第16話 春と気まぐれエルフと
ニアとエルによると。
この世界…アルハイムには四季があるらしい。
私が召喚されたのは真冬の時期で、あれから3ヵ月。あたりは随分春めいてきた。
どうやらこの国、冬も私がいた日本の地方都市(中部圏)ほど寒くないし、夏もそこまで暑くならない、緩やかな四季を持つらしい。
と、なると…
召喚時着ていた冬服がやばい。アンさんに譲ったダウンジャケットと、トレーナーは裏起毛、ジーンズも冬用の厚手で連れてこられた。
そろそろ着れない。
でも、スカートは苦手。ブラウスやシャツより被る系の服がいいよね、ボタン面倒だし。
服も食事もパターン化されたこの世界では、代わりを買うことができない。
自分で…
作れるわけないじゃん‼
その日も勤務時間が終わり、寮で黄昏ていると、
「ただいまぁ‼早いにゃ、ミサト‼」
「お帰り、ニア。」
「あれ?エルは?」
「ん?そう言えば?」
うちのエルフが帰っていない。
基本気まぐれ、やりたいことしかしないエルフゆえか、工場の仕事に思い入れはない。
終わればすぐに帰る筈なのに?
「ただいま。」
エルが戻ったのは、30分ほどした後だった。
「遅かったにゃ、エル‼」
「うん。」
「ん?どしたの?」
エルは戻ってきてそのまま私にトコトコ歩み寄り、
「はい」と、丸めた布を差し出してきた。
いや、『らしい』と言うか、作るとこまでしか興味がなかったのだろう。
布を広げると、
「えっ?」
「すっごいにゃ‼」
織布の布でそのまま作ったから生成りの、腰を紐で止めて履くゆるゆるのズボン(いわゆるチノパン)と、ボタンなし、被って着るタイプの長そでシャツ、しかもパーカーまで付けてある。
そう言えば、時々日本で着ていた服の話をせがまれたことを思い出した。
え?作ってくれたの?
「工場で不良の布が出て、貰った」と言ったが、私が作ったみたいなシースルーじゃないし、どこが問題かわからなかった。
って言うか、完成度えぐくない?
どこまで器用なんだ、この子。
「ありがと、エル…マジすごい…」
驚きの方が勝って辛うじてお礼を言うと、
「料理、無理。でも、こういうのは得意」と、胸を張った。
あ、気にしてたのね。
いや、でも凄いわ、これ。
売れるレベル。
ん?
これ、もしかして…
気づきかけたその時、
「どうせなら色も付けたかった」と、エルが呟く。
「色?」
「うん。里なら藍染めとか、染料があるのに…」
ああ、なるほど。
「じゃ、玉ねぎで染めない?」と言うと、
「はい、にゃ?」
「染まるの?」と、2人とも呆気にとられた。
次の日曜は『染色』だね。
で、日曜日。
勿論料理は中止に出来ない‼
楽しみにしている人もいるし、だいたい私が我慢出来ないし。
『パンとスープの国』、マジきつい…
で、さっさと市場で買い物を済ませ、昨日から玉ねぎの皮の染色液につけていたエル作成のパーカーにレモン汁を。
確か『酢』がミョウバンの代わりになるはずなので、レモン汁で大丈夫だろう。
いわゆる定着と発色のためだ。
またいかにも自分がやっている体だが、いろいろ作業してくれるのはエルです。
パーカーに、絞りによる柄を加えようと糸を出したら、
「エル、ミサトは縛ろうとすると自分の指も縛る病気にゃ。」
「ん」と、取り上げられた。
またまた私、口だけ番長です。
本当なら染まり具合を見て色を調整したり繊細な作業が必要だけど、まあ細かいことは気にしない。
出来上がったのはほぼ茶色の地に(染まり過ぎ?)、絞りによる模様の入ったお洒落なパーカーだ。
「おお‼」
「カッコいいにゃ‼」
「…」
「エル、ありがとね。」
笑いかけてもこっちを見ない。
きれいな顔で口をぽかんと開けて、出来上がったパーカーを見ている。
ああ、これ…
『気まぐれエルフ』がはまった瞬間、ここに『裁縫プラス染色エルフ』が誕生した。
「また面白いこと始めよって」と、神出鬼没で寮にまで現れたカナンに、
「ねえ、提案があるんだけど」と、私。
この前思いついたのだ。
「ん?」
「ブランド立ち上げない?カナンブランド。」
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