第148話 ブラッドリーと僕の本音
自室に戻り、制服から私服に着替えるとライティングデスクに向かった。
「う〜ん……」
机の上にはブラッドリーからの手紙が置かれている。
「読むのは気が重いな……」
また何かとんでもないことが書かれているのではないだろうか?恨み辛みの内容だったら読みたくないな……。
「駄目だ。勉強しなければいけないんだし、第一ブラッドリーはもう寄宿学校に行って、二度とここへ戻ってくることはないんだ。今更何を言われようと気にすることはないさ!」
自分に強く言い聞かせると、封筒にハサミを入れて二つ折りにされた手紙を取り出し……緊張する面持ちで手紙を開いた。
『お前の勝ちだ、アドルフ。まさか俺をこんな目に遭わすんだからな。大した奴だ。
それと今迄悪かった。一度お前に大怪我をさせてしまってから、もう自分の中で取り返しがつかなくなってしまったんだ。謝っても許してもらえないのは分かっている。だからずっと一生俺を憎み続けてくれ。そのほうが俺も気が楽だからな。エディットを必ず幸せにしてやれよ』
どこか乱暴な字で、手紙にはそれだけが書かれていた。まさに彼らしい手紙だった。
「ブラッドリー……。ごめん、多分僕は君を恨み続けることは無理だよ」
ブラッドリーがおかしくなってしまったのは僕のせいでもあるのだから。
エディットに気の無い素振りをみせてブラッドリーに2人の仲を応援すると言ったり、今度は手のひらを返したかのように親しくなったり……。
「あれでは彼を怒らせてしまうのも無理はないか……」
ブラッドリーからの手紙を引き出しにしまうと、ため息を付いた。
よし、悩んでいてもしようがない。今は試験勉強に集中しよう。
早速数学の教科書をカバンの中から取り出した――。
****
その日の夜は何となく両親と夕食を一緒に取る気になれず、部屋に運んで1人で食事をすることにした。
両親には試験勉強で集中力を途切れさせたくないから自室で食事をすると断りを入れたけれども、本当はそうじゃない。
食事の席では絶対にブラッドリーの件で話が出るのではと思ったからだ。父も母も彼をよく思っていないのは分かっていた。
ただ、今夜だけは追放されたばかりのブラッドリーの話題をしたくは無かったからだ。
僕自身に、彼に対する後ろめたさがあったから……。
23時半――
「ふぅ……今夜はここまでにしておくかな」
鉛筆を置いてノートを閉じた。
明日は午前10時にエディットが来ることになっている。大分試験範囲の内容も頭に入ってきたし、これならあまりエディットに負担を掛けることも無さそうだ。
「明日の為にも、今夜はもう寝よう」
部屋に灯った明かりを消して周り、最後にベッドサイドの明かりを消すとベッドに潜り込み、目を閉じる。
「……」
暗闇の中で目を閉じていると、不意にブラッドリーのことが思い出された。
「ブラッドリー。今頃どうしているんだろう……」
そして……いつの間にか僕は眠りについていた。
****
その日の夢は、またしても記憶に無い夢だった。
それは子供の頃の夢だった。眩しい日差しの中、僕とブラッドリーは公園のベンチでエディットが来るのを待っていた。
夢の中のブラッドリーは何か僕に話しかけている。
『なぁ、お前とエディットって……だよな。……からエディットは……を……』
え……?ブラッドリー。今、何て言ったんだい?
けれど、夢の中の彼はそれ以上何も答えてはくれなかった――。
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