あら?どうしたの?アドルフ。何だか顔色が真っ青だけど?」
「い、いえ。そんなことはありません。試験が近いので勉強してきます……」
「そうな?なら頑張りなさい」
「はい、それでは失礼します」
そして僕はよろめきながら、リビングを後にした。
自室に戻ってブラッドリーからの手紙を読む為に――。
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