第146話 つい、うっかり
エディットに対する後ろめたい気持ちと、久々にサチと2人きりで話が出来た嬉しさの両方の気持ちを抱えながら僕は教室に戻ってきた。
既に教室にはラモンとエミリオの姿があり、僕が教室に戻るや否や、エミリオが大きな声で手招きしてきた。
「アドルフ!早くこっちへ来いよ!」
「え?何?」
言われた通りに急ぎ足で席に戻り、着席するとラモンが興奮した様子で話しかけてきた。
「アドルフ!実はさっき、ブラッドリーが教室にやってきたんだぞ!」
「え?!ほ、本当?!」
まさかの話に驚いた。
「ああ、何でもこの教室に残っている私物を取りに来たそうだぜ。それにしてもすごいよな。こんなに早く退学処分を受けるなんて」
ラモンは何故か興奮している。
「全くだ。普通なら停学処分10日くらい続いてから、退学処分になるはずなのに即決だものな!」
「エミリオ……君、随分詳しいんだね……」
一体彼はどこでその情報を仕入れているのだろう?
「何だか随分ヤサグレた様子になっていたな……そうそう、アドルフはどこだって聞かれたんだよ」
「え?ブラッドリーが僕の名を?!」
ラモンの言葉に反応してしまった。
「ああ。それでエディットと昼休憩に行ったって教えたら、『そうか』って言って、お前に渡して欲しいって手紙を預かったぞ」
エミリオが机の引き出しから封筒を取り出すと、手渡してきた。
「ブラッドリーからの手紙……」
封筒の中身は薄かった。恐らく便箋1枚程度しか無いのかもしれない。
ゴクリと息を飲み……僕は暫くの間、封筒と向き合った。
「どうしたんだ?読まないのか?俺が読んでやろうか?」
「おい、よせよ。ラモン、趣味が悪いぞ」
ラモンがニヤニヤしながら尋ねてくる。
「う、うん……読んでみようかな……」
しかしその時……。
キーンコーンカーンコーン……
授業開始のチャイムが鳴り……その後、僕達は衝撃を受けることになる――。
****
授業が終わり、Aクラスに行ってみると既に授業は終わっていた。
「エディットが待ってるかもしれないな」
そこで急いでエディットとの待ち合わせ場所に向かった。
正門を出た先に、エディットの白い馬車が止まっていた。そして窓を開けてこちらを見ているエディットの姿が見えた。
「アドルフ様」
僕の姿を見たエディットが笑顔で声をかけてきた。
「ごめん、エディット……遅れちゃって」
息を切らせながら馬車に駆け寄ると、首を振るエディット。
「いいえ、今日はAクラスは早く終わったのです。どうぞお乗り下さい」
「うん、お邪魔します」
男性御者に頭を下げると、ドアを開けて馬車に乗り込んだ――。
「エディット、聞いたかい?試験の話」
馬車が走り始めると、早速僕はエディットに話しかけた。
「はい、驚きました。まさか3日後から本格的な試験期間に入るとは思いませんでした。いつもなら2週間前頃から告知されるのですけど」
エディットも困惑気味だ。
「まさか、記念式典パーティーの準備があるから試験が前倒しになるとは思わなかったよ……」
思わずため息が漏れてしまった。
帰りのHRでいきなり、今日から3日後に試験期間に入ると突然告知されてしまった。
当然生徒からは非難の声が飛び交った。
けれども担任教師から「日頃から毎日勉強していれば試験くらいどうってことはない」と言い切られてしまったのだ。
「試験……頑張らないとね。何としてもエディットと一緒に記念式典パーティーに参加したいから」
すると僕の言葉に頬を染めるエディット。
「は、はい……。一緒に頑張りましょう」
その後はエディットと2人で屋敷に到着するまで試験対策に関する話をした。
だからつい、うっかり忘れてしまったのだ。
ブラッドリーから受け取った手紙のことを――。
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