第15話 それからの日々
それからは、いわゆる普通の日が続く。
異世界に召喚されて、しかも『奴隷』とかにされているのが普通なのかわからないが、ウイークディ(こっちでは木・火・土・金・水・月曜日だ)は仕事。
ホワイトなカナンの工場だから、奴隷労働というより社畜な感じだ。
エルは織布、ニアは後紡、私は前紡。
ただ、ひたすら暴れて木から綿花を外す、通称・前紡ポップコーンは、2日でリタイアさせてもらった。
いや、無理だって‼いくら19でも無理なものは無理。体力に優れたドアーフ姉さんと同じ動きは出来なくて、すぐ息切れするので退場した。
でも、不器用度SS(器用度F)の私には、年配人族のお仕事である綿をきれいにする仕事も、きれいになった綿を真っすぐに整える仕事も絶対無理だ。
うん、自分で言ってて悲しくなってきた。
なので唯一残ったお仕事…『出来上がった粗糸を後紡まで運ぶ』をしております。
ドラム缶みたいな大きさの容器に入れた粗糸を、大八車に乗せて歩いて5分の後紡まで。
糸もこれだけ集めれば重い。4つ以上乗せると重過ぎるので、何往復もする。積み下ろしが大変。
なので少しだけ肉体労働なのだが、ドアーフ達とポップコーンになるよりかなりマシだ。
6日間は繰り返しの毎日、『パンとスープの国』も繰り返し。
ただし、日曜日になると、
「はい、じゃあ、銀貨1枚ずつね。」
「…うん。」
「へへ。楽しみにゃ。」
3人でお小遣いから銀貨1枚ずつを出し合い、朝はカナンの優しさ、食堂のパンとスープで済ませて市場に出る。
今回見つけたのは『なんちゃらボアのロース肉1枚』、大銅貨1枚。
これはもちろん魔物なのだが、見た目豚のローステキカツ用、それも超厚切りだ。1枚200gくらいあるし、それが大銅貨1枚(100円ぐらい)とは?
マジ食べ物は安い世界だ、ここ。
「これだけ厚ければ1人1枚でいい?」
「ああ、でも絶対亜神様、食べにくるにゃ。」
「うん。」
「ああ、カナンね。じゃ、倍で6枚くらい買う?」
「そうだにゃ。」
必要なものをバンバン買って、銀貨3枚使い切るころには抱えて戻るのも大変な量になる。
持って帰って、レッツクッキングだ。
………
いや、すみません。見栄張りました。
クッキングはニアです。
私は無理。
朝食の時気付いていた。この日は素コンソメスープ以外にも、昨夜作り過ぎたらしい、ミルクスープも残っていた。
ニアに頼んで、バターで小麦粉を炒めてミルクでのばす、ホワイトソースを製作する。サラサラのミルクスープにこれを入れ、買ってきたベーコンで嵩増ししたらリメイクシチューが完成する。
「旨いにゃ‼」
うん、私の口だけ番長を再現してくれるニアこそ凄い。
「満足度が違う。」
うん、安定の『食いしん坊エルフ』。
って言うか、『パンとスープの国』のクセにシチュー系はないって、なんじゃ、そりゃ。
「レシピ、書いとけよ。」
あと、『来週もまた見てくださいねぇ♡』(←古い)のノリでいつの間にか参加しないでくれ、カナン。驚くから。
昼ごはんの後は『甘党エルフ』のためにクッキーづくり…をニアがして、夜は揚げ油を温めボアのカツを揚げてゆく。
この世界、勿論、『揚げる』という調理法は存在しない。
「あのさ、ニア。この脂の部分を切るように包丁入れて。」
「ん?なんで?」
「この脂と肉の間に筋があるから。」
万が一固いことも想定し筋切りを頼んだが、絶対必要ないくらい柔らかい肉だった。魔物すげえ。
ソース的な調味料はあるから付けて食す。
「熱っ‼でも旨っ‼」
「旨いよぉ、ミサト。」
「…(無言でがっつく)…」
その後、カツサンドが作りたくなった私が刃物を取った途端ニアに止められ(切ってくれたよ)、さらに盛り上がっているとカナンが現れ、匂いに寄せられた奴隷仲間が集りと、多めに揚げたカツが無くなる。
で、お開き。
休みの日には『料理で発散(ただし指示のみ)』が普通になった。
1週間で銀貨4枚は余る。参加者が結構実費をくれる。ニアのお料理代も含め多めにくれるから、月で銀貨数10枚は浮き始めた。
2億の借金(銀貨だと20000枚か?)からは微々たるものだが、それでも良い傾向だと思った。
あ、おひねりは3人で公平に分けたよ、勿論。
ゆっくり春が巡ってくる。
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