第11話 ヒールは優しさでできている

 「ただいま…」

 筋肉痛が当日来るくらい、まあ、若くてよかったよ(詭弁)。

 前紡ポップコーンで疲れ果てて部屋に戻ると、

 「うわっ‼どうしたにゃ、ミサト?」

 「大丈夫?」

 ニアとエルも戻っていて、すでに私服に着替えていた。

 カナンの工場は残業0のホワイト経営だが、体が痛くて3階の部屋まで時間がかかった。

 筋肉痛に階段、地獄。

 この冬に汗まみれだし、ボコ(いわゆる綿ごみをそう言います)まみれだし、でも疲れ果てて動きたくないし…

 トコトコと歩み寄ったエルが、

 「クリーン」をかけてくれた。

 魔法、スゴイ。

 瞬間で服の汚れも、汗も埃も消え去ったが、感覚的に納得いかず、

 「取り合えず、先に風呂入ってくるね。ご飯行くなら行ってて」と、重たい体を引きずって大浴場に行こうとすると、

 「大丈夫。時間ある。」

 「うちらも行くにゃ‼」と、2人も付いて来てくれた。

 うん、可愛い。

 みんな一緒♡

 女の子特有の集団行動は異世界でも同じらしい。

 湯船につかりながら考える。

 カナンの優しさで出来ている前紡工場、いや、自分の身が大変だから言うわけじゃないが、もう少し何とかならないものか。

 多分、前紡の生産能力と後紡が釣り合わないから、粗糸、外から仕入れてるよね?

 効率だけじゃないと分かっていても、でも…

 あ、やばい。

 疲れ過ぎて意識が飛びそう…

 うん、ニアもエルもスタイルいいなぁ。人間年齢に直すと、児童と幼児のくせに、ガッツリきれいだ。

 うん…

 うらやましい、なぁ…

 半分沈みかけていたら、トコトコ近づいて来たエルが、

 「ヒール」と呟く。

 瞬間柔らかな感覚。視界の中をキラキラの粒子が舞い飛んで?

 「え?」

 一瞬で疲れが消えた。

 うえ?これって?

 「回復魔法」と、エル。

 最初に思ったのは、風呂に沈んでしまいそうな激しい疲労がすべて抜けて、そんな超常現象を起こしたエルは大丈夫なのかということ。

 疲れは確かにそこにあったはずで、引き取ったわけじゃないよね?

 「えっ‼大丈夫なの、こんな事して?」

 「?」

 「エルは疲れないの?」

 「大丈夫。私は魔力が特に多いし、魔法も得意。でも…」

 「?」

 「これ、使えるってわかると、人族は無茶するから。」

 エルの少ない言葉で推察すると、回復魔法があると知れば人はそればかり頼るようになる。多少の無茶も魔法で解決できるから、危険な仕事をしたり、それこそ寝ないで働いて借金を返そうとする。

 それが心配だと言うことだ。

 しかし、今日あまりに疲れていた私を放っておけなくて…

 うん、優しいいい子だよ、この子は。

 「ありがと、エル。無理はしないから安心して。」

 笑いかけると、

 「ん」と頷く。

 少しだけ口角が上がる。

 大分表情が見えてきたエルだった。


 風呂から上がって食堂に行った。

 はい、皆さん、ご一緒に。

 フ!ラ!ス!ト!レー!ショーン!

 ダメだ、もう無理だ。

 『パンとスープの国』、厳しすぎる。

 敢えて言わなかったそれだけで(逃避)、朝昼晩とパンとスープだ。

 朝はオニオンスープ。よく煮た玉ねぎがトロトロで美味しかった。

 昼はチリコンカーンが1番近い。ピリ辛の豆のスープだ。美味しかったよ。逆にもっと汁気をなくしてくれればチリコンカーンそのもので、目先が変わったかもしれない(スープじゃない認定できたかも?)。

 そして夜は牛テールのスープです♡

 コムタンクッパの米なしで、美味しいよ。

 美味しいけどさ…

 飽きた…飽きたよぉ…

 「この世界のご飯、全部こんな感じなの?」

 2人に聞くと、

 「そう。」

 「でも、ここのご飯、美味しいにゃ。」

 そうか、旨いか…

 いや、旨いよ、確かに。

 でも…

 このフラストレーションは、明日のお休みで晴らそうと思います。

 『街に出たら何かあるかも?』の期待と、『どうせパンとスープなんだろうな』の絶望が交錯しつつ。

 休日が来る。



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