第70話 成績発表!

 馬車が学院の正門前に近付いてきた。


「エディット、今日もここで僕は降りるよ」


立ち上がりかけようとしたら、エディットが突然僕の左袖を両手で掴んできた。


「だ、駄目です!アドルフ様!」


「エディット……?」


エディットの方から僕に触って来たのは初めてだった。


「あ…す、すみません!つ、つい…」


真っ赤な顔でエディットは僕から手を離すと、顔を伏せてしまった。


「エディット、どうかした?駄目って…ここでは降りるなってこと?」


「はい…そうです」


僕の質問に頷くエディット。


「だけど、AクラスのエディットとCクラスの僕が一緒にいるのをクラスメイト達に知られたら……」


「いいんです。だ、だって……私とアドルフ様は婚約者同士なのです。だから一緒にいるのは……と、当然ですから……」


エディットは耳まで赤くなりながら、必死で訴えてくる。


「エディット……」


やっぱり成績優秀なエディットはCクラスの僕が婚約者だと言うことで肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。


それどころか以前のアドルフはエディットを蔑ろにして……。


「それに、今頃はもう歴史の試験結果が貼り出されているはずです。絶対、アドルフ様の名前は乗っているはずですから……。だってまだ身体が痛むのですよね?今朝も馬車に乗る際、足を引きずっていらっしゃいましたから。私が……昨日無理をさせてしまったせいで…」


エディットが申し訳無さげに僕を見た。


「あ……」


しまった、気付かれていたのか。でも、この足の痛みはエディットのせいじゃない。帰宅した後、屋敷内でサチや王子の件で色々歩き回ったのが原因だと思う。


「違うよエディットのせいじゃないから。実は帰宅した後、屋敷で色々歩き回ったからだよ」


サチや王子が訪ねてきたことは絶対にエディットに話すわけにはいかない。


「ですが……」


やっぱりエディットを納得させるにはこのまま馬車に乗っていたほうがいいだろう。


「うん、それじゃお言葉に甘えて門の中まで乗せてもらおうかな」


「はい」


僕の言葉にエディットは嬉しそうに笑った――。




****



 大勢の学生たちが歩く学院の広場で、僕とエディットは馬車から降りた。


途中、すれ違う何人かの学生たちがこちらに白い目を向けてくるのは恐らくエディットと同じAクラスの学生なのだろう。

けれど、エディットは気にする素振りもなく僕に笑顔を向けてきた。


「アドルフ様。それでは早速歴史の試験結果を見に行きましょう」


「うん、そうだね」


そして僕達は校舎へと向かった。




「結果が楽しみですね、アドルフ様」


エディットは僕が15位以内に入っていることを信じて疑っていない。


「う〜ん……どうかな…。僕は正直まだ不安だよ。何しろ、すぐに解答を書き終えてしまったからね。見直しする時間も十分あったし……ということは、誰でも簡単に解ける試験だったんじゃないかな?だとしたら全員良い成績だと思うけど……」


すると何故かエディットはクスクスと笑った。


「フフ…アドルフ様ったら……」


「え?な、何?」


「あの試験…実は相当難しかったのですよ?Aクラスの人たちも試験が終わった後、とても難しかったと話し合っていましたから」


「そうだったのかい?!」


それは驚きだ。

何しろCクラスの学生たちは途中でペンを置いてしまったり、中にはふて寝している学生たちもいた。

そして終了後は試験内容の話題すらなかったのだから。


「だとしたら…少しだけ期待してもいいかも…」


「ええ、勿論です」



やがて2人で校舎に入ると、廊下に人だかりが出来ている様子が目に入った。


「アドルフ様、試験結果が貼り出されていますよ。見に行きましょう!」


エディットが目を輝かせて僕を見た。


「うん、そうだね。行こう」


よし、自分を……エディットの言葉を信じるんだ。


僕達は早速試験結果を見に向かった――。



****



 僕とエディットはAクラスの前にやってきた。


「それじゃ、エディット。昼休みに教室に迎えに行くよ」


「はい、アドルフ様。お待ちしております」


エディットは嬉しそうに僕に手を振ると教室の中へと入っていった。

するとすぐにクラスメイト達に取り囲まれるエディット。


それはそうだろう。

何しろエディットは学年で1番だったのだから。

きっと彼らはエディットに勉強方法を尋ねるのかも知れない。


「またね、エディット」


口の中で小さく呟き、僕は自分のクラスへ向かった――。




**


 教室へ入った途端、中にいたクラスメイト達が一斉に僕に駆け寄ってきた。

そしてあっという間に取り囲まれる。


「おい!ヴァレンシュタインッ!一体どういうことだよ!」


「何でお前があんな点を取れるんだよっ!」


「まさかカンニングかっ?!」


「そんなカンニングは出来るはずないわ」


「そうよ、持ち物は全て検査されるし、筆記用具だって学院指定のを渡されるんだから!」


『それじゃ……』


全員の視線が僕に集中する。


「そうだよ、勉強したから点が取れたんだよ」


僕の言葉に更にクラスメイト達の騒ぎが大きくなったのは言うまでも無かった……。




「ふ〜…酷い目にあった…」


クラスメイト達から開放されて、ようやく僕は自分の席に来ることが出来た。


「よぉ、おはよう。アドルフ。お前朝から凄い人気者じゃないか」


何がおかしいのか、ブラッドリーがニヤニヤしながら僕に声を掛けてきた。


「おはよう……散々な目にあったよ」


ため息をつきながら着席するとラモンが詰めよってきた。


「だけどアドルフ。お前本当に馬に蹴られて頭がおかしくなってしまったんじゃないか?!」


「いや、違う。馬に蹴られたせいで頭が良くなったんだろう?そうでなければ8位なんて成績取れるはずがないからな!」


何故か興奮気味のエミリオ。


そう、驚くべきことに何と僕は歴史の試験で8位という成績を収めたのだった。


1位は勿論エディット。

そして2位は王子だった。


確か原作でも王子は頭が良かった気がする……。

そう言えば、サチの成績はどうだったのだろう?


そんなことを考えていると、ブラッドリーが声を掛けてきた。


「それより再びお前の成績が上がって来たんだ。よし!勉強を頑張ったお前の為に、今日は俺がランチを奢ってやるよ。勿論行くだろう?」


ブラッドリーが笑いながら肩に腕を回してきた。


「あ、ごめん。それが駄目なんだ。今日はエディットと一緒にお昼を食べる約束をしているから


「何だって?またエディットか?」


ラモンが呆れた様子を見せた。


「全く、最近付き合い悪いよな〜。昨日ダーツの誘いだって断ったよな?お前がいないと、さっぱり女の子達が寄ってこないんだよ」


エミリオが恨みがましく僕を見る。


「そんなこと言われても……」


ひょっとしてアドルフはとんでもない遊び人だったのだろうか?


するとブラッドリーが僕の肩に腕を回したまま言った。


「まぁ、相手が婚約者ならそっちを優先するのは仕方ないかもなぁ?この!羨ましい奴め!」


そして笑いながらブラッドリーは僕のこめかみにげんこつをグリグリと押しつけてくる。


「い、痛いって!やめろよっ!」



するとすぐにブラッドリーは僕を開放解放するとラモンとエミリオに声を掛けた。


「よし、それじゃ今日はビクトリアたちを誘ってランチに行くか」


「ああ」

「そうだな」


ブラッドリーの言葉でラモンとエミリオは機嫌を直したようだった。


そんなブラッドリーを見ながら僕は思った。


ひょっとすると……ブラッドリーは今、僕を庇ってくれたのだろうか――と。

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