第13話 休日異世界散歩(市場編)

 「いっぱい買ったね、2人共。」

 大きな袋を抱えたニアとエル。

 すごく楽しそうで何よりで、いつも無表情のエルの頬まで緩んでいる。

 聞くと2人共、自分の村から出たことがなく、こういった買い物は初めてだったみたい。

 もう、いっぱい買った、洋服ばっかり。

 いや、女の子だなぁ。

 と言うわけで、かろうじて銀貨1枚ずつ残して小遣いを使い切った2人、昼食をとった後私のリクエストの市場を冷やかし、夕方前には寮に帰ろうという事になった。

 朝とは違う食堂。大銅貨7枚とある。

 ランチももちろんパンとスープの食べ放題で(諦めの境地)、ただモーニングと違いパンもスープも3種類ある。

 で、ここで私は結構絶望的なものを見ることとなる。

 「美味しそうにゃ」と、ニアがはしゃいでいたが、パンは普通のコッペパンみたいなものと、トウモロコシその他を練りこんだ雑穀パンみたいなもの、あとは溶けた砂糖がかかっている揚げパンもどきで、こっちは朗報。

 朝の塩パン含め、パンにはそれなりのバリエーションがある。

 スープはミネストローネと(←最近食った😢)クラムチャウダーと…

 『あ‼こっちはまだ1度も食べてない‼よし、クラムチャウダーに…』と皿にセルフでよそっていると、最後の寸胴鍋の中に信じられないものを見た。

 本日のランチスープ3種類目は?

 うわっ、あれ、どうみても果物だよね。

 見た目リンゴとかパインとかバナナで間違いがなさそうな食品が、透明な汁の中で煮られていた。

 ???

 あれ、合うの?

 果物煮るって、ありなの?

 いや、料理によっては火を入れる場合もあるのはわかるけど…

 果物のみで汁物を作るって発想は…

 なしでしょ、やっぱ。

 「それ、美味しいの?」

 ニアが『締め』とばかりに持ってきたから聞いてみると、

 「はい、にゃ」と、スプーンですくって差し出してくる。

 スプーンには透明で温かい水分と、リンゴらしきかけらが見える。

 「…」

 すごく躊躇したが、意を決する。

 「あむっ」と一気に口に入れたが…

 うん、温めたフルーツポンチ。甘い。ギリ食える。

 でも、それ以上ではない。

 って言うか、そのままの方が絶対旨い。

 「果物煮るなよぉ…」

 小さくうめいた私の言葉に、

 「えっ?煮ないで食べるの、ミサトのいたとこ?」

 「火、通さないの?」と、ニアとエルは驚いている。

 そうか、基本『煮る』世界なんだ。

 衛生的観念からか習慣からかは知らないが、全く生食しない人達にいきなりはハードルが高い。

 例えば生卵。

 近年寿司は広まったが、外国の人は苦手だと言うし…

 「よし‼なら焼こう‼」と思い立った。

 スープ地獄脱出のため、焼きリンゴを作ってみよう。

 焼きリンゴくらいなら多分出来る…

 超絶不器用だけど、多分…

 おそらく…

 と、言うわけで、昼食後は2人を付き合わせて市場に行った。

 市場と言ってもやはり商店街レベル。町のある通りが全て食品関係の店で埋まっている。露天商もいる。そんな感じ。

 「これ、いくら?」

 絶対にリンゴな見た目の果物だが、異世界なので断言は出来ない。

 匂いをかいでもやっぱりリンゴだ。

 「それなら大銅貨3枚だ。」

 「1個で?」

 「いやいや、まさか。カゴ1杯でだ。」

 カゴにはリンゴが5個乗っている。

 日本人感覚ではかなり安い。

 あとはバターと、シナモンパウダー、量り売りで砂糖と塩を手に入れて、ついつい目についた卵も買って、結局銀貨1枚(おそらく1000円相当)しか使わなかったな。

 物価は安い世界と思う。

 買い物を終え、余らせた銀貨3枚をポケット内で弄んでいると、

 「節約してる?」とエルが訊いた。

 「ん?別にそうじゃないよ。欲しいものもないし。」

 いや、食材、めっちゃ欲しい。

 スープ以外、めっちゃ食いたい。

 「やっぱり戻りたい?」と訊いたエルが少し寂しそう見えた意味を、この時の私は気づかなかった。

 頭が食欲に支配されてたしね。

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