第72話 王子の尤もな台詞
「え……?」
何故王子がサチと一緒にここに?
不思議に思って背後にいたサチに素早く視線を移すと、サチは一瞬申し訳なさげに僕を見て…すぐに目をそらせてしまった。
そうか、きっと……これはサチの意志じゃないんだ。
王子が僕とエディットが一緒にいるのを見て、やってきたに違いない。
「エディット。いいよね?ここに座っても」
王子はエディットに尋ねてきた。
「え?え、ええ……」
エディットは助けを求めるかのように僕を見た。
だったら、僕の答えは1つしか無い。
「うん、いいよ。2席空いているからどうぞ。構わないよね?エディット」
「は、はい。どうぞ」
ホッとした様子で返事をするエディットに王子は笑みを浮かべてサチを見た。
「ありがとう、それじゃ失礼するね。アリス、座らせて貰おう」
「はい、セドリック様」
そして僕達4人は互いに向き合うように丸テーブル向かって座った。
う……それにしても気詰まりだ。
折角エディットと2人で穏やかなランチタイムを過ごせると思ったのに、2人…というか、王子が現れたせいですっかり食欲を失ってしまった。
昨夜のことを口にされたらどうしよう……。
そんなことを考えていると、何だか胃が痛くなってきた。
エディットもサチも気まずそうにしている中、1人王子だけは余裕の態度を見せている。
「エディットは何を頼んだの?」
席につくと、王子は早速エディットに声を掛けてきた。
「はい、私はホットサンドセットです」
「そうなんだ、美味しそうだね。アリス、今度頼んでみようか?」
「そうですね」
見るとアリスと王子はお揃いのセットを注文している。2人はバゲットサンドを頼んだようだった。
「それで君は?何を頼んだのかな?」
王子はさほど興味がなさ気な様子で僕を見た。多分彼なりの社交辞令なのだろう。
「僕はチキンサンドセットだよ」
「ふ〜ん、そうか。ところでエディット、次の5時限目の授業は課外授業の薬草学だったよね?よかったら僕達と一緒に行動してもらえないかな?まだこの学院には不慣れだし、委員長のエディットが一緒なら安心出来るんだけど」
「え……?私と…ですか?」
戸惑った様子のエディット。
「アリスもそう思うよね?」
「え、ええ……そうですね」
王子に尋ねられ、一瞬サチは躊躇ったように頷く。
するとエディットは何か言いたげに僕を見つめてきた。僕に答えを求めているのだろうか?
ひょっとして僕に気を使っているのかもしれない。だとしたら……ここは後押しすることにしよう。
「そうだね。僕も自分が同じ立場だったらエディットにお願いすると思うよ。彼女ならパートナーに最適だからね」
失礼を承知で同等の言葉遣いをする。
何しろエディットは彼の正体が王子だということ知らないのだから、変に敬語を使う訳にはいかない。
「ふ〜ん成程…。でも君は僕達と同じ立場にはなれないんじゃないかな?何しろクラスが違うんだから」
う〜ん……王子は中々痛いところをついてくる。
「確かにそうだったね。つい、出しゃばったことを口にして……ごめん」
笑いながらごまかす。
彼に借りがある僕は下手に逆らうことが出来ないし、エディットやサチの為にも険悪なムードを作りたくは無かった。
すると、更に王子は追い打ちを掛けてくる。
「それよりこの学院の生徒なら知ってるだろう?ここは学力重視の学院だってこと。もし彼女が大事ならこれからも当然努力を続けるんだろうね?エディットの立場を悪くはしたくないんだろう?たった1科目頑張った位じゃ、意味無いから。君は知らないだろうけど‥‥Aクラスでは君がカンニングをしたんじゃないかって噂が流れているんだよ」
「え?!そ、そうだったの?!」
僕は驚いてエディットを見た。
すると、申し訳なさげにエディットは僕を見て小さく頷く。
「は、はい……そう…なんです……」
「そ、そんな……」
確かにCクラスでも一時、僕がカンニングしたのではないだろうかと騒がれたけれど、すぐに誰もが疑うのをやめた。けれどAクラスでは僕のことを疑っているなんて……。
ひょっとしてエディットが僕を廊下で待っていたのは僕がAクラスに入れば、カンニングの噂を耳にしてしまうと思ったから……?
思わず気落ちする僕に王子がきっぱりと言った。
「だけど全ての科目で良い点を取ればカンニングの噂も払拭される、、来学期のクラス分け試験でAクラスに慣れるかもしれないしね。だからそれまでは学院内では彼女と一緒にいないほうがいいんじゃないか?エディットの為にも」
エディットの為にも……。
「確かに…そうかもしれないね」
僕はトレーを持って立ち上がった。
「え?アドルフ様?」
エディットが慌てたように声を掛ける。
「ごめん、エディット。何も分かってなくて……。彼の言う通りかもしれない。僕はもう行くよ」
「で、でも……」
エディットが悲しげな顔で僕を見る。
「セドリック様。いくら何でも…」
流石のサチも黙っていられなくなったのか王子に声を掛ける。
「何だ?僕は何も間違えたことは言ってないけど?彼がもっと努力すればいいだけの話なのだから」
「そう、彼の言う通りだよ」
そうだ、本当にエディットのことを思うなら……彼女の立場を守ってあげなくては。
「それじゃ、ごゆっくり」
背を向けて立ち去ろうとした時、エディットが声を掛けて来た。
「アドルフ様!」
「何?」
振り向くと、エディットが尋ねて来た。
「帰りは‥‥どうされるのですか?」
本当は王子の手前、一緒に帰る約束をしてはいけないのだろうけど……。
「そうだね、昨日と同じ場所で待ち合わせしようか?」
今にも泣きそうな顔のエディットを見ると、断れなかった。
「は、はい……」
僕の言葉に納得したのか、エディットが小さく頷く。
そんな僕とエディットのやり取りを黙って見守る王子とサチ。
「それじゃあ、お先に失礼するね」
今度こそ背を向けると、トレーを置きに行く為に返却口へ向かった――。
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