第18話 実践‼試食販売‼

 次の日曜、私達はスノタウンの中央広場に来ている。

 「別の曜日に代休とっていいから、日曜日に」と言う、カナンのリクエストだ。

 実践、試食販売である。

 これまでに私は、焼きリンゴに豚カツに、から揚げ、魚のホイル焼き(ホイルはないので要はバター焼きだが)などなど、いろいろな調理を試してきた。

 主にニアが。

 カナン曰く、どれでもいいから1品だけ試食販売をすること、その時は私服ですることを厳命された。

 私はエルが作ったチノパンとパーカー、ニアとエルはこちらの定番、シャツとスカート、あとベストだが、上下で色を変えたり派手な感じだ。

 フライパンもドアーフ姉さんに作ってもらい、やっていることの異質さと変わった格好が相まって、遠巻きに注目されている。

 メニューは焼きリンゴ一択で、いい匂いがしているはずが近付いて来ない。

 ならばと一計を案じる。

 「ニア、お願い。」

 「はいにゃ。」

 エルが大好きなりんご飴を、1皿分だけ作ってみせた。

 無表情なエルの顔がかすかに緩み、うれしそうに食べ始めると…

 狙い通り、子供が耐え切れなくなった。

 「ねえ、おいしいの?」と寄ってきたのは6歳くらいの少女。

 母親に、

 「この料理は煮ていませんが、火は通してございます。食べさせてもよろしいですか?」と、確認する(試食販売の基本だね)。

 で、実食。

 「ママ‼これ、おいしい‼」と声を上げたので、人がわらわら寄ってきた。

 少しだけ試食させ、リンゴ半分ほどに大銅貨3枚の値段を付けたがどんどん売れた。

 中の1人に、『これは登録しているのか?』と訊かれた時、カナンの狙いがはっきり分かった。

 「はい。私達は亜神様の工場で働いています。亜神様が登録いたしました」と言うと、

 「ほう。」

 「(´・ω`・)エッ?」

 尋ねてきた男性よりなにより、ニアとエルが驚いている。

 まあね。私がカナンを『亜神様』なんて、まず言わないし。

 TPOのわかる女だし、私は。

 いい機会だし、ダメ押しで説明する。

 「ただ登録が少々変わっております。」

 「?」

 「使用料ですが、最初の5名は1か月で銀貨5枚です。」

 「えっ?普通月大銀貨5枚くらいかかるはずだが?」

 「はい、だから最初の5名のみです。続く15名は大銀貨1枚、80名は普通で大銀貨5枚です。ただ、初めから数えて101人目からは、金貨1枚となります。」

 立て板に水で説明を終えた途端、10名近くが駆け出していく。

 「ニア、役所って、日曜日もやってるの?」

 「やってるにゃ。」

 つまり彼らは、使用登録に向かったと言うことだ。

 試食販売は大盛況で、結構洋服についても訊かれた。

 特に、私の絞りが入ったパーカーが珍しい。

 「いずれ亜神様のところから発売しますよ」と、言っておいた。

 カナンは上手に、私達を宣伝に使ったようだ。

 帰って報告すると、

 「これで焼きリンゴ以外も争って登録が入るぞ」と、笑う。

 「なんで?」

 「人族は生き急ぐからの。」

 つまり、寿命の短い人族特有の行動で、早く早くと焦り出す。

 1つ食べさせれば試食の必要もなく、争うように調理法が広まるのだ。

 「これで町でも食えるぞ、いろいろ」と笑った後、

 「で、王都に広まる頃は使用料が倍になる」と舌を出す。

 『もしかして?』と思い当たった。

 召喚者である私を引き取ってくれたカナンは、あの優しい気性から考えて、多分王様に怒っていたのだ。

 身勝手な王様に怒ったからこそ、あえて不利益を押し付けたのだ。

 性格上、たぶん永久に認めないだろうが、少しだけ嬉しかった春の日だった。


 そして夏も終わりのある日、寮でノンビリしていると、

 「ミサト。」

 「なに?」

 「大金貨200枚、完済したぞ」と、カナン。

 王都で、通常の2倍の値段ながらメニュー登録が止まらない。

 ブランド服も売れ始めているし、わずか半年余りで完済した借金に小さくガッツポーズをした時、

 「‼」

 我慢出来ないようにエルが駆け出し、

 「待つにゃ、エル‼」と、ニアも後を追う。

 「は?」

 訳が分からず立ち尽くす私に、

 「察しの悪いバカ彼氏か、貴様は」と、呆れたようにカナン。

 いやいや。

 マジ、なんなんだぁ‼



   ※    ※     ※    ※


 えーと、多分テンションが全く違う(予定の)新作始めます。

 『王妃様の作り方』

 URLはるとか分からないんで告知のみですが……

 よろしかったら覗いて下さい。

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