第128話 知らなかった話
古代文字の試験が今日だということを知った僕は食事の最中、ずっとエディットと一緒に勉強をした。
馬車の中でも勉強を続けた。
お陰でブラッドリーの件で肝心な話をすることが出来なかったけれども、それは別に昼休みか、帰りにすればいいことなのだから――。
やがて馬車は学院に到着した。
いつものように一足早く馬車を降りた僕は、ブラッドリーときっちり話をつける覚悟を胸に教室へと向かった。
自分のクラスに到着すると、ゴクリと息を呑んで扉を開けた。
すると中にいたクラスメイト達が一斉に僕を振り向くと……何故かこちらに向かって駆け寄って来た。
な、何だ?!
あっという間に取り囲まれると、皆が次々と僕に声を掛けてくる。
「大丈夫だったのか?ヴァレンシュタイン!」
「また馬に蹴られたのですって?」
「頭の方は大丈夫か?!」
「あんなに吹っ飛ばされて驚いたよ!」
「みんな……」
どうやらクラスメイト達は僕が心配で駆けつけて来てくれたようだ。
「ありがとう、軽い脳震盪で済んだだけだからもう大丈夫だよ」
僕の言葉に皆は途端に安堵の表情を浮かべ、次に思いがけない台詞が飛び出してきた。
「だけどブラッドリーの奴は最低だよな」
「本当、あんな人だとは思わなかったわ」
「見損なったぜ」
「停学処分になって当然だな」
えっ?!
その言葉に耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってくれるかな?ブラッドリーが停学になったって……一体どういうこと?」
「その件なら俺達が説明してやるよ」
クラスメイト達を掻き分けて僕の傍にやって来たのはエミリオとラモンだった――。
自分たちの席に座ると、早速ラモンが事情を説明した。
「昨日、馬術の授業でお前が馬に蹴り飛ばされた後のことだ。アドルフと馬術教師が医務室に運ばれた後、3時限目の時ブラッドリーが職員室に呼び出されたんだよ」
「あいつ自分が呼び出されるの分かってたのかな?やっぱり呼び出しがかかったか、なんて言いながら職員室へ行ったんだよ。それから結局昼休みになるまで戻って来なかったんだよ」
次にエミリオが説明をしてくれた。
「それで……結局どうなったんだい?」
「帰りのホームルームで担任の教師が教えてくれたんだよ。ブラッドリーがアドルフに危険行為を教えたから処罰されて、停学処分になったって。でもそれだけじゃないんだぜ?記念式典のパーティーに参加する資格も取り上げられたのさ」
「え……?で、でも何故ブラッドリーが危険行為を僕に教えたって分かったのかな?」
ラモンの話に問いかけた。
「あ、それな。馬術教師が見ていたんだよ。アドルフとブラッドリーが話をしていたところを。その時、ブラッドリーが馬の腹を指さしていたのを確認したらしい。それで問い詰めたら認めたらしいぜ」
「そうだったの……か」
その話は衝撃だった。
ブラッドリーには今までも危険な目に何度か遭わされてきた。だけど、彼は自分の罪を認めることはしなかった。それなのに何故今頃になって認めたのだろう?
しかもあれ程楽しみにしていた記念式典パーティーに参加する資格も奪われてまで。
ラモンとエミリオの会話は続く。
「それにしてもブラッドリーのこと、見損なったぜ。よりによって幼馴染のお前を危険な目に遭わせるんだからな」
「ああ、あんな恐ろしい奴だとは思わなかった……え?おい、アドルフ。お前、顔が真っ青だぞ?大丈夫か?」
ラモンが驚いた顔で声を掛けて来た。
「う、うん。大丈夫だよ。驚いただけだから……」
「そりゃそうだよな?下手したらお前、大怪我ですまなかったかもしれないんだぜ?」
エミリオが恐ろしいことを言ってくる。
「あ、そうそう。これはまだ噂なんだけど……ひょっとしたらあいつ、退学になるかもしれないぞ?」
ラモンの言葉で、僕は今回の事故は思った以上に深刻だと言う事を知った――。
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