第73話 悪友の脅迫?

「ふぅ……参ったな…」


カフェテラスを出た僕は今、中庭のベンチに1人座って青い空を眺めていた。


情けないことに王子の言葉は正論であり、何一つ反論出来る余地は無かった。

エディット…それにサチはこんな僕を目の当たりにして情けないと思っただろうか?


この世界が原作通りに進めば、僕はいずれ王子に追放されてしまう立場にある。

その可能性を少しでも回避する為に、波風を立てて周囲からの評判を落としたくは無かった。


何より、僕は王子に借りがある。

下手に彼に逆らうような態度を取るわけにはいかなかった。


「ハハハハ…こんな性格だから前世でも僕は社畜として会社に飼いならされてしまったのかな……」


自己嫌悪に陥りつつも、最後に見たエディットの悲し気な顔が忘れられなかった。

僕のせいで、あんな表情をさせてしまうなんて……。


最終的にエディットが王子を選んだとしても、僕が傍にいられる間は彼女には笑顔でいて貰いたい。


「と言う事は、やっぱり勉強を頑張って全ての科目の成績を上げて周囲を見返すしか無いか……」


理数系や文学、それに社会系なら何とかなるだろう。


その反面、問題なのは馬術や剣術だ。

これらの授業に試験があるかは不明だけど、絶対僕には無理だから捨てることにしよう。

別に体育系?の授業が苦手だとしてもそれほどクラス分け試験には影響しないだろう……と信じたい。


「そうなるとやはり一番難題なのは古代文字か‥‥。でもあれはエディットも難しいと言っていたからな…。だけど、逆に考えればこの科目で良い成績を収めれば自分の実力が認められることになるかもしれない…」


なら、決まりだ。

今日からは古代文字を集中的に勉強することにしよう。


そう考えたら、何だか気分も晴れやかになった。


「よし!今日からは古代文字を頑張ることにしよう」


その時――。



キーンコーンカーンコーン……


午後の授業開始15分前の鐘が学院全体に鳴り響いた。


「さて、午後の授業も頑張ろう」


ベンチから立ち上がると、僕は意気揚々と教室へ戻った――。




****



 午後の授業開始5分前に教室に入るや否や、何故かブラッドリーが勢いよく駆け寄って来た。


「おい!アドルフッ!ちょっと顔貸せ!」


そして腕を掴まれ、廊下に連れ出されてしまった。


「な、何?!」


するとブラッドリーは突然ポケットに手を突っ込むとなにやら押し付けて来た。


「な、何っ?!」


「手紙だ」


見るとブラッドリーの手には封筒が握りしめられている。


「て、手紙って‥‥?」


訳が分からず受け取る。


「何?お前、手紙の意味も知らんのか?相手に自分の伝えたい用件を文面にしたものを手紙と言うんだぞ?」


「それ位知ってるよ。そうじゃなくて、手紙なんて…ハッ!ま、まさか‥‥ブラッドリー……」



「馬鹿野郎っ!俺が書いたんじゃないっ!勘違いするなよっ!」


何故か顔を赤らめる?ブラッドリー。

それが照れの為なのか、勘違いされて怒りの為なのかは……定かではない。


「え?それじゃ一体誰が…?」


首を傾げて封筒を見るも、差出人も何も書いていない。


「ああ、それはAクラスに転入してきた黒髪女子学生から預かった手紙だ」


「ええっ?!」


サチだ!

Aクラスに転入してきた黒髪女子学生と言えば、該当する人物は1人しかいない。


「おい、あの女子学生と何処でどうやって知り合ったんだよ?彼女はAクラスでお前はCクラス。どう考えても接点なんか無いじゃないか?何故彼女はお前を名指しで指定してきた挙句に手紙を寄こした?それだけじゃない。アドルフ、お前エディットと昼休みは一緒に過ごしていたはずじゃなかったのか?なのにエディットがこのクラスにお前を訪ねにやってきたんだぞ?」


「え?!エディットが?!」


この間Cクラスに来たときにエレナ達に嫌な目に遭わされたのに?


「あ、その事なら大丈夫だ。ビクトリア達は昼休みで不在だったし、いち早くエディットの姿に気付いた俺が対応したからな。お前はまだ教室に戻っていないって」


すると僕の考えに気付いたのか、ブラッドリーが教えてくれた。


「そうだったのか‥‥ありがとう、ブラッドリー」


「べ、別に礼を言われる程では無いさ」


ブラッドリーは照れ臭いのかフンとそっぽを向いたその時――。



キーンコーンカーンコーン…



授業開始5分前の予鈴が校舎に鳴り響いた。


「ほら、5分前のチャイムが鳴った。中に入ろう」


教室の入り口を通り抜けようとした時‥‥‥。


「おい、待てアドルフ」


いきなり襟首を掴まれ、首が絞まる。


「ぐえっ!」


思わず変な声が漏れてしまった。


「あ、悪い」


パッと手を放すブラッドリー。


「な、何?まだ何かあるのかい?」


「ああ、ある。大ありだ。まだ話は終わっていないぞ。お前、俺が何で廊下に連れ出して手紙を渡したか分からないのか?」


「う~ん‥何で?」


「馬っ鹿野郎。お前にはエディットと言う婚約者がいるのに、中々の美人女子学生からラブレターを貰ったと言うことがラモンやエミリオに知られていいのか?お前は運が良かったぞ?たまたまこのクラスを覗き込んでいる黒髪女子学生に声を掛けたのがこの俺で」


「ええっ?!ラ、ラブレターだってっ?!」


どうやらブラッドリーは果てしなく勘違いをしているようだ。

サチが僕にラブレターなんか渡すなんて、天と地がひっくり返ってもあり得ないのに!


「違う違うって!ラブレターのはずないじゃないか」


全力で否定すると、ブラッドリーがニヤリと口角を上げた。


「ほ~う。ラブレターじゃないって言うならなんだよ?そこまで言い切れるなら今、この場で手紙を開封してみろよ」


「えっ!それは駄目だよ!」


サチからの手紙をブラッドリーの前で開封するなんて、百害あって一利なしだ。


「は~ん…益々怪しいな……。秒で断るとは…」


ブラッドリーは腕組みすると僕を見た。


「そ、それは……」


「仕方ない…ならエディットにこのことを伝え…」


「わ、分かったよ!開封するって!」


エディットに話が伝わるのだけは何としても阻止しなければ。


もうどうにでもなれ!


半ば自棄になって僕は興味津々のブラッドリーの前で手紙を開封した――。



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