第71話 ヒロインの為に

キーンコーンカーンコーン…


4時限目の授業が無事に終わり、チャイムが鳴り響いた。


「よし、終わった!」


急いでカバンの中に教科書やらノートをしまっているとラモンにエミリオが声を掛けてきた。


「随分慌てた様子で片付けてるな」

「そんなに婚約者に早く会いたいのか?」


何処か、からかうような口調に僕は大真面目で頷いた。


「勿論だよ。エディットを待たせるわけにはいかないからね」


「うわっ!こいつ、大真面目で言いやがった!」

「あんなにエディットを嫌がっていたのにな〜」



2人にも言われるくらいだから、僕は相当エディットを避けていたのだろう。だけど何故そこまでしてアドルフは彼女を嫌っていたのだろうか?

あんなに素直で可愛らしい女の子はそうそういないのに。


すると、ブラッドリーが間に割って入ってきた。


「まぁまぁそれくらいにしておけよ。こいつもようやく婚約者としての自覚が芽生えたってことだろう?ほら、さっさと行けよ、エディットが待っているんだろう?」


ブラッドリーがシッシッと僕を手で追い払う仕草をする。

…やっぱりブラッドリーは僕とエディットのことを気遣ってくれている気がする。


もしかして、彼は僕達のことを応援してくれているのだろうか?


「うん、それじゃ行ってくるよ」


片付けを終えると、僕はすぐにAクラスへ向かった――。




****



 Aクラスへ行くと、既にエディットは小さなバックを持って廊下で待っていた。


「エディット!」


声を掛けるとエディットは僕の方をパッと向いて笑顔を見せる。


「アドルフ様!」


「ごめん、待たせちゃって」


急ぎ足でエディットの側に行くと、謝った。


「いえ、大丈夫です。私もついさっき授業が終わったところですから」


「そうだったのかい?それじゃすぐに学食…じゃなかった。カフェテリアに行こうか?」


「カフェテリア…?ですか?いいですね。行きましょう」


そして僕達は並んで学食ならぬ、カフェテリアへと向かった――。




**



 今日も僕達は中庭に併設された赤いレンガ造りのカフェテリアへやって来た。

ここは学生たちに人気のスポットなのだろう。店内もオープンテラスも学生たちで溢れている。


「うわ〜…今日は一段と混んでるな。席…開いてるかな?」


「ええ、そうですね。何処か空いてると良いのですけど……」


メニューを注文する前に空席を2人で探していると、空いているテーブル席を見つけた。


「エディット、あそこが空いてるよ。行こう」


「はい」


自然にエディットの手を握りしめると学生たちの間を縫うように進み、席を何とか確保することが出来た。


「良かったね。空いていて」


「はい」


「エディット、何が食べたい?僕が買ってくるから」


着席するとエディットにメニュー表を差し出した。


「え…?宜しいのですか?」


「うん、勿論だよ。何しろ毎日送り迎えして貰っているんだからこれくらい当然だよ」


笑顔で返事をすると、途端にエディットの顔が赤らむ。


「あ、ありがとうございます……それではこちらのホットサンドセットをお願いします」


「うん、それじゃ僕は…チキンサンドイッチのセットにしよう。それじゃちょっと行ってくるよ。待っててね」


「はい」


メニュー表を置いて席を立つと、すぐに注文カウンターへ向かった――。




****


「エディット、美味しいかい?」


ホットサンドイッチを食べるエディットに尋ねた。


「はい、とても美味しいです。アドルフ様はいかがですか?」


「うん、おいしいよ。ポテトも塩気が効いていて丁度よいしね」


するとエディットが怪訝そうな顔で僕を見た。


「あの……アドルフ様はひょっとして……」


「うん?何?」


「い、いえ。何でもありません。ところで本日の授業はいかがでしたか?」


エディットは何かを誤魔化すかのように話題を変えてきた。


「うん、それなんだけどね……今日の授業は眠くなりそうな授業ばかりで辛かったよ。何せ倫理学やら政治学といった授業ばかりだったからね。これが文学とか数学なら良かったんだけどさ。しかも僕の座る席は窓際で日当たりも良いんだ。現にクラスメイトの半数近くは眠っていたしね。でも眠気と闘いながらも何とか授業を聞いていたよ」


当然ブラッドリーやラモン、エミリオは堂々と机に突っ伏して眠っていた。


「確かに、あの授業は先生の語りばかりで生徒の意見を聞くこともありませんからね。でもアドルフ様はすっかり勉強に目覚められたようですね。Aクラスの人たちも驚いていました」


エディットは嬉しそうに話している。


「当然だよ。勿論勉強は自分自身の為でもあるけど、エディットの為にも成績を上げる必要があるからね」


何しろ僕の成績が悪いと、エディットに後ろめたい思いをさせてしまうかもしれない。

そんなことをすれば、益々王子に目をつけられてしまう。

何しろ僕は彼に仮を作ってしまっているのだから。


「私の為に……ですか?ありがとうございます。嬉しいです…とても」


エディットは僕の言葉が余程嬉しかったのか顔に笑みを浮かべたその時……。


「ここ、相席してもいいかな?」


不意に頭上から声を掛けられた。


「え?」


驚いて見上げると、そこにはサチを連れた王子が料理の乗ったトレーを持って立っていた――。

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