第14話 休日異世界クッキング(海里は何もやってない)

 よし‼焼きリンゴを作ろう‼

 工場に戻って、まっすぐ食堂へ行った。

 ここにはカナンの優しさ、節約する人たち向けのパンとコンソメスープがある。

 温め直しが出来るように、勝手に使える台所スペースがあることに気付いていた。

 まな板らしき台の上に、リンゴらしき果物をセット。

 ナイフより大きめ、包丁より小ぶりの刃物を構えた時、

 「Σ(゚Д゚)」

 「?」

 何故かエルがビクついた。

 よし、切るぞ‼

 仕切り直して刃物を揮おうとし、

 「止めるにゃ‼」と、ニアにバックハグで止められる。

 「?」

 「ミサトはあれにゃ…料理をしようとすると腕を切り落とす病気にゃ。」

 なにその、不治の病?

 「何をしたいか教えてくれれば、うちがやるにゃ。ダイジョブ、料理は得意だから。」

 かなり真顔で説得された。

 「寿命が縮む」と、エルが呟く。

 人間の10倍以上生きるエルフの寿命が縮むって?

 …

 なんか、彫刻刀を取り上げられた、あの小学校の日を思い出したよ。

 ともあれ、ここでニアにタッチ。

 リンゴ(もう面倒なのでリンゴで統一)を8等分にし、芯をとって、半量は皮を剝く。

 すごい。ニアは本当に得意らしい。

 かなり手慣れた様子で、5個の下ごしらえを短時間で終えた。

 ちなみに。

 その気になれば1番器用なはずのエルは知らん顔。気まぐれエルフのことだ。おそらく『料理』に興味を持たずここまで来たのだろう。

 『焼き』は無い世界だから、フライパン様の物はない。

 大鍋で代用、そこにバターを溶かし、一気にリンゴに火を入れる。

 皮付き皮無しの2種類の焼きリンゴが出来上がった。

 思い付きで3つに分ける。

 1皿はそのまま、もう1皿にはシナモンパウダーを振り掛けて、最後は鍋にあるまま砂糖をまぶす。火を入れて溶かせば、コーティングされたりんご飴の出来上がりだ。

 ここまで、いかにも自分でやった風だが、作者は全てニアである。

 私は口出しだけだった。

 適材適所、多くを言うまい。

 いや、まあ、『口出し』はしてるけど。

 「火が入ってるし大丈夫でしょ?」

 初めて見る調理法に戸惑う2人を尻目に、私はまずはバターで焼いたのみを一口。

 「あ、旨っ…」

 旨いよ、焼きリンゴ。

 スープじゃないよぉ。

 超旨い。

 身悶えしている私を見て、ニアとエルも口に入れる。

 「‼」

 瞬間、2人とも目が輝いた。

 そのままパカパカ食べ出すから、無くなる前にもう少しと手を出そうとすると、

 「うん。意外にうまいな」と、4人目の声がする。

 いつの間にかカナンがいた。

 「うわっ‼いつからいたの、カナン?」

 「さっきからいたわい。お前らが変わったことをやりだしたから。」

 カナンはシナモンパウダーが気に入ったようだ。すぐ2口目にいく。

 やばい。早く食べないと無くなるわ。

 その後4人で真剣に食べた。

 私はシナモンパウダーをかけたものが好きで、カナンも同じ。ニアはバターで焼いたのみのシンプルイズベストで、エルはりんご飴が気に入ったようだ。

 って言うか、抱えて食べてる。

 エルに、『美少女エルフ』、『お寝坊エルフ』、『気まぐれエルフ』に引き続き、新たな称号が生まれた。

 『食いしん坊エルフ』。

 いや、どっかのラノベかーい‼

 あと、『甘党エルフ』とかかな。

 きれいに平らげた後、

 「レシピ、書いとけよ」と、カナン。

 この世界、新しいレシピにも権利が発生し、使用料が入るらしい。

 でも、『煮る』のみで成立する世界で、試す人なんているはずが無いと言うと、

 「そこがねらい目よ」と、ニヤリ。

 まあ、お任せしよう。

 カナン曰く、人と比べ寿命が長い種族が多いこの世界は、それゆえの安心感というか、向上する気力をなくすらしい。毎日がただ平穏に流れることのみ重要で、冒険を望まないものが多いという。

 料理も然り。煮てしまえば必ず火は通るし、それで安全が担保されている以上変化を望まないところがある。

 この世界が『パンとスープの国』になったのは、そういうわけ。

 なら書き出したって無意味なのではと思っていると、

 「で、それはどうするんじゃ?」と、私が買ってきた卵を指す。

 「ん?これは…」

 スクランブルエッグを作ろうと思っていた(パンに合うよね♡)。

 調理台に近づく私をニアが止める。

 結局作ってもらいました。生はハードルが高そうだから、よく炒りにする。味付けはバターの残りと少々の塩で。

 「ほう、なかなか。」

 「旨いにゃ‼」

 「…」

 エルは無言のままだが、がっつき方が美味しいと言っている。

 パンと一緒に完食した。

 久しぶりのスープ以外の食事に満足して立ち上がると、

 「?」

 エルが服の裾をつかむ。

 「ミサト。」

 「どした?エル?」

 「次の休みも作って。」

 うわぁい。目がマジだ。

 「いやいや。私は料理をすると腕を落とす病気らしいし、ニアがやってくれないと…」

 迫力に負けてしどろもどろで言うと、

 「あ、いいよ。手伝うにゃ」と、ニア。

 ここに、『お料理好き・女子力高め獣人』と、『食いしん坊エルフ(2回目)』が爆誕したよ。

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