第126話 大切な話

 朝の支度をしていると、突然扉をせわしなくノックする音が聞こえて来た。


コンコンコンコンコン!


「誰だろう?随分慌てているようだな?」


ネクタイを締めながら扉を開けると、そこにいたのはフットマンのジミーだった。


「あ、おはようございます!アドルフ様!良かった、起きていらしたのですね?!」


相変わらず、余裕のなさそうなジミーに僕は頷く。


「うん、起きていたけど……一体何?」


「はい、実は……エディット・ロワイエ様がいらしています!」


「え?エディットが?!」


まさか寝坊した?!

慌てて時計を見るも時刻は7時になったばかりだ。


「一体こんなに早い時間にどうしたんだろ?いや!そんなことはどうでもいい!それで?エディットは何処にいるの?」


「はい、エディット様はダイニングルームにいらっしゃいます」


「ダイニングルーム?分かった!すぐに行くと伝えて置いてくれるかな?急ぎで!」


「わ、分かりました!」


ジミーはすぐにバタバタと慌ただしく廊下を掛けて行った。よし、早速僕も準備をしないと。

身支度を整え、カバンを持つと急いでダイニングルームへ向かった。





「エディット!」


ダイニングルームへ飛び込むと、テーブルの前に座っているエディットが慌てて席を立つと、挨拶してきた。


「おはようございます。アドルフ様」


「うん、おはよう。どうしたの?こんなに朝早くから!」


急ぎ足でエディットに近付き、無意識にその小さな手を握りしめた。途端に真っ赤になるエディット。


すると……。


「落ち着きなさい、アドルフ」

「エディットが困っているでしょう?」


すぐ傍で父と母の声が聞こえ、慌てて振り向くと両親の姿があったから驚きだ。


「父上!母上!いつからいたのですか?!」


「何を言ってる?」

「初めからいたじゃないの」


明らかに不満そうな父と母。


「す、すみません……エディットしか目に入らなかったものですから……」


すると背後で息を呑む気配を感じ、振り向くとエディットは耳まで真っ赤にさせて僕をじっと見つめていた。


しまった!つい、思ったことを口にしてしまった。


「あ……え、えっと~今のは……」


どうやら僕はかなり恥ずかしい台詞を口走ってしまったようだ。

すると……。


「ゴホン!」


父が突然咳払いした。


「どうやら、我々は邪魔者のようだな」

「ええ、そうですわね」


父と母が立ち上がった。


「我々は別の部屋で朝食を頂くことにしよう」

「そうですわね」


そして父と母は扉へ向かって歩いていく。


「あ!あの!すみません、私……!」


エディットは自分のせいで両親が部屋を出るのが申し訳なかったのか、立ち上がった。


「いいんだよ、エディット嬢」

「ええ。大事な話があるのでしょう?」


そして父は僕の傍を通り過ぎるとき、耳元で言った。


「頑張れよ、アドルフ」


「!」


その言葉に驚いて思わず父を見る。すると父はニヤリと笑って、母を伴って部屋を出て行った。


 父と母が出て行くと、すぐに朝食の乗ったトレーをワゴンに乗せてジミーが運んできた。


「どうぞ、エディット様。アドルフ様」


トレーごとジミーが僕たちの前に料理を置いた。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


「それでは失礼致します」


バタン……


扉が閉ざされると、今度こそ本当に僕とエディットの二人きりになった。


う……。

さっき、妙な台詞を口走ってしまったから何だか気恥ずかしい……。

僕は意を決してエディットに話しかけた。


「それじゃ、食事にしようか?」


「はい、すみません‥‥…」


何故かエディットが謝って来る。


「何を謝るの?」


「こんなに朝早く伺ってしまったことです。それにおじ様やおば様を、お部屋から追い出すような真似をしてしまいました。それにお食事まで……」


エディットは落ち込んでいる様子だった。


「そんなこと、気にしなくていいよ。それに僕は嬉しいよ?こんなに早くから会いに来てくれたんだから。それで?何か話が合って来てくれたんだよね?」


今迄はエディットにどこか気を使いながら話していた。だけど今なら自分の心を偽ることなく素直な気持ちを伝えられる。


「はい、アドルフ様に大事なお話があって急いで参りました」


エディットは真剣な眼差しで僕を見つめて来た—―。

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